◆新たな本、異質な読書、未知なヨミ
松岡校長の方法にあやかって、ミニ千夜千冊を書く。「セイゴオ知文術」と校長の名前がクレジットされたお題は、[破]の最初の山場だ。[破]はじめの1か月は「5W1H+DO」にはじまり、校長の「文体編集術」6つの方法を学んだところで、それを結集して1冊の本を紹介する「セイゴオ知文術」に結実する。このお題は、アリスとテレス賞というアワードの対象となる。
「セイゴオ知文術」には課題本10冊が指定される。以前は「わたしの好きな本」ということで学衆が選んだ本で書いていたのだが、37[破]以降、課題本10冊から1冊を選んで書いてもらうことにした。そうしたのは、5[破]の校長校話の言葉が、ずっと[破]に響き続けていたからだ。
全体として、まず選本がやさしすぎます。得意なもの、与しやすいものを選びすぎている。気持ちはわかるが、ここはもうちょっと踏ん張って、やや自分にとって新たなものや異質なものや未知のものも選んでほしかった。
このことが気になりつづけていて、ついに「新たなものや異質なものや未知なもの」をお題として示すことに踏み切った。37[破]ではじめて10冊の課題本を提示してから、折々の入れ替えはあった。が、今期49[破]は、思い切って6冊を入れかえた。よりアナロジカルな読書、アブダクティブな創文に向かえるようにと[破]の指導陣が候補をあげ、校長の目を通ったものである。開講1週間前のタイミングで初公開する。ご覧あれ!
『地球にちりばめられて』多和田葉子/講談社文庫
『生命誌とは何か』中村桂子/講談社学術文庫
『虫と歌 市川春子作品集』市川春子/アフタヌーンKC(マンガです)
『数学する身体』森田真生/新潮文庫
『東京プリズン』赤坂真理/河出文庫
『あなたの人生の物語 』テッド・チャン/ハヤカワ文庫 SF
短編集だが表題作「あなたの人生の物語」を課題にする。
以下の4冊は、前期から継続。
『文字逍遥』白川静/平凡社ライブラリー
『椿の海の記』石牟礼道子/河出文庫
『フラジャイル』松岡正剛/ちくま学芸文庫
『悪童日記』アゴタ・クリストフ/ハヤカワepi文庫
前回まで『雪の練習生』が人気だった多和田葉子の作品を『地球にちりばめられて』に変更したところ、全米図書賞翻訳部門の最終候補になったというニュースが入ってきた。世界的にも注目の新しい青春小説だ。分子生物学や生命科学とは別様の「生命誌」とは? 500ページ超えで歴史的現在に立つ『東京プリズン』など、知りたい、読みたい新たな6冊。そして、汲めども尽きぬ豊饒さを秘めた名著4冊が、49[破]学衆を待つ。
◆49[破]師範代は共読ミーティングで準備に余念なし
10月8日(土)の晩、49[破]の師範代、師範、評匠、番匠がオンラインの共読ミーティングに集合した。師範たちは、師範代のために指南の備えになる資料を作成。熟読するなかで、見えてきたのは、一筋縄でいかぬ多様なヨミを誘う本ばかりであること、互いに通底するような編集的世界観を含んでいることであった。時空をやすやすと行き来する著者の柔軟さ、ロジカルであり同時にアナロジカルであること。それは生命や数学という科学の研究者も、小説家もマンガ家もかわらない。
長年、編集学校に親しんできた師範たちが選ぶ本は、どこか校長の世界観を映しているものであるのは当然として、こういった世界観をもつ著作をいくつも並べて語れるということが嬉しい発見であった。師範、評匠の課題本語りに応えて、師範代もすでに入手して読んだ本の印象を語る。「気持ち悪かったという初読の印象も大事」「SFはルル3条の組み換えに注目」「テーマの是非に行かないように」などさっそく読後のQの立て方にもアドバイスが入る。
「セイゴオ知文術」は書くだけのお題ではない。本の読み方の稽古でもあるのだ。ふだんは手に取らない未知な本を、[破]の稽古をチャンスにして一緒に読んでみようよ、というものだ。毎期、自分は本を読んでいない、読書は苦手なんです、という学衆が何人もいるが、セイゴオ知文術の感想をきくと必ず「この本を読んでよかった」と返ってくる。この1冊で読書体験が変わる、いままで知らなかった世界の扉が開かれる。
[破]を受講する方々は、気になった本をいくつでも手に取って開いてみてほしい。そこから読書はスタートしている。「セイゴオ知文術」が出題されるのは開講2週間後だが、すぐに読み始めてかまわない。この10冊のどれもが、[破]が目指してゆきたいハイパー感や、校長のいう「よくよく練られた逸脱」を感じされてくれるはず。いまだかつて覚えのない「感じ」を言葉にするのが「セイゴオ知文術」の醍醐味だ。
本を読んで、書く、それだけで人生が変わるかもしれない。
49[破]に滑り込みされたし。
原田淳子
編集的先達:若桑みどり。姿勢が良すぎる、筋が通りすぎている破二代目学匠。優雅な音楽や舞台には恋慕を、高貴な文章や言葉に敬意を。かつて仕事で世にでる新刊すべてに目を通していた言語明晰な編集目利き。
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