ハンノキの葉のうえで、総身を白い菌に侵されて命を終えていたキハダケンモンの幼虫。見なかったことにしてしまいたくなるこんな存在も、アングルを変えてレンズを向けてみると、メルヘン世界の住人に様変わりする。
Z世代にとって「おじさんを感じる」という顔文字。
けれどそんな顔文字は、世界のemojiの、またLINEのスタンプコミュニケーションの生みの親だ。その表情を豊かに広げた日本語の持つ全角、2バイト文字という属性の源泉は、「形が意味を持つ漢字」にさかのぼる。
ヒエログリフや楔形文字をはじめとする古代に生まれた文字たちは、いずれも象形文字、すなわち形が意味を持つものだった。これらが相次いで滅ぶ中、今なお意味を膨らませ続ける希少な文字が、私たち日本人が日々触れる漢字だ。
中国文学者、白川静氏はこの漢字を「時空の方舟」と呼んだ。背後にたゆたう、文字が生まれる以前のことばの時代の記憶を現在まで脈々と運び継ぐカタチ。『白川静』(松岡正剛著)の中から、そんな小さな意味の方舟たちのいくつかに光を当ててみよう。
人間の姿勢をあらわす「人」という文字は、大事な火を頭の上に掲げると「光」になる。また、その「人」の上に足のようなものをつけると「先」となる。これは、邪霊をはらうために自分たちより先をすすむ人を指す文字だった。
これだけでも、漢字の意味≒形が、当時の文化や儀礼、また共同体という社会における秩序や文脈をそのまま継承するところに始まっていることの片鱗が感じられるのではないだろうか。表意文字は、文字自身がその素性を語りたがり、力を果たそうとし続けているのだ。
時空を越える漢字は海を渡り、日本へとたどり着く。白川氏は、日本の文字の歴史は、国語の表現の中で統治するだけでなく、国語では表現できないようなところを加えるようなものだったと振り返り、こう語る。
だから日本における文字は、本来の役割以上の働きをしている。それは一 つには日本人が、表現の上に一種の遊びの心をもっておった、事実を表現するだけでなく、その余韻を楽しむ、「あはれ」「をかしさ」というようなものを余分に表現しようとする、そういう表現以上のものを求める手段として、漢字を非常に上手に使っているのです。
白川静『文字講話Ⅳ』
文字の形≒意味に国語の音をあて、音からさらに文字の意味を広げる「国語化」という一大プロジェクトの中心には、表しきれない「余分」をもあらわそうとする遊び心があったのだ。
現在開講中の[守]ではまさに今日、漢字の組み合わせに遊ぶお題が幕を開けた。《一種合成》という編集の型をつかい、お題となる漢字に自由な漢字を組み合わせて新たな熟語をつくるお題だ。
たとえば、こんなふうに。
例)横+口=横口(ウワサ話)
例)綿+客=綿客(タンポポ)
横、綿。いずれも小学校で習う常用漢字だが、はらむ懐は広く、深い。組み合わせられた文字同士は互いに「余分」を重ね合い、意味の可能性を広げる。日常的な使いみちはもちろん、遠く本来の記憶や意味をたどり、その形が届けるメッセージを探求する冒険が始まった。
51期の[守]学衆156名から実る、彩り豊かな積み荷たちを、方舟が待ち構える。
稲垣景子
編集的先達:小林賢太郎。季節なら夏、花なら向日葵、動物なら柴犬。プロ野球ならドラフト1位でいきなり二桁勝利。周りまで明るくする輝きと愛嬌、ガッツとエネルギーをもち、ボルダリングからラクロスまでをこなす。東大からウェディングプランナー、ITベンチャーへの転身も軽やかにこなす出来すぎる師範。
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2026-02-10
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2026-02-05
誰にでも必ず訪れる最期の日。
それが、どのような形で訪れるかはわからないが、一番ありえそうなパターンの一つが終末介護病棟での最期じゃないだろうか。沖田×華先生と言えば、自虐ネタのエッセイマンガでよく知られるが、物語作家としても超一流だった。深く死に向き合いたい方は、是非ご一読を。
(沖田×華『お別れホスピタル』)
2026-02-03
鋸鍬形、犀兜、鰹象虫、乳母玉虫、碁石蜆、姫蛇の目、漣雀、星枯葉、舞妓虎蛾、雛鯱、韋駄天茶立、鶏冠軍配、鶉亀虫。見立ては、得体の知れないものたちを、手近に引き寄せたり、風雅に遊ばせることの糸口にもなる。