編集稽古の“共攀”カンケイ――51[守]学衆×師範×数奇

2023/09/22(金)20:30
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ボルダリングは全身で遊ぶ編集稽古だ!という稲垣師範の記事を読み、ボルダリング数寄なら僕も!と声を挙げた51[守]学衆がいた。天文学を学ぶ大学院生、北川周哉さんだ。松岡校長の千夜千冊に「今後の読書道を導く」と感銘を受け、さらに「俺の編集力チェック」の指南で思考を読み解かれる感覚に驚いて即入門。北川さんの[守]の稽古ぶりを見守った尾島可奈子師範は「教室で起こっている出来事も引き受けて、文脈を編み直していた」と評価する。

すべてのお題を駆け抜けたばかりの学衆たちと、「51[守]学衆×師範×数奇」をテーマに特別対談をお送りする。第一弾は、東雲シナジー教室 北川さん×稲垣師範×ボルダリングだ。


 

北川:稲垣師範はボルダリングをオノマトペで編集する記事を書いていましたが、登りながらオノマトペをイメージしているんですか?

 

稲垣:登る最中より、壁を観察しているときにオノマトペが動きますね。ボルダリングでは、壁やホールドに合わせて自分の身体の形や動きを多様に変えていく、つまり課題に自分が編集されますよね。壁と自分とが関わり合ったときに、どんな感覚になるとこの課題はスルッと登れるんだろう?をイメージするのに、感覚的だけど掴みやすいオノマトペはとてもしっくりくるんです。この捉え方を編集稽古にフィードバックすると、自分が情報を編集するのではなく、自分も情報に編集されている。常に相互なんだと感じられるようになりました。
北川さんは、編集稽古とボルダリングに共通点を感じることはありましたか?

 

 

北川:「共読が大事」はどちらも一緒ですね。ボルダリングでも、自分が登れなかった課題を登っている他の人の動きを見ることがよくあります。上手い人が登ると難しい課題も簡単そうに見える、と言いますが、上手い人の登り方を観察すると自分の認識が「できない」から「できる」に変わるんです。そうすると、登れる道筋が見えてくる。いざ登るときは一人ですが、その場にいる人達と一緒に登っている感覚があります。逆に、何も考えずに登れた課題が、他の人を見たり考え始めたら登れなくなったりすることもありますね。

 

稲垣:他の人の登る姿から、自分の登り方のイメージを再編集する感覚、よくわかります。編集稽古でも教室の他の人の回答をよく共読されていたんですね。自分だけで学ぶのとは何が違いましたか?

 

北川:連想の広がり方が大きく違う、と感じました。自分だけの連想には限りがありますが、Nさんは情報をやわらかく捉えるのが得意、Tさんは見立てるのが得意、みたいに、他の人は自分にない強みを持っています。「もしこの人だったらどう考えるんだろう?」と考えてみることが増えました。自分にない強みを持っている人と同じ回答にたどり着いたときは嬉しかったですね。

 

稲垣:真似てみよう、とトライしたことが体現できた実感、嬉しいですね!私はイメージした通りに登れないことを通じて、自分の身体に対してよく「自分のモノではなさ」のようなことを感じます。思い通りに登れる、とか、思った通りに書ける、とか思っているうちは自分が固まっていて編集できない。編集稽古でもボルダリングでも、多種多様なお題がやってきますが、北川さんはどんな「お題」が好きですか?

 

北川:ボルダリングでは、アクロバティックにジャンプしたり走って飛びついたりするような課題が好きです。編集稽古で思い切り飛んだのは、ひとつの新聞記事を様々なモードで書き換えるお題でした。野球の記事を選んだんですが、実況中継っぽくしてみたり、専門用語満載の学者調にしてみたり、アクロバティックに楽しみましたね。参考文献の『文体練習』を読んで、モード編集ってこんなに遊んでいいんだ!と気付いたのが飛躍の転換点でした。

 

稲垣:やっぱり、登り方と編集稽古の遊び方ってどこか似てくるんですね(笑)。次は[破]に進むことも決めた北川さん、どんなことを期待していますか?

 

北川:打ちのめされること、ですね。守破離の「破」なので、きっとお題もレベルアップすると思うんです。でも、ボルダリングもチャレンジして、チャレンジして、何度も落とされながら立ち向かっていくように、わからないぐらいが楽しいんですよね。実は[離]まで進みたいなと考えていますが、まずは[破]。難易度が「期待以上であること」を期待しています。

 

稲垣:登れそうな課題なんてつまらない!ボルダーらしい力強い期待ですね。破に期待以上が待っているのは太鼓判です。さらに[離]は、もはや断崖絶壁。守で実感した「まねびの編集力」というチョーク(滑り止め)を懐に、これからもとことんの登攀を楽しんでください!

 

 


●対談を終えて

登れないから楽しい。挑戦と失敗を繰り返し、上手のムーブに真似び、ギリギリの課題を攻める背中に「ガンバ!」と声をかけ、完登には「ナイス!」とグータッチでともに喜ぶボルダー仕草が、生き生きと教室で飛び回る北川さんの姿に重なった。仲間の回答を共読し、師範代の指南を胸にお題を登り切った教室には、しなやかな「共攀(キョウハン)」カンケイが結ばれていることだろう。

 

難しいからそそられるのか、険しさにくじけるのか。対話にじっくり耳を傾けた尾島師範は、「お題化」できるかが分水嶺だと切り込んだ。よくない、解決すべき「課題」か、自分が取り組むにふさわしい「お題」か、目の前の壁と自分の間に起こるインタースコアがその違いを決める。51[守]を駆け抜けた学衆たちはもう、ものさしを持ちかえどんなことも「お題化」できるはずだ。10月16日から、51[破]が幕を開ける。迷うなら飛びつこう。あなたに解かれるべき「お題」が、待っている。


 

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日程:2023年10月16日(月)~2024年2月11日(日)
詳細・申込:https://es.isis.ne.jp/course/ha

 

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日程:2023年10月30日(月)~2024年2月11日(日)
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  • 稲垣景子

    編集的先達:小林賢太郎。季節なら夏、花なら向日葵、動物なら柴犬。プロ野球ならドラフト1位でいきなり二桁勝利。周りまで明るくする輝きと愛嬌、ガッツとエネルギーをもち、ボルダリングからラクロスまでをこなす。東大からウェディングプランナー、ITベンチャーへの転身も軽やかにこなす出来すぎる師範。

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