5月中旬に開催されたG7広島サミット。現代日本のリーダーシップが問われたグローバルイベントであったが、唯一の被爆国として平和な世界へと導くための説得力あるメッセージを世界へ伝えることができていない。これは方法の不足によるものだ。私たちが肖るべき方法の型は現代にあるものへ注目しがちだが、明治時代以前の日本にも隠されていることに気づくべきである。
明治から昭和初期にかけて、大日本帝国形成期からその終焉まで「方法日本」を支えた編集的先達として幸田露伴(1867~1947)が挙げられる。彼が考究した「編集としての日本」を読む機会が編集学校にある。4月にスタートした輪読座だ。前回の第一輪の最後で示された宿題に対する発表が今日5月28日の第二輪冒頭で行われた。受講者である座衆2名と、講師役である輪読師・高橋秀元の交し合いを今回レポートする。
座衆Mの発表が始まった。露伴が文名を得た『風流仏』で描かれた仏師が、森羅万象の真実のすがたを知る仏へと至る段階「十如是」の章立ての順番に注目した。十如是と十界が対応していることを確認し、順番を変える概念工事が行われたことに気づく。ここで高橋は、露伴が「風流仏」を分節化し、「風流」へと意図の視点を移動していったことを補足する。宗教的な観点から仏になるためだけの物語に留まらず、日本での創造性の発生へと概念を拡張していったのだ。順番変更することで、隠されていたものが見えてくることがあると高橋は強調した。
座衆Hからの発表もあり、若き露伴が北海道の与市郡に行って得た恋愛的な三角関係に対する新しい見方を示した。『風流仏』は2人の男性の片方を選択する物語ではなく、どちらの関係も将来に活かすという方法を強調した。決して欲張りなのではない。別作品『一刹那』と『風流仏』の執筆を行き来しつつ、維新前までの日本の良さを物語に散りばめる編集的意図があったのではないかと推測する。
座衆Hの説明を受けた高橋は日本の真価を世界に波及させる願望が露伴にあったことを指摘する。具体例として露伴の妹2人について語り始める。彼女たちは西洋音楽を学んだが、幼い頃から稽古した長唄や箏曲の達人という一面があり、ヨーロッパ人たちを驚愕させたエピソードを持つ。日本人の感覚が世界に影響を与える可能性があるのだ。現代日本人も自分たちの文化に世界に誇れる方法がある、と自覚すべきである。
高橋から第二輪で学ぶ『風流魔』との接続に向けた補足説明もあった。明治時代以降の近代では集団や国家が圧倒的に優越し、個人の力が弱い時代が続いている。用意されたものを選ぶことはできるが、自分自身で何かできることがなく、創造性のない時代だ。個人個人の編集力の底上げが露伴の課題だったのだ。『風流仏』を執筆途中の露伴が身を寄せた組織として「根岸党」があった。編集学校の遠い祖先と呼べるような存在、と高橋は指摘する。学校に行ったことのない年配の絵描きや評論家など、あらゆるジャンルの党員による編集遊びが行われた。若き露伴は党員たち付き合いながら『風流仏』における「十如是」の順序を見直し、概念工事を実践していたことが明かされる。露伴作品は21世紀を生きる個人としての私たちの行動を編集する指針となるのだ。
次回の第三輪は6月25日(日)。輪読座ではアーカイブによる視聴がいつでも可能だ。門戸は常時、誰にでも開かれている。コチラをクリック。
畑本ヒロノブ
編集的先達:エドワード・ワディ・サイード。あらゆるイシスのイベントやブックフェアに出張先からも現れる次世代編集ロボ畑本。モンスターになりたい、博覧強記になりたいと公言して、自らの編集機械のメンテナンスに日々余念がない。電機業界から建設業界へ転身した土木系エンジニア。
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