型をお守りに、物語へ出る──51[破]伝習座レポート

2023/12/17(日)18:00
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 第100回、記念すべき箱根駅伝がやってくる。史上初・2季連続の3冠を狙う駒大か、いや今年好調な青学の再びのリベンジか、エントリーされた選手たちの名前からも胸の高鳴りが聞こえてくるようだ。

 

 応用コース[破]が今まさにさしかかっている物語編集術も、全6題の区間を継いでタスキを渡すように物語作品を仕上げる道のりであり、終盤には天下の険もかくやという急坂登りが待っている。

 約1ヶ月をかけ、1本の映画からまるで別様の物語を生み出す鍵となる《翻案》は、破学衆のみならず師範代たちにも大きな飛躍が求められる難題だ。過日行われた51期[破]の伝習座では、翻案への心もとなさと決意がにじむ師範代へ向けて、野嶋真帆番匠の「乗りかえ・持ちかえ・着がえを起こす」レクチャーが行われた。

 

 

乗りかえ:情報を乗せる場を変える(メディア、フィルター、地と図の地など)

持ちかえ:持っているものを組み替える(ツール、要素など)

着がえ :スタイルやモードを変える(文体、様相)

 

 物語の構造を読み取り、この三位一体で読み替えることで、一から物語を創作するよりよほど“ぶっ飛んだ”作品を生み出すのが物語編集術の力だ、と語る。

 

 構造とはどういうものだったろう。一つのものを作り上げる部分部分の組み合わせや仕組み、さらには部分同士の関わり合いによって互いに及ぼしている影響の丸ごとを指す。部分と部分の関係が、構造なのだ。

 単純化した物語に照らせば、桃太郎はおじいさん・おばあさんから恩を受けて育ち、育った村を荒らす鬼退治を決意し、もらったきび団子を譲ることで仲間の協力を得て、生まれ持った勇気とともに鬼に立ち向かい、財宝を村へ持ち帰る。物語の要素である登場人物たちもそれぞれに多様な要素・機能・属性をまとい、それらが関わり合うことで物語が運ばれることがわかる。

 

 では構造を「読み替え」る、とは。レクチャーでは、家を例にとる。古代ローマの石材や石灰を固めた素材を中心とする頑丈な家、直射日光の暑さと湿気をしのぐ東南アジアの高床式住居、極寒の中で狩猟生活を営むアラスカのイグルー(雪の家)。さらに蟻の巣は、ビーバーのダムは、熱帯魚のサンゴ礁はどうだろう。文字通り《地》を乗り換えれば、家の姿は様変わりする。だからこそこれらを横断して見ることで、「家なるもの」、家という言葉の意味するものが浮かび上がる。

 先の「構造」を知るには、単なる柱・壁・屋根という部品の素材と組み合わせに限らず、住む人の特性やありよう、暮らすという行為を考え、それらの関係をすくい上げねばならない。その関係≒骨格を手に、新たな地に乗せ換えて血肉を再生していくことが、読み替えという方法だ。

 原田淳子学匠が「決定版」と太鼓判を押した野嶋番匠のレクチャーが進むにつれ、師範代たちの目の光が増してゆく。《翻案》への心もとなさの雲を、やわらかく、けれど確かな力強さで吹き流すような語りが響き渡っていた。

 

 

 野嶋番匠から読み替えの骨法を手渡された師範代たちは、レクチャーに続き、物語の超部分である登場人物たちのらしさをつかむワークに向かう。ナビゲーターの戸田由香師範は、伝習座の事前お題へのフィードバックをワークの手前に差し入れた。濃密な講義と振り返りを受けてのディスカッションだ。

 

「ダース・ベイダーの表と裏の両面を読み取ると何が見えるのか」

「もし会社の中にダースベイダーがいたらどんな存在?」

「もしダースベイダーが車になったら車種は何?」

 

 

 要素・機能・属性を分けて集めたり、表と裏の二点分岐で特徴を捉えたり、《地》を置き換えたり、奥底に揺らぐアーキタイプを手探りすることで、キャラクターが意味単位のネットワークと化していく。声や身ぶりに熱を込める師範代たちの発表に、福田容子番匠の檄が飛んだ。「今の発表内容は、アーキタイプからプロトタイプにスライドしてるでしょう。もっと使ってる型に自覚的になって」。さっと走る緊張感の中、ワークで交わされた思考が急速に遡られる。型によって情報を動かし・取り出し、さらに取り出した情報から型を確かめ直す。「行ったり来たり工学」たる編集工学における「振り返り」の意味が改めて浮き彫りになった。

 

 ワークのお題で問われた《らしさ》をはじめ、発表で語られたのはすべて基本コース[守]の方法だ。その上、野嶋番匠のレクチャータイトル「乗りかえ・持ちかえ・着がえ」は守の開講初日のメッセージに込められるものだった。

 「型を守って型に着き」を越えた破学衆・師範代にとって、守の型はまさにお守りであり、懐刀。覚束なく手に取った刃を振るい続け、一体となって世界と向き合うのが破の道のりであるだろう。物語という新たな世界や、さしかかるお題に応じてやわらかく変化する型へと出ていくために、師範代一人ひとりの懐で、大いに研がれた刀が今夜も光る。


  • 稲垣景子

    編集的先達:小林賢太郎。季節なら夏、花なら向日葵、動物なら柴犬。プロ野球ならドラフト1位でいきなり二桁勝利。周りまで明るくする輝きと愛嬌、ガッツとエネルギーをもち、ボルダリングからラクロスまでをこなす。東大からウェディングプランナー、ITベンチャーへの転身も軽やかにこなす出来すぎる師範。

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