51[守]では<番選ボードレール>が始まり、各教室では、師範代の「仮留め上等!」という声が響いています。
未完成の回答を出していい。そんなふうに背中を押してくるけれど、でも……。多くの学衆は、まだそのことに戸惑っているようです。そうですよね、「仮留め」を見せるなんて、練習風景を覗かれているようです。
ではなぜ、イシス編集学校では、秘伝のごとく、「仮留め上等!」の言葉を口にし続けているのでしょうか。
実は、約700年前に、吉田兼好が理由を指し示してくれています。
松岡正剛校長が、言葉のチューインガムのように何度も噛むという『徒然草』の一節です。
能をつかんとする人、「よくせざらんほどは、なまじひに人に知られじ。うちうちよく習ひ得て、さし出でたらんこそ、いと心にくからめ」と常に言ふめれど、かく言ふ人、一芸も習ひ得うることなし。いまだ堅固かたほなるより、上手の中にまじりて、毀(そし)り笑はるるにも恥ぢず、つれなく過ぎて嗜む人、天性その骨なけれども、道になづまず、みだりにせずして年を送れば、堪能(かんのう)の嗜まざるよりは、終(つひ)に上手の位にいたり、徳たけ、人に許されて、双(ならび)なき名を得る事なり。(第一五〇段)
意訳してみましょう。
何かを身につけようとする人が、「下手なうちは、人に知られるのは恥ずかしい。こっそり練習して上達してから披露しよう」と口にする。よくあることです。だって未完成を人に晒すなんて恥ずかしいですものね。
ですが吉田兼好は、こういう人に手厳しい。「下手なうちは~」と口にする人は何も習得できないと断言するのです。ではどうすればいいか。未熟なうちから、上手の中に混じって、笑われてもめげずに稽古に励む。そうやって稽古に励んでいれば、最終的には、その人の能力にかかわらず、大成する。こういうのです。
鎌倉時代の人も、「下手なうちは、人に知られるのは恥ずかしい」と思っていたということです。みんな同じですね。でもそれでいいの? それじゃ学べないし、変われないよ? と吉田兼好は看破しました。じゃあどうするか、ということを『徒然草』に書いたのですね。
恥と思わず、未熟な姿を見せよ。兼好さん、いいこといいますな。
第一五〇段には、続きがあります。
天下のものの上手といへども、始めは不堪(ふかん)の聞えもあり、無下の瑕瑾(かきん)もありき。されども、その人、道の掟正しく、これを重くして、放埒(はうらつ)せざれば、世の博士にて、万人の師となる事、諸道かはるべからず。(第一五〇段・完)
世に一流と言われる人でも、はじめは「ド」がつく下手でした。しかし、「仮留め上等!」で、磨きながらちょっとずつ前に進んでいったら、誰もが「万人の師」となれる。
これぞ「仮留め上等!」の極意です。稽古(回答)を繰り返しながら、その場に立ち止まらず、満足せず、前へ前へと進んでいくということです。その先には……
吉田兼好の約700年前の提言に、さあ、51[守]の学衆諸君も、乗っかってみませんか?
角山祥道
編集的先達:藤井聡太。「松岡正剛と同じ土俵に立つ」と宣言。花伝所では常に先頭を走り感門では代表挨拶。師範代登板と同時にエディストで連載を始めた前代未聞のプロライター。ISISをさらに複雑系(うずうず)にする異端児。角山が指南する「俺の編集力チェック(無料)」受付中(左のQRコードからどうぞ)
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