鳥は美味しいリンゴを知っている。リンゴに鳥が突っついた穴がある。よってこのリンゴは美味しい。
──「これは美味しいから」といただいた農家さんからのオマケ。切れば甘味成分ソルビトールが沁みていた。覗いてみたくなる世界は尽きない。
イシス編集学校の校長・松岡正剛が、編集工学において、「方法日本」と並んで大切にしていた方法。その一つが「物語」であり、この物語の方法を存分に浴びることができる場が、イシス編集学校の[遊]物語講座である。
「偶然を必然にする。これが編集の基本である。
情報を動的にする。これが編集の骨法である。」
イシス編集学校の数ある講座の中でも、この2つが実感でき、方法として体得できるのは「物語講座」しかない。
こう断言するのが編集工学研究所の吉村堅樹林頭である。吉村林頭は「イシスの講座の中で最も面白い」と、物語講座を絶賛している。
そもそも、物語にはどのような力があるのだろうか。吉村林頭は「記憶を継承していく力」や「死と再生の力」を挙げた。
古代ギリシアではホメロスの言葉を吟遊詩人(ラプソード)が語り継ぎ、日本でも盲目の琵琶法師が、「平家物語」で平家一門の栄枯盛衰や戦乱の生死をめぐる物語を継承してきた。
物語の力は、作品としての「物語」だけに宿るのではない。「物語ること」そのものにも力がある。例えば、自身の挫折体験を成長物語として語り直したり、戦争経験などのトラウマを語ること。こうした物語り行為自体が癒しの行為となっている。
1990年から1993年に松岡校長が取り組んだ「The OPERA Project」は、こうした、物語の力を編集するプロジェクトであった。その成果がイシス編集学校でおなじみの物語マザーや、物語5要素などにつながった。
エディストで連載の「編集用語辞典」(ライター:丸洋子さん)では、編集工学におけるキー概念ひとつとして「物語編集力」を取りあげられている。
このような物語の編集として方法化させたものが、物語講座で体験できる「3つの骨法」である。「窯変三譚」「トリガー・クエスト」「編伝1910」とそれぞれ名付けられた編集稽古プログラムだ。
以下、それぞれのプログラムの概要と方法のポイントを紹介する。
窯変とは、陶芸において、焼成中に偶然に生じる色や模様の変化を意味する。この偶然を取り込むことこそ、予期せぬ面白い器模様の秘訣である。
「窯変三譚」でも、この方法に肖って講座が進行する。受講者は、手元に届く朝刊から気になった記事をひとつ選び、短い物語をつくる。これが、窯変前の物語の「素焼き」となる。次の「三譚」とある通り、素焼きの物語を「窯変」させ、3つの物語をつくっていく。
江戸時代に庶民の娯楽として発展した「落語」。落語家が扇と手ぬぐいだけで演じ分けながら展開するユーモア(笑い)が特徴である。
ここでは、落語の醍醐味であり器の色模様を、対話でズラして大事なことを忘れてオチをつけていく。この「対話のズレ」が落語の器のユニークネスとなる。
ミステリーにおける偶然は「だれが」「いつ」「どこで」「どのように」のいずれかをあえて「伏せる」こと。それをいかに「開けて」いくかがミステリーらしさの鍵となる。
幼な心では「大人になって忘れてきたこと」を持ち込むことがポイント。小さな頃に、どのようなことに心動かされ、大人の発言に違和感をもち、未知への冒険に遊んでいたか。大人になったいま置いてけぼりにしてしまった「ほか」や「べつ」が器の色や模様となっていく。
以上の3種類の物語を1週間で1本仕上げていく。このスピードも、編集を加速させる物語講座の特徴のひとつである。
トリガー・クエストで、受講者は、師範から投げ込まれる「偶然」をクエストのようにクリアしながら一本の物語を完成させていく。RPGではプレイヤーの思い通りには冒険は決して進んで行かない。トリガー・クエストも同様である。
例えば、せっかくいい感じに書き進めていた物語に「悪役を入れてください」とロールの追加が入ったり、お気に入りの主人公ができたと思ったら「主人公を殺してください」となったり、そもそものワールドモデルを「中世ヨーロッパから平安時代の日本に変えてください」と言ったクエストが容赦なく降ってくる。
この「意図された偶然」こそ物語の秘法であり、編集工学で大切なフレーズである「編集は、偶然を必然にすることである」を、物語で実践していく。
物語講座最後のプログラムは「編伝1910」。1910年の前後10年(1900-1920年)について『情報の歴史』に記載のある人物を選び、12,000字の物語として編み上げる。20年に登場する人物は西田幾多郎、チャップリン、南方熊楠、ホワイトヘッド、ルーズベルト、柳宗悦、チェーホフ、マーラー、小泉八雲などなど様々。選んだ人物の生涯を、当時の人間模様や時代背景を含めて情報収集した上で書く点では「評伝」と似ているが、編伝では、収集した情報を基に新たな物語を組み立てていくのが特徴である。
以上のように、濃密で高速な物語講座。最大限に満喫する秘訣はあるのだろうか。吉村林頭は「イシスのあらゆる講座を受けた後に受けること」を推奨する。
「守破離などの講座でいろんな型や世界知を身につけてから物語講座を受講する。そうすると、身につけた方法を総動員して物語としてリプリゼンテーションできる。」「稽古のプロセスを重視するイシス編集学校の中で、物語という一つのメディアの「仕上げ」を大切にしているのも物語講座の面白さの一つ」と講座の魅力とともに語った。
編集には、新しい価値や意味をつくり、物事を動的にする力がある。物語の力も同様に、世界をつくり、情報を動かしていく力がある。編集の真髄に迫りたい方は、ぜひ物語講座へ。次回は、2025年秋に開講予定である。
上杉公志
編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。
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