宮谷一彦といえば、超絶技巧の旗手として名を馳せた人だが、物語作家としては今ひとつ見くびられていたのではないか。
『とうきょう屠民エレジー』は、都会の片隅でひっそり生きている中年の悲哀を描き切り、とにかくシブイ。劇画の一つの到達点と言えるだろう。一読をおススメしたい(…ところだが、入手困難なのがちょっと残念)。

山下雅弘師範代は、生粋のメディア人である。
30年を超える新聞記者としての経験を武器に、50[守][破]師範代を全うした山下は、今期「百禁タイムズ教室」という教室名を引っさげ、再登板に挑んだ。一日1つ禁を破り「百禁」を越えることをめざし踏み出した55[守]師範代の日々は山下をどう変えたのか。感門之盟の休憩時間、一息入れている山下をつかまえて聞いてみた。
ーー前回登板時から意識して変えたことは?
山下 編集学校の師範代として、学衆の回答にある目立たないこと、小さな出来事、ちょっと変わったこと、そういったものを切り捨てないで、方法で掬って伝えていこうと決めて臨んだ。
ーーなぜそうしようと思ったのですか?
山下 自分が長らく身を置いてきた新聞は、今、世の中で「オールドメディア」と呼ばれ、感度が落ちていると言われている。その理由は、わかりやすさを求め、伝わりづらい細かい部分を削っているから。人を刺激しない内容、万人に嫌われない内容を目指すほど、情報はつまらなくなっていく。自分はもう記者を引退しているのでどうすることもできないが、別の世界でそれに抵抗したいと思った。
ーーそれが「禁」を超えるということ?
山下 そう。やはり編集学校という場に、世の中をわかりやすさに向かわせない、ありきたりに堕ちない可能性があると感じた。これを社会に伝えていく方法もまた編集学校にあるとこの4カ月で確信した。
山下には、先達文庫として『負け組のメディア史 天下無敵 野依秀市伝(佐藤卓己/岩波現代文庫)』が贈られた。明治期から戦後にかけて「言論界の暴れん坊」と呼ばれた野依秀市。その生きざまは、山下が55[守]にかけた想いに重なる。
鈴木康代[守]学匠から先達文庫を受け取る山下雅弘師範代
わかりやすさから距離を取り、資本主義に染まった世の中を問う。記者として長年世の中のさまざまな事象に向き合い続けた山下だからこそ、「世界に編集できないものなど何もない」と編集学校への信頼は深い。
次期は55[破]師範として、わかりやすさに向かう社会に問いを投げかけ続けてくれるだろう。
アイキャッチ/福井千裕
写真/阿久津健
文/森川絢子
森川絢子
編集的先達:花森安治。3年間毎年200人近くの面接をこなす国内金融機関の人事レディ。母と師範と三足の草鞋を履く。編集稽古では肝っ玉と熱い闘志をもつ反面、大多数の前では意外と緊張して真っ白になる一面あり。花伝所代表メッセージでの完全忘却は伝説。
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コメント
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2025-09-18
宮谷一彦といえば、超絶技巧の旗手として名を馳せた人だが、物語作家としては今ひとつ見くびられていたのではないか。
『とうきょう屠民エレジー』は、都会の片隅でひっそり生きている中年の悲哀を描き切り、とにかくシブイ。劇画の一つの到達点と言えるだろう。一読をおススメしたい(…ところだが、入手困難なのがちょっと残念)。
2025-09-16
「忌まわしさ」という文化的なベールの向こう側では、アーティスト顔負けの職人技をふるう蟲たちが、無垢なカーソルの訪れを待っていてくれる。
このゲホウグモには、別口の超能力もあるけれど、それはまたの機会に。
2025-09-09
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豊かさをもたらす贈りものの母型は、私欲を満たすための釣り餌に少し似ている。