新しい教室、新しい先生、新しいクラスメート。新年度がはじまり、あらたな学びの扉を開けた学生たちも多いだろう。イシス編集学校でもこの春は基本コース[守]、応用コース[破]、花伝所、多読ジム、輪読座と続々と講座がスタートする。だがそもそも《編集》ってなんなのか。イシス編集学校はどんなことをする学校なのか。そんな疑問を持った編集学校未入門の方々に、短時間で編集のおもしろさを味わっていただくのが【ISISエディットツアー】である。
第51期[守]基本コースの開講まで約3週間となった本日のエディットツアー(2023年4月15日開催)には、九州、四国、北陸、東海、関東から参加者が集い、2時間たっぷりと遊び感覚の編集ワークを体験した。
いきなりだが、2時間後の参加者の声がこちら:
「編集は、ひとりで何かをすることじゃないんだというのが一番大きな気づき。自分だけではなく他の人が触ったものを一緒に見て『こういう見方もあるよね』と気づく経験を、オンラインなのに体感できたのがおもしろかった」(東京都在住・高島さん)
「なかなか答えが出ずにキーボードを打つ手が止まることもあったが、みなさんの回答を見ているうちにふっ切れたような感じがあり、突然言葉が出てくる瞬間が快感だった」(富山県在住・浅井さん)
たった2時間でいったい何が起こったのか。その様子を遊刊エディスト上でプチ体験していただこう。
イシス編集学校の自己紹介はひと味違う。ナビゲーターの石井梨香はこう切り出した。
「今日は土曜日ですね。土曜日といえば?を思いつくままにZoomのチャット欄に挙げてみてください!」
世界広しといえども、いきなり土曜日について問われる自己紹介というのはなかなかないだろう。
のんびり~♪、掃除、洗濯、寝坊をしても良い日、図書館、自分の時間、カレー、ブラタモリ、主人がいるかもしれない日、週休二日制、吉本新喜劇、山登り、雨が多い気がする、昼寝、散歩……
次々にチャット欄に言葉が届き、土曜日をきっかけにした自己紹介がはじまった。
「5日間忙しく働く平日から一転して気の休まる日」「ワンオペ育児の真っ只中で、もしかしたら夫に子守りを任せられるかもしれない日」「子どもたちのサッカーの試合があったり洗濯をしたりして天気が気になる日」。「週休二日制スタート当時にテレビ番組にインタビューをされた小学生時代」や、「“半ドン”で家に帰ると用意されているお昼ごはんはカレーや焼きそばが定番、午後は図書館に行ったり吉本新喜劇を観にいったあの頃」を語る者までさまざまだ。
土曜日から《連想》したことを語るという編集術を使って、初対面のメンバーであっても一気にその人らしさを感じ取れる愉快な自己紹介だった。
2時間で3つの編集ワークが組まれた今回のエディットツアー。「自分の住んでいる街を漢字一文字に託してください」というのがひとつめのお題だ。参加者は悩みながらも一文字をひねり出す。
千葉県柏市在住の相部さんが挙げたのは「咖」。記憶が食べ物と結びつきやすいという相部さんにとって柏市はカレーの街だという。おすすめのカレー店は「ボンベイ」「ルシアン」。さらにカレー専門店なのに「中華の大島」(!)という魅惑的な名前も飛び出した。「かしわカレー図鑑」というフリーペーパーも出ているということで、柏の「か」はカレーの「か」だったのかと参加者一同、認識をあらたにした。
「中華の大島」のカレーが気になってしかたない…
浅井さんが住む北陸の富山市は路面電車が行き交い、周遊バスが走り、自転車のレンタルも気軽にできるそうだ。80m先のコンビニにも車で行くほどの車社会だった郊外から、コンパクトシティと銘打って狭い範囲で暮らしを楽しめる街中に移り住んだ浅井さんは、富山の街の魅力を「足」とあらわした。
漢字一文字に凝縮することでその街の特徴を伝える。街のイメージを長々とリスト化することもできるが、たった一文字に託して一瞬でイメージを伝える《らしさ》や《見立て》の力を参加者は遊びながら楽しんだ。
続いては「わたしを別の人やものに置き換えてみたとき」に、自分の住む街がどう見えるかを楽しむワーク。さきほどの浅井さんの回答がこちらだ。
「もしもわたしが【浦島太郎】だったら、
わたしの住む街は【竜宮城】だ」
壮大な自然景観、ゆたかな海の幸、そして富山美人。「竜宮城」というピッタリの見立てに参加者から歓声が上がった。
東京の23区内にお住まいの高島さんの回答もおもしろい。
「もしもわたしが【たぬき】だったら、
わたしの住む街は【天国】だ」
都会に住む私たちがゴミだと思っているものが、たぬきには「ごちそう」に見えるかもしれない。立場を変えることで、ゴミの見方が180度変わり、混沌とした都会はパラダイスになった。
「彼らにとってはゴミもおいしいと思っているんじゃないかと思って書きました」
編集学校には《地と図》という編集術がある。ある情報を図柄にたとえて《図》とし、その情報の背景にあたるものを《地》として、どんな情報も《地と図》で成り立っていると考える。《地》を動かすことで《図》のイメージを変えるという、シンプルながら大活躍の編集術なのだ。浦島太郎を《地》にすると富山《図》は「竜宮城」に変わった。たぬきを《地》にするとゴミ《図》は「ごちそう」に、23区《図》は「天国」に変身した。編集術を教わっていなくてもこうした発想はできるが、“意識的”に発想できるようにするのが編集術を学ぶ醍醐味である。
最後のワークは、編集学校の数あるお題の中でも人気が高い「ミメロギア」。あるふたつの言葉を並べ、一対の形容する言葉をつけることで両者の《らしさ》を際立たせる稽古なのだが、これは説明するよりも見て感じていただくのが一番だ。
今回のお題は「あさがお・ひまわり」、参加者から放たれた回答がこちら。
夜明けのあさがお・炎天下のひまわり
ポッとあさがお・バッとひまわり
千代女のあさがお・ゴッホのひまわり
パステルカラーのあさがお・原色のひまわり
うふふのあさがお・がははのひまわり
食べられるあさがお・食べられないひまわり
植木鉢のあさがお・花壇のひまわり
おはようあさがお・こんにちはひまわり
1年生のあさがお・2年生のひまわり
一瞬のあさがお・永遠のひまわり
垣根のあさがお・畑のひまわり
団扇のあさがお・額縁のひまわり
バラバラのあさがお・密集のひまわり
日本のあさがお・ウクライナのひまわり
浴衣のあさがお・ワンピースのひまわり
「うふふ・がはは」と声が聴こえてきたり、「1年生・2年生」と小学生の姿が浮かんだり、「浴衣・ワンピース」と服装に変わったり、自由な発想がとにかく楽しい。チャット欄に書き込まれる他の人の回答を読んで刺激を受け、あらたな発想も生まれていった。
なかでも参加者からうっとり溜め息が漏れたのが、さきほど「たぬきと天国」の回答をされた高島さんのこちらの作品だ。
雨に微笑むあさがお・太陽に笑うひまわり
どうだろうか。「微笑む」「笑う」というわずかなニュアンスの違いに、あさがおとひまわりの《らしさ》を大いに感じるのではないか。あさがおだけ、ひまわりだけを単体で眺めていても見えてこない特徴や《らしさ》が浮かび上がってくるのが、「対」で考える《ミメロギア》という編集術の魅力である。
◆ ◆ ◆
たった2時間の編集ワークでも世界の見方は変わる。だがエディットツアーで体験できるのは、[守]基本コースで学ぶお題のほんの一部にすぎない。38のお題を遊ぶように稽古する15週間で、どこまで見方は変わるのか。
うずうずしてきたら、ぜひ[守]に挑戦を。
▼51[守]はGW明けの5月8日からスタート!参加申し込みはお急ぎください。申込み・詳細は下記のバナーから。
福井千裕
編集的先達:石牟礼道子。遠投クラス一で女子にも告白されたボーイッシュな少女は、ハーレーに跨り野鍛冶に熱中する一途で涙もろくアツい師範代に成長した。日夜、泥にまみれながら未就学児の発達支援とオーガニックカフェ調理のダブルワークと子育てに奔走中。モットーは、仕事ではなくて志事をする。
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