侍ジャパンが野球世界一決定戦であるWBCの準決勝に向けて30℃近いマイアミで調整中のころ、東京・豪徳寺の最高気温は10℃を切っていた。
本楼の外には冷たい雨が降り続けるなか、3年ぶりに学衆も迎えた2023年春の感門之盟では、観測史上もっとも早い桜の開花に呼応するかのように明るく賑やかな場が広がっていた。校長・松岡正剛は、本楼とZoomの先にいる参加者を見つめながらメッセージを語り始めた。
私たちの体の中には、たくさんのリズム振動子がある。例えば心臓は多くの心筋細胞から成り立っていて、それぞれのリズムを刻んでいる。最初バラバラなリズムは、心臓というひとつの組織に向かうことで、リズムが合ってくる。それはまさに、ひとつの教室に偶然に集まった学衆と師範代が、共に稽古を行い、渡される指南を共読し、随伴現象を起こしていく、その動き出しとも重なる。教室の中での事件、外でのイベントを、一緒にやり遂げること、合わせていくことで律走がもたらされる。
幼子は、おとうさん・おかあさん・お花…と目に入ってくる対象を、自分と別のものとして切り分けることができない。物ごころがついていくなかで、自分自身と対象とを、要素や機能や属性などから、社会的に分けることができるようになる。リアルバーチャルをアクチュアリティにかえていく。エディトリアリティとは、本来の生命や生物や幼児が持っているものが、社会化されることで分断され、その分断を受け入れ、さらに分断されたものを取り戻す、その過程なのである。
■校長・松岡は来年80歳
年を取ることは想像していたものと違っていた。編集のバッターボックスに立ち、自分の手が出るところにも出ないところにも、編集的に訓練を行ってきた。しかし、侍ジャパン最年長のダルビッシュ有の球筋が甘くなるように、いろいろやっていても隙間が出てくる。仕組みとして仕上がっていたものが、年齢とともに別のところに離れていく、肉体が仕組みからズレ始める、そんな感覚だ。さらに、自身の動きが遅くなり始めたとしても、他者の動きは細かくゆっくり見えてくる。隙間が見えることが大事なのだ。
めんどくさい校長。それが新たなお役目なのかもしれないと笑いながら、各々がリズム振動子となってエディトリアリティを律走して欲しいと結んだ。おめでとうの言葉と共に伝えられたメッセージは、新しい時代の編集ジャパンを担うイシス編集学校の指導陣・学衆たちの編集むずむず状態をさらに加速させていく。
米田奈穂
編集的先達:穂村弘。滋賀県長浜出身で、伝統芸能を愛する大学図書館司書。教室名の「あやつり近江」は文楽と郷土からとられた。ワークショップの構成力に持ち前の論理構築力を発揮する。
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