松岡正剛の魂「伝説の本屋 『松丸本舗』リターンズ」、君はもう体感したか?(丸善丸の内本店 2/28 までフェア開催)

2025/01/20(月)08:30 img
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松岡正剛氏の追悼フェア「伝説の本屋『松丸本舗』リターンズ」、丸善丸の内本店

「夢か幻か」   福原義春

 

あれは幻だったのか。

東京駅北口の丸善丸の内本店の四階に松岡正剛の魂が呼び寄せられた。

魂は昔在った本屋さんを近未来的に実現することを要求した。

魂はまた、画一的な本棚の中に押し込められるのを嫌った。

魂が本棚のあちこちの座りにくい場所にちょこんと座ったり浮遊したりしていたような気がした。

 

あれは幻だったのか。そうではない。

 

松丸本舗の事件はまもなく幻となる。

だがその記憶は世の中に次の種を残した。

どこでどう発芽することになるか。

まだ誰にも判らない。

『松丸本舗主義 奇跡の本屋、3年間の挑戦。』p.3から引用

 

 

2009年から2012年まで3年間オープンした、松岡正剛校長が手掛けた幻の書店「松丸本舗」には、実に多くの人々が魅せられた。資生堂名誉会長 福原義春氏も、その一人だったに違いない。『松丸本舗主義』に寄せられた福原氏のメッセージは、”それは幻などではなかった。なぜなら、その証として、2010年6月27日の東京新聞に、松丸本舗ロゴ入りエプロンを着けて店内にいる自身の写真が掲載されたからだ” と締めくくられている。福原氏の書斎を再現した本棚も存在した。ご自身も松丸本舗という奇想天外な書店空間を大いに楽しんだことだろう。続きは同書328ページを読まれたい。

 

福原氏をして夢か幻かといわせたその魅惑の本棚空間が、2024年12月26日、丸善丸の内本店によみがえった。松岡校長逝去への追悼企画として、2025年2月28日まで「伝説の本屋 『松丸本舗』リターンズ」(ブックフェア)が、本店3階のミュージアムゾーンで開催されている。

 

フェア実現に奔走された大音美弥子さんにお話を伺った。当時、松丸本舗でブックショップエディター(BSE)をつとめられた姿が『松丸本舗主義』巻頭カラー写真として大きく掲載されている。

 

書籍『松丸本舗主義』大音美弥子さん

『松丸本舗主義』巻頭見開きカラーで掲載された、当時松丸本舗で開催された「共読」の様子

 

今回のフェアで再現されたのは、松丸本舗のなかでも「本殿」と呼ばれていた、求龍堂版千夜千冊全集を再現する棚組だ。イシス編集学校では、昨年9月に「第84回感門之盟 25周年 番期同門祭」が行われ、松丸本舗ブースが展示フロアで展開された。今回のフェアでは、その際にBSE 5人でつくった書籍リストを核として、松岡正剛事務所の寺平賢司さんが千夜千冊に掲載されていない関連図書である通称“枝本”をプラスした。全集7巻のそれぞれから200冊以上が選ばれ、トータルでは1500タイトルほどがそろえられている。

 

また、コーナーの中央にある柱から右側は松岡校長著書コーナーとなっており、全集でいえば“黒本”にあたる書籍が並ぶ。黒本とは、総重量13.0kgにもなる7冊の全集に付随した、黒光りする「書物たちの記譜」と名付けられた1冊の特別巻のこと。その黒本には、松岡の年譜が綴られている。

 

フロアには、当初を再現するかのように、重要な書籍には「Key Book」の赤い帯が巻かれ、校長直筆のグラフィティが飾られている。松丸本舗を訪れたことのある人には懐かしく、初めての方々にも新鮮な驚きを提供する仕掛けだ。

松丸本舗@丸善丸の内本店

 

書店業界に一石を投じたプロジェクトである松丸本舗の再現フェアをつくるにあたり、書籍リストや棚づくりに参加した4人の皆さんからメッセージをいただいた。閉店後に夜を徹して準備したメンバーたちだ。

 

<岡村豊彦さんからのメッセージ>

okamura 松丸本舗の時代はBSEではなく、毎週通う常連客だったのですが、2年前から始めた青熊書店の経験を買われ、棚組みに参加しました。作業は「Key Book」帯を巻くところから始まり、まずは本殿の5巻を担当。『忘れられた日本人』『日本の歴史をよみなおす』『ひかりごけ』どれも松丸本舗で出会った本でした。

 物語講座2綴、6離、14花、25守破師範代という時期で、どうやったら視野を広げられるか悩んだとき、ヒントをもらいに行ったものです。そのとき、迷宮のような棚の並びの中で導きの星になってくれたのが「Key Book」の帯をまとった本でした。1冊1冊帯を巻きながら、誰かの読書の扉を開く、鍵となってくれればと思いました。

(53破評匠、多読アレゴリア「音づれスコア」聴匠・岡村豊彦)

 

<森山智子さんからのメッセージ>

森山さん かつて松丸本舗では不定期に松丸ツアーというのを開催していて、BSEが旗をふりふり松丸本舗の棚の全てをご案内していました。「ほらここ、ご覧ください。松岡正剛直筆のメッセージがかいてありますよ」と、棚に書かれた文字をご案内すると、みなさん本の見え方が一変するんです。お客様の視線を浴びて本たちも嬉しそうで。。例えば5巻の棚には「日本の秘密は、翁童、神仏習合、護法童子・・・」というのが書いてありましたが、役に立ちます!とか〇〇さん大絶賛!といったメッセージの何倍も何重も多様な「問い」が立つというしかけ。今回。松丸本舗リターンズにも出現していますので、是非自分だけの「問い」が誘う本を手にとってくださいね。

(元松丸本舗BSE、多読アレゴリア「着物コンパ倶楽部」部長・森山智子

 

<川田淳子さんからのメッセージ>

川田さん 松丸本舗といえば文脈の棚。千夜千冊で紹介されたキーブックを中心に、意味のつながりが棚の上下斜めに走ります。 たとえば。空海の『三教指帰』の右隣に儒教や道教、インド思想の本が並び、左隣には水銀(丹生)などの鉱物の本が並び、さらに修験道の本がやってくる、とか。そうやって本の並びに意味が生まれ、本棚全体がえもいわれぬ風景、ストーリーを表現してくれるのです。

 キーブックの周辺をそうやって繋ぐ「枝」となる本も、出版状況の変化で、松丸本舗当時とは違ったものもあります。けれど、本の並びが棚に魅力を与えることは変わりません。松丸フェアで、そんな棚の意外な顔に出会ってください。あなたなら、どんなストーリーを見出しますか?

(元松丸本舗BSE・川田淳子)

 

<大音美弥子さんからのメッセージ>

oto miyako たとえば『銀の匙』。2000年4月に千夜千冊31夜にアップされた中勘助の名作は松岡正剛の大のお気に入り。求龍堂版全集で第1巻第1章の冒頭に配置したのは「読書というものの香りがわかる」から、と必読を促している。エディション『少年の憂鬱』1章「失われた時へ」でもプレヴェールや啄木と並んでおとなをどぎまぎさせるために登場する。千夜千冊ファンなら必携の文庫だが、安野光雅のイラストを加えた愛蔵版が2019年に出版され、19世紀末の日本を甦らせていようとは。書店に日々出入りしていないと、こういうことがわからない。愛読書のアップデートや「もどき」の連打など、やっぱり書店、とくに松丸本舗は既知を未知に変えてくれる空間なのだ。

(元松丸本舗BSE、多読アレゴリア冊匠、「終活読書★四門堂」堂守・大音美弥子)

 

 

当時の松丸本舗を撮影した写真や松岡校長の執筆風景、千夜千冊メイキング動画など、映像資料も展示されている。松岡正剛校長の面影を感じたいなら「伝説の本屋 『松丸本舗』リターンズ」へ。Facebook、X、Instagramでも、訪れた方々がそれぞれの感想を綴り始めている様子が見受けられる。話題が広がりつつあるようだ。関東近辺の方々も、遠方の皆様も、期間中に一度はぜひ足を運んでみてほしい。

 

 


  • ●追悼 編集工学者・松岡正剛 伝説の本屋 「松丸本舗」リターンズ 開催

・期間: 2024年12月26日(木) 09:00~2025年02月28日(金) 19:00

・場所:丸善丸の内本店 3階

・特典:お買上げの方には、第一弾「ショッパー(点丸ブクロ)」、第二弾「ブックバンド」を配布するとのこと。(なくなり次第終了)

関連情報:

https://honto.jp/store/news/detail_041000108734.html

https://book-link.jp/media/archives/18779 


 

  • エディスト編集部

    編集的先達:松岡正剛
    「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。