フェチを映像実験する「册影帖 雑品屋セイゴオ」10shot

2022/02/11(金)16:00 img
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 桃色のパパゼリー、果物の匂いがついた香り玉、リカちゃん人形の靴、12色のサクラクーピーペンシル、長い髪の子がいつもしていた編み込み。私の幼少期はそういうものが世界の全てだったように思う。そうであれば幼な心をドライブにしてパパゼリーや香り玉やリカちゃんの靴から世界を語ることもできよう。

 

 「册影帖」第2弾『雑品屋セイゴオ』(春秋社)がセイゴオちゃんねるで公開された。『雑品屋』は1976年〜1981年の間、つまり松岡正剛が32歳〜37歳の頃に「季刊NW-SF」で「スーパーマーケット・セイゴオ」と題して連載していたオブジェ論である。今回の「册影帖」はセイゴオがフェチしてきたオブジェ感覚を映像化する実験でもある。

 

 「册影帖・雑品屋セイゴオ」はこちらからどうぞ 

 

撮影・編集は遊刊エディストでもすっかりお馴染みとなった写真家 川本聖哉さん。本とセイゴオをトレースして、イメージを映像にして作っていくカーボン紙のような男。 

 

本の章立てにもなっている七色の函。川本さんお手製の小さな函には豆本と、妹と写る少年セイゴオが詰まっている。映像内で函たちと戯れている手と手と手は遊刊エディスト編集長 吉村堅樹一家。

 

函は函でもこちらは電気冷蔵庫。銀鱗のアジ二匹と白緑のキャベツとともに、鳥の巣やシダの葉までもが内部空間を埋め尽くす。こうして編集工学研究所の冷蔵庫は数日間、川本さんのZESTに占拠されたのである。

 

エディスト編集長が手タレになれば、副編集長 金宗代は声で役者する。「看護婦さん、それ、やめないんで欲しいんです」。ちょうどこのオブジェ論を連載していた当時のセイゴオと同年代の男。朗読は総匠 太田香保も細かくチェックを入れる。

 

『雑品屋セイゴオ』の画・ブックデザインを担当した菊地慶矩さんも特別出演。一瞬のためらいもなく画を高速で切り絵していく。美しいカッター捌きは動画でご堪能ください。

 

切り絵のような影絵となった炭男・松岡正剛。めくるめく活字フェチの著者が手にしている本はもちろん『雑品屋セイゴオ』である。

 

スクリーンの裏側をチラリ。川本さんの照明使いによって、ゆらゆらゆらゆら、ファンタジックに影が揺らめく。

 

おまけのショット。セイゴオちゃんのアルバムから写真をセレクト。お父さんが撮影したという幼な子の写真はいずれも構図が素晴らしい。

 

撮影後記(朗読 金宗代)

 朗読のMディレクションが急遽決まったのは年末年始のこと。ぼくにとっては松岡正剛直伝「世界読書奥義伝」第二弾”意身伝心篇”とでもいうべきもので壮絶な試練であり、幸運でした。20代に寺山修司に講演の依頼されたことをきっかけにセイゴオ師匠のハナシの稽古は始まった。それから同時通訳集団を組織したこと、佐藤薫(EP-4)とのコラボ、ペコちゃん(藤本晴美さん)との出会い、松本清張特別番組の制作などなど松岡正剛の話芸史を聞かせてもらい、その歴史をヨイショと背負って本番へ。おかげさまで調子は上々、香保総匠ディレクションとも波長抜群。収録は終電間近までおよび、終盤には校長と朗読デュエットしたりして、おかしなテンションで気分はハレの日、新年早々、縁起の良い一日でした。
 

 

 ◆册影帖Back Number

 ついに公開!セイゴオ本が動画になる「册影帖」制作裏舞台 10shot

 

  • 後藤由加里

    編集的先達:石内都
    NARASIA、DONDENといったプロジェクト、イシスでは師範に感門司会と多岐に渡って活躍する編集プレイヤー。フレディー・マーキュリーを愛し、編集学校のグレタ・ガルボを目指す。倶楽部撮家として、ISIS編集学校Instagram(@isis_editschool)更新中!

コメント

1~3件/3件

川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。

堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。