多読ジム×倶楽部撮家 第6弾《一人一撮 edit gallery『数学的』》

2025/01/29(水)15:17 img
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 多読ジム×倶楽部撮家コラボ企画「一人一撮 edit gallery」は、多読ジムファイナルシーズン(2024年秋・Season 20)とともに今回で最終回となりました。ラストを飾るのは千夜千冊エディション第30弾にして最後となった『数学的』です。

 

 『数学的』は直線的でシックな表紙。一見撮影するのが難しそうですが、よく眺めていると自然色に近いグレーは意外といろんな場所に合いそうな印象も受けます。みなさんはどのようにアプローチされたのでしょうか?それでは、エントリー6作品をご覧ください。

 

 

西村慧「虚の実」

数学を「地」にして植物を見ると?植物を「地」にして数学を見ると?一見遠いようで近い数学と植物の関係に挑まれたのは西村さんの作品。虚数は英語でimaginary numberと言うそうです。人間の視覚にとって不自然なモノクロにされたのも、本よりも真ん中の影に視線がもっていかれるのも、西村さんならではのちょっとずらしたイマジナリーな表現だったと思うと合点がつきます。本を撮るという点においては、表紙の『数学的』の文字が全部見えてくると本の存在感がよりアップしそうです。

 

重廣竜之「数学的千華鏡」

数学的の「的」に注目して数学「っぽさ」から連想し、万華鏡レンズにたどり着いた重廣さん。万華鏡レンズを自作された実験精神に大変好感を抱きました。このレンズで『宇宙と素粒子』や『サブカルズ』、『芸と道』などを撮影しても面白そう。また今回は「いつ、どういう光のもとで撮るか」も重要視され、何日にも渡り納得いくまで撮影された姿勢もあっぱれです。このアプローチですと帯なしだとどんな感じになるか、見てみたい。

 

市川鉄彦「数学的な花金鳳花」

久しぶりのエントリーですね。「お花の花びらの数はフィボナッチ数、形状は二次関数と三角関数の組み合わせ」とは市川さんのコメント。1枚目の西村さん然り、数学と植物は相性が良いのだと気付かされました。綺麗に咲いている花を選ばれたのも◎。本の表紙にピントが合っているのも◎。今回の狙いでいくと(絞りを変えられるカメラであれば)もう少し絞って、表紙タイトルとともに花にもバチっとピントが合うと表現したかった「数学的な花金鳳花」の世界観により近づけそうです。

 

松井路代「桜と数学」

一人一撮 第1弾から毎回参加されました。皆勤賞おめでとうございます。その松井さんも数学×植物の組み合わせ!三者三様、表し方の違いが面白いですね。松井さんの作品を見て「第四章 情緒だって数学である」をすぐさま思いました。満開とは「約80%以上のつぼみが開いた状態」であり、開花は「5、6輪の雄蕊が見える状態」のこと。花が咲いている状態とは、数値的に定義されていること。だとしたら、花を見て心が和むことと数学的であることはニアリーイコールと言えそうですね。そういうことを作品から感じました。今回は曇りの日に撮影したことでコントラストが抑えられて馴染みのいい一枚になりました。奥行きのあるお写真なので、もう少し斜めに置いて本の厚みが写せると『数学的』の深さもより感じられる作品になりそうです。

 

北條玲子「囲碁と数学」

縁遠かった数学。日常生活を「地」にしてみると囲碁が数学的であると気付かれた北條さんは「父の愛用の囲碁盤」とともに撮影されました。余計な光の反射を極力抑えるように配置やアングルを工夫されたことが伝わります。「一人一撮」で初めて囲碁盤が出てきたので面白いなぁと思いました。おそらく、あえて碁盤の直線とずらして本を配置されたのだろうと察しますが、逆に(ものすごーく難易度上がりますが)直線を活かして本をまっすぐに配置し真上から撮って二次元的フラットにしてみるとか、囲碁盤で色々な撮影ができそうだなと思いました。モノを使った撮影、これからも挑戦し続けてくださいね。

 

畑本ヒロノブ「滑る前の格子から飛び出す葛藤」

ピンクと黄色の可愛らしい滑り台との組み合わせが意外に思いましたが「AIの深層学習で使われるシグモイド関数に滑り台の形状が似ている」と気づき、公園で撮影された畑本さんの作品です。シグモイド関数・・検索しました。確かになだらかな右肩上がりの曲線は滑り台の形状に見えるかも? 相似律の発見ですね。だとすると滑り台の形状がもう少しわかるように真横から引きで撮るのもアリかもです。フットワークの軽い畑本さん、千夜千冊エディションを片手に旅先や出張先など全国各地でこれからもいろんな写真を撮影してみてください。

 

 

 「一人一撮」が始まってから一年。これまで全部で50近い作品がエントリーされました。このお題を通して、本を撮るという読書術は少しずつ広まってきたように思います。今回は植物と組み合わせた作品が多く被写体としての『数学的』に新しい見方をもたらしてくれました。最終回にしてモノクロや万華鏡レンズと一歩踏み出した遊びのある作品が出てきたのも多読ジム×倶楽部撮家コラボ企画の成果としてとても喜ばしいことでした。

 本を読んだら、本を撮る。読後のアウトプット方法の一つとして、これからも大いに挑戦してください。

 

 

 今回のエントリー作品はイシス編集学校Instagramで順次公開します。あわせてご覧ください。

 イシス編集学校Instagram(@isis_editschool)

 https://www.instagram.com/isis_editschool/

 

 

おまけ

 アイキャッチ画像は、2025年1月25日の本楼で撮影しました。直線で硬質、黒い鉄のはしごの手すりに照り返すオレンジのライトが綺麗で本を置いてみたところ、黄昏時に佇むノスタルジックな『数学的』に。なんとなく、家に帰りたくない夕暮れの少年みたいで最終回としては収まりが良く(?)

 

 

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第6弾《一人一撮 edit gallery『数学的』》

第5弾《一人一撮 edit gallery『ことば漬』》

第4弾《一人一撮 edit gallery『資本主義問題』》

第3弾《一人一撮 edit gallery『仏教の源流』》

第2弾《一人一撮 edit gallery『性の境界』》

第1弾《一人一撮 edit gallery『物語の函』》

アイキャッチ画像:後藤由加里

 

 

  • 後藤由加里

    編集的先達:石内都
    NARASIA、DONDENといったプロジェクト、イシスでは師範に感門司会と多岐に渡って活躍する編集プレイヤー。フレディー・マーキュリーを愛し、編集学校のグレタ・ガルボを目指す。倶楽部撮家として、ISIS編集学校Instagram(@isis_editschool)更新中!

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