「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、
「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。
85年前のブリテン諸島
夫が『ナショナル ジオグラフィック』の定期購読をはじめた。
これまでウェブ版で読んでいたが、紙でも読みたくなった。家族で読めるし、よりモトがとれる気がするので申し込んだという。
最初に届いた2022年8月号の巻頭特集は、イギリスのストーンヘンジだった。付録に「ブリテン諸島 85年前の特製地図と最新地図」がついてきた。特製地図とは、1937年6月号の“ナショジオ”付録の復刻版である。
『ナショナルジオグラフィック日本版』
中3の長男がその付録を「デザインがいいから壁に貼ろう」と言い出した。
エリザベス2世の父親であるジョージ6世の戴冠式を記念してつくられたもので、地図の周囲にはブリテン諸島の偉人や名所など53点が周囲にぐるりと配置されている。
偉人として取り上げられているのは、エリザベス女王、ビクトリア女王といった王室関係者、クロムウェルなどの政治家と並んで、シェイクスピア、チョーサー、ダーウィン、ファラデーといった作家、科学者たちだ。
教科書の地図と違って細かい地名までびっしり書かれている。アイルランド島南部には、「Irish Free State(アイルランド自由国)」とある。解説によると、その年の12月には「アイルランド」と国名が改められたそうだ。
国境線も国名も流動的なものだ。長男は、こういうところに反応する。
アイルランド自由国(当時)部分の拡大。
左にダブリンの紋章も配されている
チャールズ1世
ブリテン諸島の地図を壁に貼ってしばらくしたころ、エリザベス2世が崩御し、新国王にチャールズ3世が即位するというニュースが流れた。
「チャールズ3世ということは、1世や2世はいつの人なんだろう?」
長男はすぐにネットで調べたらしい。
「予想以上に古い人だった!」というので私も調べてみる。
チャールズ1世は1600年生まれ。スチュアート朝第二代の国王で、在位期間は1625~1649である。議会と対立し、「人民の名において」処刑されたはじめての王だった。
チャールズ2世は1世の子で1630年生まれ。ピューリタン革命のために大陸に亡命している。1660年に帰国し、王政復古を実現するもその治世にはロンドン大火やペストの流行など社会不安がたえなかった。
2022年9月9日付日経新聞夕刊
「400年ぶりのチャールズ国王なんだ。どうして外国の国王には〇世という名前が多いんだろう? 名前の種類が少ないのかな」
過去の王に肖っているというのもあるかもしれないと、一緒に仮説を話す。
勝手に教える
「エリザベス」も調べてみる。1世は1533年生まれだ。
エリザベス女王と織田信長が1歳違いだったということを松岡正剛校長の『誰も知らない 世界と日本のまちがい』(春秋社)で読んだことを思い出し、本棚から取り出して開いてみせた。
秀吉が信長の三歳年下。家康は秀吉の五歳年下で、みな同時代人だ。
チャールズ1世が生まれた1600年といえば、日本では関ヶ原の戦いが起こった年だ。江戸時代になると、日本は外国との交流を制限する政策をとりはじめるが、信長や秀吉の時は、アジアへの進出を目論んでいた。
時代の空気が伝わっていたのだろう。
エリザベス女王は織田信長と一歳違い
『誰も知らない 世界と日本のまちがい 自由と国家と資本主義』より
長男は、集団生活が壁になり、学校での歴史の授業をまったく受けてこなかった。テストも経験していないが、13歳の半ばから急に歴史にめざめた。
本屋さんで地政学の本を手に取る。ぱらっと読んで「昔、ポルトガルがこんなに強かったなんてびっくりした!」というようなことを話し始めた。それから時々、家庭内で、ニュースを糸口に「勝手に」歴史を教えるようになった。
いざ鎌倉
大河ドラマ『鎌倉殿の13人』も「糸口」の一つである。
長男にとっては初めての大河ドラマだ。見始めると毎週必ず見るようになった。
放送中は無言で見る。終わってから5分ほど感想と予想を交わす。
大河ドラマの公式ムック本
まだ学校では歴史を習っていない小3の長女も、前半の源平合戦の時は見ていて、会話に入ってきた。
「三種の神器ってどうなったん? 今、どこにあるん?」と聞かれる。すぐには答えられない。
幕府と朝廷の関係など、政治や社会の変化も、細かなところは記憶だけでは不確かなので、手引きになる本を探す。
研究が進んで、近年教科書が書き換えられたケースもある。
編集かあさんが子どもの時は「1192(イイクニ)つくろう鎌倉幕府」と教わっていたが、今では鎌倉幕府の実質的な成立はもう少しさかのぼれるとされていて、いろいろな考え方があるものの「1185(イイハコ)つくろう」のほうが主流らしい。
<子どもの問い>が頭の片隅にあると、本屋さんでも、これまで立ち止まることの少なかった歴史本や参考書などのコーナーに注意のカーソルが向くようになると感じる。
「好き」も「嫌い」も
長男の歴史への興味の下地は、なんとなく見はじめたNHKの『映像の世紀』だったらしい。
最初は意味もわからず見ていたという。
そのうち、意識して見る番組に変わった。今は録画機の機能を使って、番組名に「映像の世紀」が入っているものはすべて自動で録画するようにしている。
「好き」だけではなく「嫌い」も契機になる。
長男は、生活リズムを乱し、メディアがそれ一色になってしまうイベント、特にオリンピック・パラリンピックが苦手だ。
オリンピック・パラリンピックをなぜやるのか?という疑問を持ちながら見た第16集「オリンピック 激動の祭典」は、私にも勧めて二度見るほどだった。
通史へ
断片的な知識が蓄積してきた時、松岡校長が出てるからという理由で見始めたBSTBS『関口宏の一番新しい古代史』が、そろそろ「通史に触れてみよう」という気持ちと鍵と鍵穴になったらしい。
縄文時代から奈良時代まで一回も欠かさず見た。
「古代はここで終わるのか」。そのままつづけて『一番新しい中世史』も見ている。奈良に生まれ育ったということもちょっとは影響していてそうだ。
この番組を見るには、「編集かあさんのツッコミ」が必要なようで、週始めに夕飯を食べながら録画を見る習慣が続いている。平安時代が終わり、いよいよ鎌倉時代に差し掛かるところだ。
*アイキャッチ画像:わが家の壁に貼られた『ナショナルジオグラフィック日本版』2022年8月号付録「ブリテン諸島 85年前の特製地図と最新地図」
松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
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