ハンノキの葉のうえで、総身を白い菌に侵されて命を終えていたキハダケンモンの幼虫。見なかったことにしてしまいたくなるこんな存在も、アングルを変えてレンズを向けてみると、メルヘン世界の住人に様変わりする。
「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)
たちが、「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。
*上海にあるゲーム会社の本社ギャラリーを訪ねた前編はこちら
「上海タワーは、全てを低くする」
高校3年生の長男と行った三泊四日の上海旅行、2日目は、超高層ビルが集まるエリアの中で最も高い上海中心大厦(上海タワー)に上りにいった。632メートル、世界二位の高さである。 展望台がある118階・119階(546メートル)は、東京スカイツリーの展望デッキより100メートルほど高い。
エレベーターを降り、窓から外を見て驚いたのは、雲が下を流れていくことだ。
遠すぎる地上に焦点があう前に、すぐ近くに立つ、栓抜きのような形の高層ビルのてっぺんが目に飛び込んでくる。覗きこむと、聳え立つビルが地上とここをつないでいるのが見えて、高さが実感できた。少し向こうに、有名な東方明珠電視塔がある。
雲は次々に湧いては流れていく。雲間から、揚子江の支流・黄浦江が見える。その周りに、ビルや家々がびっしりと並んでいる。街ははるか先まで続いている。
上海タワー展望台(地上546メートル)からの眺め
栓抜きのような形の上海ワールド・フィナンシャル・センター(地上101階)を見下ろす
展望チケットには、125階・126階にあるダンパー見学がセットになっていた。
風による揺れを吸収するためのダンパーの重さは1000トンである。大きな瞳を象ったアート作品のように仕上げられ、「上海慧眼」と名付けられていた。生命史をなぞるプロジェクションマッピングと組み合わせるショー仕立てで技術力が説明されていた。
売店でビルの形をしたアイスを買って食べながら、バベルの塔のことを思う。
アート作品のようなダンパー「上海慧眼」
地上52階のブックカフェ
52階には朶雲書院というブックカフェがあった。中国全土から来ていると思われる人たちでごった返していて、座る場所がないほどだった。
書店エリアはグッズ多め、スタイリッシュさ優先で、文芸書が多い。村上春樹を発見する。科学本コーナーでは敬愛する盛口満さん(ゲッチョ先生)の本を見つけた。
あまりじっくり見られなかったこともあり、翌日、時間をとって上海で一番大きい書店に行ってみた。
上海で最も大きい書店「上海書城」
7階建てのビルが丸ごと書店になっている。入り口では習近平の功績をまとめた本が平積みされているが、エスカレーターを上がれば、奈良では味わえない本のある大空間が広がっていた。
吹き抜けや路地を組み合わせた空間設計や書店内書店がいくつもあるところは、少し松丸本舗を思わせた。東野圭吾特集が組まれていたり、「ちいかわ」があったりする。多くの本がリアルタイムで翻訳されていることを知った。松岡正剛校長の『日本文化の核心』はハードカバーとなり、売られていた。
中国語に翻訳された『日本文化の核心』(翻訳:薩企、岳麓書社)
世界最大級の人混み
最後の夜、ようやく晴れて、夜景を見に行くことができた。観光スポットである外灘(ワイタン)までは、歩行街をいけば15分ほどで着けそうだった。
ところが近づくにつれ、人が増え、広い道幅にも関わらず、身動きが取れなくなってきた。赤信号になると警官がずらりと並んで道路を封鎖するほどだ。
世界最大級の人混みに揉まれている長男の背中を見ながら歩く。小さい時の感覚過敏や集団の苦手さはなんだったのだろう。
じりじりと進み、予想の4倍ほどの時間をかけて、ようやく外灘に着いた。川風にほっとする。租界時代の歴史的な建物が間近に見える。対岸には、超高層ビル群が派手にライトアップされている。世界三大夜景の一つだ。
世界最大級の人混みの中を進む
超高層ビル群。てっぺんは雲に隠れている
長男は世界各国から来ている観光客に挟まれながら、写真と動画を撮っている。大人も子どもも大きな声で話している。空間にエネルギーが満ちている。
数年前はとても無理だと思っていた場所に、今、立てている。
子どもとの旅は、見たことのない景色だけでなく、子どものまだ見たことがなかった姿を見る時間でもあった。
ネット空間はひとつではない
支払いは全てアプリ決済で、現金を使うシーンは一度もなかった。日本以上にスマホ必携社会となっていた。
グーグルなど、他国のサイトやアプリは利用が制限されている。従って、検索も、中国のアプリを使う必要がある。長男はすぐに習得していた。
例えば、グーグルマップのように使われているのが「百度(バイドゥ)地図」なのだが、機能面では上回っているところがある。例えば、ルート案内では、道路がモデル化された専用の画面があり、信号が変わるタイミングまで表示される。中国産の人工衛星「北斗」を使った測位システムによって運用されている。日本がアメリカのGPSに頼っているのとは対照的だ。
中国本土の地図アプリ。車線や信号の情報まで閲覧できる
グーグルで検索しても出てこない情報が、バイドゥで検索するとずらりと表示される。
「日本で過ごしていると、情報がひとつにまとまりつつあるような気がしていたけど、全然違った」と長男が言う。
別の国には、まったく別のネット空間が広がっていたということが肌でわかったのは大きかった。当局が情報コントロールを諦めていない怖さも感じた。それはゲーム開発にも影響を大きく及ぼしている。
すべてがアプリ化されていく中で
タクシーもアプリで呼ぶ。出発地と目的時を最初に入力し、最短距離があらかじめ計算されて、決済は自動で済まされる…はずだったが、ゲーム会社の米哈游(miHoYo)に行く際に乗ったタクシーの運転手さんは違った。
ここに行きたいとスマホの画面を見せると、何やらアプリを操作してオフにしたようだった。そして「どこに行きたい?」と英語で聞いてきた。
「ミホヨに行きたい」。
「ミホヨ? ああ、ミハユだな! ミハユ、好きなのか、そうかそうか」と満面の笑顔だ。
到着したら、最初に計算で出た料金よりもちょっとだけ高かった。以前通り、走った分だけきっちり受け取る作戦だったのかもしれない。
それ以降に乗ったタクシーではひとことも話さなかったから、ルールから逸脱していたのかもしれないが、中国語での発音がわかったのと、降りる時に「楽しんでな!」と送り出されたのは悪くなかった。
平和であれば
旅行中、ほとんど日本語を耳にすることはなかった。
長男にとって、旅してみて一番身にしみたのが、言葉がまったくわからないということだった。言葉がわからないと食事ひとつでも一苦労になる。翻訳アプリでは、追いつかない。
食を大事にする国だからメニューが多い。一括で翻訳アプリにかけても、読むのが大変で、日本語にないメニューは意味が掴めず、味の予想がつかない。
若い時に、たまたま京都で英語を使って観光ボランティアをしていたのが役に立ち、一緒に来てよかったと感謝される。
広東料理店「新雅粤菜館」のメニュー表
時間をかけて解読し、食べる
最後に少し時間が余ったので、デパ地下に行った。人参果からドリアンまでいろいろな地方の果物が売られていた。果物は図鑑を持っているほど好きだが、「親指西瓜」など、まだまだ知らない果物があった。
上海は人、モノが集まる都市だった。平和であれば留学してみたいのだけど、簡単には決められない。まずは中国語を始めてみようかなと話している。
上海書城の前で
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松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
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2026-02-10
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2026-02-05
誰にでも必ず訪れる最期の日。
それが、どのような形で訪れるかはわからないが、一番ありえそうなパターンの一つが終末介護病棟での最期じゃないだろうか。沖田×華先生と言えば、自虐ネタのエッセイマンガでよく知られるが、物語作家としても超一流だった。深く死に向き合いたい方は、是非ご一読を。
(沖田×華『お別れホスピタル』)
2026-02-03
鋸鍬形、犀兜、鰹象虫、乳母玉虫、碁石蜆、姫蛇の目、漣雀、星枯葉、舞妓虎蛾、雛鯱、韋駄天茶立、鶏冠軍配、鶉亀虫。見立ては、得体の知れないものたちを、手近に引き寄せたり、風雅に遊ばせることの糸口にもなる。