[週刊花目付#20] 編集的振動状態を励起せよ

2021/10/26(火)21:05
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週刊花目付

<<35[花]

 

■2021.10.23(土) 36[花]入伝式

 

 36[花]の風来は金木犀の香気を纏って音連れた。金木犀は、点呼へ一番に応じた入伝生サワダの心尽しだった。花の空気が人の気配と抱合して、座のモードは一気呵成に共読へ向かった。


 式目演習の前に課しているプレワークでの発言スコアは「e-馬力」「e-トルク」(*)とも過去最高値を更新し、とりわけ「インタースコア指数」(*)は200%に迫るスコアを示した。36[花]20名は、自己言及の倍近い言語量を費やして他者交流を志向している。

 

e-馬力e-トルク

「e」は「editorial」の頭文字。編集稽古での応答速度、発言頻度、言語量などから導出した指標。編集的な応接力やメッセージの訴求力を定量的に概観できるだろう。

インタースコア指数

発言のなかで自身の編集プロセスについて言及する量と、場や仲間へ応接する量とを、文字数で計測した比率。編集的な個性や冗長性を測る目安になるだろう。

 

 入伝式までの用意は充実していた。入伝生は全員が前夜までに必須課題を提出し、指導陣はその様子を備に観察し、ゲームプランをイメージし、卒意のライブ編集が2人の花目付に託された。
 今期は林朝恵花目付とデュオを組む。私にとって林は花伝所も師範代登板も師範拝任も同期だ。アイコンタクトの効く相方は心強い。

 

 さて「卒意のライブ編集」とは、たんに流れに乗じたインプロビゼーションではないし、ハプニングを制御するリスクマネージメントでもない。動的な場のなかで、行き当たりバッタリを行き当たりバッチリに、偶然を必然に転換させるための、イメージメントの疾駆とメイキングの実践なのである。
 そのとき求められるのは、刻々と変化する情報を捉える照合の力と、別様のオプションを発見する連想の力と、hereからthereへと向かう冒険の力なのだ。

 

◇入伝式第2部「問答条々」。寺田充宏師範の編集工学講義は、別番を務めた14[離]での残念を白状することから語り起こされた。残念や不足、事件や危機を編集機会とするためには、1.言葉をかえ、2.分け方をかえ、3.速度をかえ、自らを編集的振動状態(エディトリアル・フラクチュエーション)に置かなくてはならない。
◇そこから様々なものが生まれ出るエディトリアル・フラクチュエーションを、寺田は「わせたかしい」(=わたし+せかい)という造語によって概念化した。わせたかしい状態とは、いわば編集的原始スープ状態なのだ。

編集的振動は「わたし」と「世界」の境界を取り払う。そのとき「わたし」は、1.世界に接地し(応境=アフォーダンス)、2.別様の可能性を類推し(渡境=アナロジー)、3.仮説領域で驚くべき事実を発見し(超境=アブダクション)、世界観を更新して行くのだ。

 

◇入伝式第4部「別紙口伝」。インタースコアとは、2つ以上のスコアを組み合わせ、それらの境をまたぐことであり、それが編集工学の始まりである。その基本の話をもう一度つかみ直して欲しい。松岡校長の口伝は抑制された調子ではあったが、編集的振動状態を励起させるには充分過ぎるほどの潜熱を帯びていた。
◇編集の基礎訓練は「わかる/かわる」「カワル⇔ガワル」「たくさんの私」に尽きる。花伝所は、そのことをしっかりと見直す場なのだ。生命や歴史や文化が生んだあらゆる方法を「3A」に集約してイシス編集学校をつくったけれど、今はまだ一歩半しか進んでいない。もっとワナワナと転倒しなければ駄目だ。
◇「ゲート・エディティング」を花伝所では重視してもらいたい。しきい(閾、敷居)をまたぐとき、「IF/THEN」なのか「AND/OR/NOT」なのか。そこに留まったまま何かを運ぼうとしてはならない。編集稽古は「乗り換え/着替え/持ち変え」を起こそうとしているのだから。

 

 濃密で重厚な情報の波を、溺れずに渡り切る力が試される一日だった。そのときのヒリヒリした感覚にこそ、私たちは注意のカーソルを向けなければならないのだと思う。鮮烈な突起に感応する編集感覚を、ますます磨いて行きたい。

 

 

■2021.10.24(日)

 

 「速さと深さを両立するのは難しい」と多くの人が口にする。けれど私はそれに共感しない。
 まぁたしかに難しさという面については同意するが、感性を提供することを生業とする者にとって、ここは譲れないプライドがある。そもそも「速度」と「深度」は、「感度」を親とする二点分岐なのだと思う。
 
 入伝式を振り返りながら、そんなことを考えた。

 


■2021.10.25(月)

 

 日付が変わって4道場へ第1週目の課題が配信され、なんと4名が即日回答で応じた。稀にみる初速だ。エディトリアル・フラクチュエーションのパンデミックなら歓迎したい。

 

 「入伝式からぞわぞわが止まりません。入伝式で振動してしまっているのかも」
 わかくさ道場で起爆したオオツカの執念に、中村麻人花伝師範が即応し、執念を自覚してこそ数寄が生まれるのだと称えた。

 

 36[花]の問感応答返がキビキビと始動している。共読から響読へ、振動を増幅させて「渡」にむかいたい

 

(撮影:後藤由加里)

 

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025