七夕の伝承は、古来中国に伝わる星の伝説に由来しているが、文字や学芸の向上を願う「乞巧奠」にあやかって、筆の見立ての谷中生姜に、物事を成し遂げる寺島ナス。いずれも東京の伝統野菜だが、「継承」の願いも込めて。

4月5日、本楼で「伝習座」が開かれた。前半は田中優子学長によるインタースコア・セッション。「江戸×あやかり」をテーマに2時間の講義が行われた。
この日、田中優子学長が用意したものは、アート・ジャパネスクの18巻。1982年、松岡校長がエディトリアル・ディレクターつとめた、全18巻の日本美術のヴィジュアルブックは、平均値である見方に括られないのが歴史だという思いから、日本美術のアマチュアである工作舎のメンバーによって作られた。
校長校話 サーカスとアマチュアと『アートジャパネスク』【81感門】
江戸の文化はあやかり編集力の賜物だ。ページが大きく映し出されるたびに皆が目を光らせる。この巻はコンパイル要素が強く、細見、番付、流行のヘアカタログ、家紋など、江戸の風俗情報が集められ、その中には方法が隠されている。
『狂歌師細見』は狂歌師を遊女に見立て、連ごとに分けた戯作
「松岡校長の言葉を理解しよう、それに沿うように考えようとして校長とともに過去の日本の様々にあやかってきた。しかし、今は松岡校長はその向こう側にいる。校長は肖りの対象になった。」田中優子学長は、松岡校長との肖りの軌跡をこう語った。
学長の脇を支えるのは、火元の寺田右近と華岡左近。ヨージヤマモトの新作を着た二人は校長の言葉を纏い、編集を体現する。
「肖りは内側、擬きは外側に表象する」
寺田右近が発した一言に、会場の出席者は目を開いた。「内は肖り、外は見立て」そんな言葉も浮かんでくる。
新作のヨージヤマモトを纏う、右近と左近
江戸時代は、イメージと世界の共有が爆発したのだという優子学長の言葉に注意のカーソルが向かった。
蔦屋重三郎が刊行し大ヒットした『吾妻曲狂歌文庫』は、狂歌師五十人の王朝歌人風の肖像に狂歌を添えている。例えば、狂歌師 酒上不埒(さけのうえのふらち)は、矢筒に見立てた扇状のものに矢羽をつけて、風雅な狩姿を擬いている。歌は年の瀬の算段だ。
もろともにふりぬるものは書出しとくれ行としと我身なりけり
(全て疎ましく嫌いになるものは、請求書の束と迫りくる年の暮れと、歳をとる我が身)
優雅な平安人らしからぬ年末の苦労が笑いを誘う。
百人一首や当時流行していた美人画と俳諧を組み合わせた『絵本青楼美人合』の方法は、江戸の人たちの共通知である。皆が知っているモノに肖り、地と図を入れ替えて、生まれたズレが笑いを誘う遊びを蔦屋重三郎はやってのけた。
しかし、それらにまして「ミメーシスの編集工学」のバネとなったのは、
古今東西の「型」と「スタイル」をめぐる変遷と分岐の歴史にいろいろ
分け入ったことだった。ここに浮上してきたのが日本の芸能や技能には
格別のミメーシスがひしめいていたということだった。その多くは「見立て」
や「うがち」や「やつし」に、また「準え」(なぞらえ)や「擬」(もどき)
や「肖り」(あやかり)として重視されてきた。
共有した情報を使い、くるりと世界を変えてみせる。身分差のため、モノをいうにも憚れる時代の中で、肖り、見立てを駆使し、言いたいことを言ってのけた作品に江戸っ子は喝采をあげたことだろう。
江戸の遊びの方法は、[守]で学ぶ型そのものだ。目利きたちの選んだ方法は、今も日本に生きている。
文・写真 55[守]師範 北條玲子
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コメント
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2025-07-07
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