【感門90】読奏エディストリート――44[花]放伝生が読む#14『世界のほうがおもしろすぎた』

2026/03/16(月)07:57 img
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第44回ISIS花伝所入伝式の3日後、くれない道場の多田昌史が[編集術ラボ]に、松岡正剛校長の『世界のほうがおもしろすぎた』(晶文社)の共読を呼びかけました。入伝生たちは、式目演習の合間に道場の垣根を越え、校長本を交わし合い、その一部がこうして果実となりました。

 

「マーキング」と「ヨミトキ」で奏でる第90回感門之盟「読奏エディストリート」の特別連載。14回目は、57[守]登板に向け、日々編集筋力を鍛える新師範代のフレッシュな声の重なりをどうぞ。

 北村和喜(44[花]放伝生、57[守]師範代)のマーキング&ヨミトキ

アイデンティティというものについて、自己同一性というものについて、これはもうかなり早い時期から疑念があったんです。(10ページ)

自分には愛したい人がいるが、時にその人のことがものすごく嫌いになる。そのとき、自分の中には「好き」と「嫌い」の相反する2つの感情が滞留する。矛盾を抱えることに大層気持ち悪さを感じるのは、問の後にすぐ答を出そうとする環境に、慣れすぎたせいかもしれない。
そんな中で、松岡校長の自己同一性への揺さぶりは、私を私が感じる全てを自己受容したくなる方へ導いてくれた。そりゃあ生物なんだから、矛盾を抱えていて当然だよな、と思わせてくれた。
校長からのこの贈り物は、自己の中に滞留させず、次にどんどん伝えていきたい。(北村和喜)

多田昌史(44[花]放伝生、57[守]師範代)のマーキング&ヨミトキ

そうやって誰かが「これがいい」と言っていることも自分の中に入れていく。そうすることで独自な基準を自分のなかにつくることができるんです。(198~199ページ)

「よくわからないけど、すごい気がする」
編集学校に通う前、『遊』1号の口絵に並ぶ「目」と対峙した僕の感想だ。改めて『遊』を開けば「わからない」霧は晴れ、「すごい」の輪郭がクッキリしていた。「目」と目のあいだで飛び交う意図や緊張。松岡校長が込めた「これがいい」の回路が内に通い、見えなかったものが見え、自分がかわる。
この変化は、ひとりでは起きない。教室があって、師範代と学衆がいる。誰かの「これ好き!」で、未知が光りはじめる。その言葉に誰かが応じ、別の誰かが違う角度で照らし返す。
「これがいい」がつながり、誰かの発見が別の誰かの目を開く。その連鎖こそ、おもしろい世界の拡張だ。(多田昌史)

東村雅史(44[花]放伝生、57[守]師範代)のマーキング&ヨミトキ

ぼくが重視したい自己は、何かができる自己ではなく、何かができない自己のほうです。たとえば、速く走れない自己とか、英語ができない自己とか、旅先でうまくいかない自己とかですね。(311ページ)

何かができない、ということにあまりポジティブな意味はないと考えていたのですが、まずはそれを受け入れること、これからできるようになること、と考えることで、新たな可能性につながるのだと思いました。
さらに、他の誰かならできる、という可能性もあること。ここから他者への敬意が生まれてくるのだということを知りました。
できない=勝ち負けの「負け」と定義されることの多い世の中で、こういった見方を持って何かができない自己のほうを重視すると、負けたとしてもそこから立ち上がる、自分にできないことは他者を頼る、勝ち負けではないところでの充実を目指す、という「別様の可能性」が見えてきます。(東村雅史)

『世界のほうがおもしろすぎた ゴースト・イン・ザ・ブックス』松岡正剛著

晶文社/2025年8月刊/2090円(税込)

 

 

目次

第1章……正体不明のゴースト

第2章……「世界」のおもしろみとメディアへの憧れ

第3章……アルス・コンビナトリア事始め

第4章……すべてはアナロジーのために

第5章……編集工学の胎動と脈動

第6章……編集の国から生まれた学校

第7章……歴史の網目のなかで千夜千冊を紡ぐ

第8章……虚に居て実を行う

年譜

あとがきに代えて

 

出版社情報

アイキャッチ、レイアウト/阿久津健(56[守]師範)

編集/角山祥道(44[花]錬成師範)、大濱朋子(44[花]花伝師範)

 

【感門90】読奏エディストリート――師範が読む [バックナンバー]

#01『多読術』(稲森久純、森本康裕、齋藤成憲)

#02『うたげと孤心』(原田淳子、山下雅弘、牛山惠子)
#03『ことばと身体』(古谷奈々、大濱朋子、得原藍)

#04『ゲーテはすべてを言った』(阿久津健、一倉広美、相部礼子)

#05『初めて語られた科学と生命と言語の秘密』(奥本英宏、石井梨香、北原ひでお、山崎智章)

#06『異界を旅する能』(林朝恵、福澤美穂子、森川絢子)

#07『百書繚乱』(白川雅敏、村井宏志、小林奈緒)

#08『手の倫理』(上原悦子、阿曽祐子、新井陽大)

#09『地球星人』(高橋陽一、景山和浩、角山祥道)

#10『赤光』(天野陽子、福田容子、若林牧子)

#11『守破離の思想』(小林美穂、吉井優子、中村麻人)

#12『コーヒー・ハウス』(石黒好美、森井一徳、平野しのぶ)

#13『空海の夢』(名部惇、福井千裕、桂大介、岩野範昭)

#14『世界のほうがおもしろすぎた』(北村和喜、多田昌史、東村雅史)

  • イシス編集学校 [花伝]チーム

    編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。

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