■大学はつまらない
MEditパンフレットがついに完成しました!半年近く毎週メンバーで熱いミーティングを重ねた集大成。レンズに見立てたMEdit Labロゴが際立つ表紙デザイン、MEdit、STEAM、編集工学などの重要キーワードとデザインがリンクするモードづくり、一読だけでは決してそのすべてが開かされないような幾重ものしかけ…。MEditメンバーの熱い想いと編集魂がつまった1冊です。
本当は現物をお手元に届けたいのですが、こちらからぜひご覧くださーい!
さて、MEdit Labの発足から半年、準備期間を入れると1年の時が過ぎましたが、ずっと頭の片隅に、松岡校長のこんな言葉がありました。
「大学はつまらない」。
面白くない、つまらない、という評価にチョー敏感な大学教員でもある私は、いったい大学の何がどうつまらないのかということを考える日々だったように思います。
■おカタイ白い巨塔
思い返すと、私は22年の医師キャリアの8割近くを大学から離れた附属病院で過ごしてきました。すると大学教員であることを実感するのは、病院実習にきた医学部生にクルズス(小さなグループ講義のこと)を行ったり、年数回の医学部の講義や実習の時だけで、ふだんは、一医師として、診療にどっぷりという日々でした。
大学では着々と最先端の研究を行う設備が充実していき、それなりの授業カリキュラムの工夫もなされてきたように思いますが、私にとっては、「おカタイ白い巨塔」は対岸の景色であり、どちらかというと研究業績を厳しくチェックされる本丸からちょっと遠いところにいることをこれ幸いと思いつつ、イシス編集学校で熱心に編集稽古に勤しんだりしながら、楽しくここまで仕事をしてきたわけです。
MEdit Labは、これまでの対岸からの景色をぼんやり眺めていたローカルな見方を見直すきっかけになりました。いったい大学はどうつまらないのか。いや、むしろその前に、今の大学がどのように運営されているか、その組織構造を解像度を高くして精査する必要があるだろう。そのうえで、大学には「ないもの」でMEdit Labにはあるものを再評価し、大学をちょっとは面白くしたい、そう考えるようになりました。
■大学はもしかして面白い?
意外や意外、大学という組織は、とても優れている、というのが、活動をはじめた最初の印象でした。個々の職種の専門性、責任感そして向上心は、それぞれの部署を束ねる方々ほど高く、柔軟な対応力を持ち、ちょっと逸脱したことに興味を持って飛び込もうとするスタッフも想像以上に「潜んでいる」ことがわかりました。
特に驚いたことは、「順天堂大学研究戦略推進センター(JURA)」という部署でした。MEdit Labを運営するためには小さい研究会とはいえども会社と同様に資金が必要です。大学もMEdit Labの活動に魅力を感じ、その将来性を買ってくれれば援助してくれますが、やはり制約がありますし、自由に活動を展開できるほど十全ではありません。
近年、日本の大学の国際競争力は、低下しており、国力のそれと比例しています。ワクチンがほとんど海外製だったように、日本の製薬会社は外国の巨大な企業の日本支店状態になっています。特に創薬をはじめとした大規模研究は、いくら有能な研究者がいたとしても潤沢な研究費と環境がなければままなりませんし、今は、遺伝子をベースとした研究が主流となっていて、かかる費用は設備投資を含めて莫大ですから、大学も生き残りをかけて公的研究費や財団の助成、企業との共同研究などが必須となっています。大学教授は、どれだけ魅力的なプランニング編集ができて、あらゆる団体から研究資金を集めてこられるか、そのビジネスセンスや営業能力が問われる時代に入っています。
■研究者のための師範代
そんな中、順天堂大学でも研究者をサポートする部署がエライ先生方の肝いりで整備され、少数なれど熟したり、の精鋭部隊が配備されていたのです。
JURAの方々は、イシス編集学校メタファーで表現すると「研究者のための師範代」でした。研究費を獲得するために何かに応募する際には申請書を作成しますが、その申請書を実にこまやかに指南してくださるのです。一応、おぐらも「セキショー」としてイシス編集学校の指導陣として色々な方の文章を指南してきましたが、JURAの指南対応力には目を見張りました。師範代に必要な”受容・評価・問い”が完璧にできていましたし、申請書をひとつの物語と捉えて、図表をまじえながら審査員の心を捉えるためのメディアとして、細やかな指南が入るのです。ここのスペースにはもう少し明るいトーンのこちらの図を使うと良い、フォントはこちらの方が見やすい、ここにはこういう表を加えられればアピールになる、などなど、指南の内容は、文章構成や文脈の立て方にとどまらず、ヴィジュアル編集にもおよびました。そういった縦横無尽なアドバイスを、研究者の自尊心を傷つけないよう配慮しつつ、採択されるような申請書になるまで、10回でも20回でも快く提供してくださるのでした。
私も数年前からJURAのTさんにお世話になってきましたが、経済産業省の仕事で「おしゃべり病理医のMEdit Lab」を編集工学研究所のみなさんと開発したときは、いち早くその情報をキャッチし、お祝いと動画教材の感想をメールで送ってくださいました。その後も、出張中のタイミングであっても、質問のメールをすると細やかなリサーチ結果を含めた回答が迅速に帰ってきました。「先生のこれまでの歩みが成果として表れるはずですから心から応援しています」と言われると、申請する際のプレッシャーも軽減されるようでした。
なんだ!大学にも編集が際立っている場所があるんだ!素直にそう思いました。他にも経理や総務など、研究費の管理やこまごまとした雑務など、その都度、専門の事務さんが登場し、細やかにMEdit Labの活動を支えてくださり今に至ります。
■大学は、けっこう面白い
・・・では、大学はつまらなくない?・・・はい。松岡校長に反論することになりますが、順天堂大学に限っていえば、大学はつまらなくありませんし、まだまだ捨てたもんじゃない。というのが現時点での私の評価です。でも、たしかにチョー面白いわけでもない。足りないことが色々あります。
たしかにJURAをはじめとした研究者のバックアップ体制はかなり充実してはいますが、欧米のようなビッグデータを動かす研究に追いつこうとする方法だけでは全く足りないでしょう。
日本には国民皆保険を筆頭とした日本独自の医療の運営方法がベースとなっているわけですし、ビッグデータをやみくもに集める以外の独自の“日本的方法”が医療にだって適応できるはずなのです。そのためにはそれぞれの専門がばらばらではだめなのです。STEAM教育も欧米の解釈をそのまま持ってきてはままなりません。SはScienceだけではなくSportsでもあり、MはMathematicsでありMedicineでありMusicで、EはやはりEditorial Endineering、編集工学なのです。
■編集は不足から生まれる
MEdit Labは、まさに大学には「ないもの」を持っていると確信しています。それは編集学校にも編集工学にもあるもので、「アイダをつなぐ方法」です。それぞれの高い専門性をもっとつなげていけば、その重なりとしての大学は、まだまだ面白いことが山ほどできるように思います。
デザイナーの佐伯亮介さんに、パンフレットが完成した後、「デザイナーとして、お気に入りのページってどこですか?」とあえて聞いてみたのですが、「・・・やっぱりトップページですね。おぐらさんが、大学の人々の間のヨコのつながりと高校生から医療スタッフまでのタテのつながりを結ぶイメージっておっしゃったので、そのイメージを僕なりに表現しようと思ってある程度納得のいくところまで到達できたから」とのことでした。
たしかにパンフレット作成が終盤に差し掛かったあたりで、トップページ、ここは、メインコンセプトの提示と目次があわさったデザインにしていましたが、そのデザインについては特に議論を重ねたのでした。グリッド線を縦糸と横糸に見立てたい。だから斜めやカーブを描いた線も入れたい。糸扁の漢字のイメージを借りたい。何と何が縁結びされるのかキーワードをしのばせたい。みんなで漢字を探したり、私の描いたイラストと佐伯さんがソフト上で描いた線のつながりが気になることを指摘したりとお互いに違和感や疑問点をぶつけての充実した時間でした。
エディター金宗代くんの細部にいたる編集ディレクションも入稿前夜の「イラスト追加でお願いします」の鬼オーダーも、しんしんこと病理医、發知詩織ちゃんのミクロな視点での校正編集も(イラストのアミノ酸配列までチェックしてくれてありがとう)際立っていました。
■もっとイシス編集学校を
医療従事者とプロのエディター&デザイナーというMEdit Labの不思議なメンバー構成は、大学においては他に類を見ないものですが、イシス編集学校では当たり前のことです。だから、もっとイシス編集学校で行われていることは外に持ち出して、実験されるべきなのです。様々な場が編集を求めていますから。
MEdit Labでは、もうすぐその活動を本格稼働いたします。「レッツMEdit Q! 医学をみんなでゲームする!」というワークショップを開催していきます。医学をテーマに学び方を学ぶ。編集工学で医学教育は必ず変わるはず。そして、大学をもっと面白くしていく実験をこれからも続けていきます。
イシス編集学校のみなさんもぜひ私たちの活動をキャッチし続けてください!
レッツMEdit Q!
MEdit Lab 順天堂大学STEAM教育研究会 MEdit Lab
順天堂大学の研究者支援の記事はぜひこちらを 順天堂大学の研究者たちを支援する専門家集団「JURA」 | 順天堂 GOOD HEALTH JOURNAL (juntendo.ac.jp)
小倉加奈子
編集的先達:ブライアン・グリーン。病理医で、妻で、二児の母で、天然”じゅんちゃん”の娘、そしてイシス編集学校「析匠」。仕事も生活もイシスもすべて重ねて超加速する編集アスリート。『おしゃべり病理医』シリーズ本の執筆から経産省STEAMライブラリー教材「おしゃべり病理医のMEdit Lab」開発し、順天堂大学内に「MEdit Lab 順天堂大学STEAM教育研究会」http://meditlab.jpを発足。野望は、編集工学パンデミック。
「御意写さん」。松岡校長からいただい書だ。仕事部屋に飾っている。病理診断の本質が凝縮されたような書で、診断に悩み、ふと顕微鏡から目を離した私に「おいしゃさん、細胞の形の意味をもっと問いなさい」と語りかけてくれている。 […]
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