編集かあさん家では、松岡正剛千夜千冊エディションの新刊を、大人と子どもで「読前」している。
本の途中を見せる
7月末に千夜千冊エディション『読書の裏側』が出たら、あわせて見ようと思っていた資料があった。
6月11日、イシス編集学校の多読ジム冊師研鑽会「工冊會」で松岡正剛校長レクチャーの際に配られた出版前の校正のコピーである。
表紙、帯、前口上、目次、追伸のゲラ刷に、松岡校長と編集制作スタッフの直筆の直しがはいっている。帯には一部まだ「○○」になっているところもあった。
工冊會の日はまる一日留守にした。長男にはお土産話としてチラリと見せていたのだが、いよいよ本格的に照合してみる。
表紙のデザイン、字紋「册」は変更なし。
空欄になっていた帯の「好評既刊」が、『本から本へ』『ことば漬』『編集力』『日本的文芸術』となっていた。
帯見返しは「電子の社会」になっていたのが、「読書の裏側」に変わっている。「帯をデザインする際も、いったん前のエディションのをコピーして、書き替えていくみたいだ」と推理する。
裏表紙のキーブックリストも6月11日の段階では空欄になっていた。
「ということは、ここはぎりぎりまで悩むところなのかも」
細かく見ると、値段やバーコードも変更されている。
1650円。帯では税込み価格の1815円が記載されている。
消費税10%になってから、本の値段が高く感じるようになったという話になる。
一字で変わる
「前口上」では直しは一か所である。松岡校長が「ご案内」の「ご」をとる指示をしていた。
そんな「読み」の裏事情を案内してみたい。
たった1字で速度感が変わる。
『読書の裏側』前口上の校正
校正を指示する記号が懐かしい。編集かあさんは最初の仕事が、まだDTPが普及する前の、企業の広報紙づくりで、手書きで割り付けし、工場の人に組版してもらっていたのだった。校了するまで帰れない出張校正は、月2回のドキドキする時間だった。
「またおかあさんの熱血スイッチが入った」と長女がおおげさな口調で言って、笑い、去っていった。
エディットギャラリー、普段は写真が表で俳句が裏だが入れ替わっている。クレジットが写真にか重なっているのが「裏側」感を演出している。
「読書って、どうみても表の感じがするから<裏側>っていうのはちょっとおもしろい」と長男が言う。
どういうこと?
夏休み前には、必ず学校から「推薦図書」みたいなプリントが配られる。読書感想文の宿題も出る。でも、ゲームや動画が推奨されることはない。だからゲームや動画が裏で、読書は表な感じがするという。
「もし、ああいった学校からのプリントがなかったら、本が読まれる量ってどうなるんだろう?」
読書が学校から推奨されることが、書籍流通の経済や読書文化にどう影響しているのか。読書人口を増やしているのか、それとも減らしているのかを考えてみたことがあるらしい。
学校や書店で配られる、さまざまな団体・出版社のパンフレット
モーラとレビュー
『読書の裏側』と一緒に、新潮社と集英社と角川の「夏の文庫フェア」のパンフレットももらってきた。
ああだこうだ言いながら読み比べていると、「これ、ぜんぶ読んでるような人いるの?」と尋ねられた。
「本って全部読むってなかなか無理じゃない。それが気になる」と長男が続ける。
ニコニコ動画のボカロ曲なら、その日アップされたものを全部聞いて、月間や年間のベストを選定し、SNSで感想をアップしてる人がいる。長男はモーラ派なので、ネット音楽文化のそういうところがビビッときたらしい。
「本って、動画と違って、そもそも読むためにはお金出して買わないといけないし、一冊読むのに時間がかかる。ぜんぶ読んで感想をアップするってかなりむずかしそう」
うっと言葉につまる。
イシス編集学校に、毎日出版される本全部に目を通している人はいたけど、ベストの発信までしている人はすぐには思い当たらない。
でも知らないだけでインスタやツイッターにいる可能性はある。
100冊読み宣言
じゃあ、かあさん、この夏は新潮文庫の100冊をぜんぶ読んでみる。
それでインスタにあげると長男と長女に宣言した。
「いくらかかるの?」
「そんな時間あるの?」
「うちの本棚にはもう隙間ないよ」
二人からワイワイ、とめられる。いつの間にか、子どものほうがジョーシキ的になっていた。
本の大人買い。お小遣いで本を買ってた時代はできなかった。
リストを見ると再読しようと思ってそのままになっていた本も多い。瓢箪から駒、渡りに舟の100冊読書。8月23日現在、17冊目、ドストエフスキーの『罪と罰(下)』を読んでいる
<補記>
「モーラ読み」をしている人がいたら教えてほしいとフェイスブックで聞くと、「マンガのスコア」の堀江純一さんから宮崎哲弥さんの名前があがりました。
千夜千冊『新書365冊』宮崎哲弥
編集かあさん家のホームエデュケーションでは、堀江さんも「センセイ」の一人です。
松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
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