-
ごっこ遊びのパイオニア 「代官山 蔦屋書店」
- 2019/12/08(日)14:44
-
一冊一冊の本を敬い、活かすことを徹底した図書館や書店には空間を編集する力をもつ。そのあちこちを歩いてみたい。
“読む前の本の姿や雰囲気も、実はもう「読書する」に入っていると思います。
ということは、図書館や書店は、その空間自体が「読書する」なんですよ。”
「多読術」松岡正剛(ちくま書房)より
物語、比喩、いきいき、ごっこ遊び、コレクション。
これらの言葉から、何を思い浮かべるだろう。
子ども部屋、転がっているおもちゃ、絵本の棚、友達や兄弟との遊びだろうか。
これはカナダの教育者、キエラン・イーガンによる『想像力を触発する教育』(※)に登場する言葉だ。イーガンは長年に渡り、子どもの想像力と教育の関係を研究してきた。その彼が、子どもにひそむ想像力を引き出すとして提唱した15の視軸を指す。
視軸からいくつか抜粋する。
・できるかぎり「物語」を重視する。
・柔らかい「比喩」をいろいろ使ってみる。
・何でも「いきいき」としているんだという見方をする。
・ふだんの「ごっこ遊び」はとことん究める。
・好きな「コレクション」と「趣味」に遊べるようにする。
イーガンは、“「物語」も「ごっこ遊び」も「コレクション」も子どもの想像力を触発する道具(ツール)である”と唱えているが、むしろこれは子どもだけでなく、大人こそ社会で使うべきツールだ。
例えば、店づくりをするときに、訪れる人に対してどう商品を見せるか、店のコンセプトをどう伝えるかをイメージして組み立てていく。書店でいえば、どんな本を売り、どう配架するか。
そもそも書店とは、本を売る場であり「過ごす場」ではなかった。
その概念は2000年代以降、変化し始める。本の販売とともに、客の居場所づくりを提案したのが「代官山 蔦屋書店」(以後、蔦屋書店)だ。

蔦屋書店はオープンにあたり、店舗空間を“店ではなく訪れたくなるような居心地のよい家“と見立て、プランを構想した。
建物は3棟のなかに、いくつもの小さな部屋を設け、ヒューマンスケールを意識している。あるときは書斎や隠れ家でひっそりと本を選び、思考を巡らしながら過ごすことができる。別の部屋では、大きな開口部から日差しが入る部屋でのびのびとイメージを拡げられるような開放感をもたせる。人は書斎に籠ったり、窓辺でリラックスしたりと、思考と状況に応じて、居場所を変えることができる。

イーガンの15の視軸には‟想像力を育くむ認知的道具の大半は「日々の生活」のなかにある。”という項目もある。
「誰かの家を訪れる」「部屋で本を読む」
コンセプトを徹底した蔦屋書店は、本の配架方法も工夫した。
分類ごとに本を置くだけでなく、音楽(CD)、映画(DVD)、日用品も揃って並べられている。結果、料理本を探しに訪れた人が、食のエッセイ本や食品などもあわせて買い求めるなど、関心ごとの探求は多方向に進む。

書店の在り方を自由に変化させた蔦屋書店の遊び心には、イーガンが提唱した伸びやかな発想が込められている。それは一冊ずつの本と訪れる人の心にいきいきとした光をあてるものだ。
代官山で誕生した“ごっこ遊び”のパイオニアが、今後さらにどんな変化を起こすか、期待している。

代官山 蔦屋書店URL
https://store.tsite.jp/daikanyama/
(※)参考 千夜千冊1540夜キエラン・イーガン『想像力を触発する教育』