子どもイシスにあふれたモノ、こぼれたコト【20周年感門之盟】

2020/09/25(金)10:45
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「みなさん、おはようございます! ここからは子どもイシスの時間です。大人のみなさんも、お題にどうぞ挑戦してください」

 感門之盟2日目朝のプログラム「子どもイシス」のナビを務めたのは「編集かあさん」連載中の松井路代[多読ジム冊師]である。

 「日本の編集家族」としてナマ出演したのはこの6組。
兵庫から吉野陽子[冊師]とけいすけくん(小2)。
旅先の京都から得原藍[本楼おやこ塾ナビ]とかずまくん(5歳)、友達のてるくん(2歳)。
東京から景山卓也[冊師]とかふうくん(3歳)。
愛知から上原悦子[42破師範代]とごうくん(3歳)。
広島から浦澤美穂[43守師範代]とみちちゃん(7か月)。
そして大阪から泉谷さん[多読ジム読衆]とゆきちゃん(小3)。

「すきなもの3つ」の自己紹介のあと、お題タイムに入る。
 今日のお題のタネは絵本『なにをたべてきたの?』(岸田衿子文・長野博一絵/佼成出版社)。ナビがよく見えるようカメラの前に掲げる。

 

『なにをたべてきたの?』(岸田衿子作・長野博一絵/佼成出版社)


「表紙を見ると主人公“ぶたくん”のおなかに色がついています。さあ、なにをたべて、こうなったのか想像をめぐらせてみよう」。

 けいすけくんが速攻で画面に写してくれた回答は「りんご」。
「パッと浮かんだんだ」とコメント。きっと0.01秒ぐらいでつながったんだね、「りんご」っていうのは浮かびやすい食べ物なのかもしれないねとプロセスを一緒にトレースする。
 得原さんちのかずまくんはワークシートを持って画面の外へいってしまったらしい。きっと場所を移してあれこれ連想中なのだ。友だちのてるくんが「いちごをぱくぱく」とずばり回答。「2歳でもお題はできるんだって、発見でした」と傍らの得原さん。いちご、好きなのかな? お題を通してその子のホントの「好き」が透けてみえるのがおもしろい。
 ごうくんは「りんごとぶどうをごむごむ」食べたと回答した。上原かあさんは驚きつつもワークシートにそう書いた。「ごむごむ」というオノマトペに会場が湧く。ごうくんはニコニコしながら、自分のお気に入りのおもちゃをみんなに披露してくれた。「知らせたい」が溢れている。
 かふうくんは「りんごといちごとポスト」と回答。4つの色の中から赤に注目して、身近な赤いもの3つをあげたのだと想像する。ポストが突出している! おとなの「ほんと」を揺さぶる回答だ。
 浦澤さん家の回答は「ぶどう」。種入りのイラストの丁寧なイラストにナビの松井、感じ入る。赤ちゃんとのワークでは「かあさん」が「代わり」に回答する。この時子どもの視点が混じってくるのが醍醐味なのである。みちちゃんの瞳にはきっと種がうつっているのだろうと思う。
 一番年長のゆきちゃんは、サツマイモの絵をとても丁寧に書いてくれた。回答シートのぶたさんも秋色に染まっている。「地」の変化にも目を配る、俯瞰的な視点が育っているのを感じた。

 

 絵本から「なにをたべてきたの?」「(    )をたべてきたよ」の「型」を取り出して作ったお題。

 子ども達の言葉やカラダの動きに触発され、チャットには25通もの回答や感想が寄せられた。

 集まった「回答」は、綴り合せて表紙をつけ、新たな一冊の「絵本」となる予定だ。一つの「Q」(問い)にたいする「E」(エディット)が多様多彩であるほど読み応えのある本となることを、子ども達に実感してほしいという思いで設計した仕立てである。

 感門之盟でこぼれたことを、書き記しておきたい。
 ずっと前、ある7歳の女の子がこう言った。「教えてくれることは、いつもだいたい知ってるよ。でもそれとね、いまわたしが知りたいことと違うんだ」。
 これが子どもイシスの原点だ。今はもう大人になった佐々木千佳局長の娘さんの言葉だが、10数年の時を越えてナビの長男も同じことを言ったのである。ずいぶん待たせたものである。
 子ども編集学校は「子どもの発想はすばらしい」と称える場ではなく、「未熟な子どもに大人が発想の「型」を伝える場」でもない。
 日常の中にある「型」を見出す力。小さな違和感やズレ、変化から遊びと学びを掘り起こしていく「方法のスコップ」を手渡す場であり、大人にとっては懐かしい未知とのインターフェイスである。

 

■「子どもと編集」について交し合えるラウンジが、10月オープンする予定です。卒門以上の方ならどなたでもご参加いただけます。今後の子ども編集学校ページやISIS通信にご注目ください。
 https://es.isis.ne.jp/news/project/2757

  • 松井 路代

    編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025