編集のライトセーバーを取れ イシスのジェダイが飛び立つ35花敢談儀

2021/08/07(土)08:50
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■ためらう英雄

 

英雄は召命を辞退する。フェンシングで日本の四剣士が金メダルを獲得した翌7月31日、豪徳寺では花伝所の演習修了を称える35[花]敢談儀が行われていた。自身の不足と徹底的に向き合うため、ダークサイドに落ちる者も続出した苛烈な7週間。

師範陣に突かれ刺され斬られ、22名が命からがら掴み取った「師範代認定」。深谷もと佳(花目付)は念押しした。「認定は、任命ではありません。イシスが総力をあげて応援するけれど、決めるのはご自身です」 師範代として教室を担う免許を手に入れたからといって、すべての者が意気揚々と次期48[守]へ名乗りを上げるわけではない。むしろ、無邪気に師範代に憧れた学衆時代とは異なり、指南という刀の持つ力におののいて二の足を踏む者も多かった。

 

■いまはライトセーバーを手に入れただけ

 

彼らをまえに、ゲストとして登壇した新井陽大(46[破]師範)は言い放った。
「映画でたとえるなら、みなさんはまだ開始30分の時点にいます」
スター・ウォーズ エピソード4になぞらえ、「放伝とは、ルークがオビ・ワンからライトセーバーを渡された段階です。まだ冒険は始まっていません」 Zoom画面に集うジェダイの卵がどよめいた。

 

▲聞き手は律師八田英子(左)。新井のことを「可愛くて頼りになる」と期待を寄せる。

 

「バニー」というあだ名にたがわず、跳ねるような口ぶりで放伝生を煽る新井。20代での2度の登板経験をふまえ、放伝したいまこそ「血管に染み渡るように感じられる」と、ある1冊の本をカメラにかざした。ジャパネットたかた顔負けに売り込んだのは『インタースコア』。なかでも、「師範代は混乱をおそれない」という福田容子(46[破]師範)の師範代論は、何度も音読したと声を上ずらせる。新井は、「新しい学」を提唱したジャンバッティスタ・ヴィーコの言葉をひきながら、福田の論旨を強調した。

「学び」を双方向のインタースコアとして捉える編集学校では、

「知」は上から降りそそぐありがたいようなものではなく、

対話のなかに出現してくると考える。

『インタースコア』(p.179)

 

はじめての師範代登板時、慣れない教室運営に悩んでいた新井は、冨澤陽一郎(当時[守]学匠)から異例の直電を受けたという。

「指南は、『返さなければならないもの』ではないです。テーブルを挟んで、談義したり話したりするようなものなんです」

当時大学生だった新井は、その言葉で「教えなければならない」という気負いがほどけたと語る。

 

オブザーブとして参加していた鈴木康代([守]学匠)も言葉を重ねた。「師範代になるときは、教室名をもらう。つまり、松岡校長に編集されるところから始まります」 

師範代は、学衆の回答を編集するだけではない。松岡正剛の編集を受けて旅立ち、学匠はじめ同志たちと編集しあい、みずからを編集的なゆらぎのなかに置きつづけるものなのだ。田中晶子(花伝所長)はそれを「編集的自他」と呼んだ。

 

■「成っていく現場」がイシスに

 

師範代は「こんなことになるとは」とつぶやきながら、いつしか師範代になっていく。その姿は、「つぎつぎ・に・なりゆく・いきほほひ」という日本のすがたを体現するかのようだ。22名の放伝生に対して、当期・オブザーブあわせて31名の指導陣が背中を押す。

そのなかには、21年前に1[守・破]放し方教室に入門した森由佳(未知奥連弦主)の顔もあった。森が師範代を務めた10[守]夕空くじら教室は、いまでも師範代がお手本にするマザーモデルのひとつである。森は、38題を図解した入伝生に「すごすぎじゃない?!」と目をまんまるにしながら、「自分を絞り出して指南を書いていると、いつしか自分だけではなく、何かが動いていく」と教室の神秘を語った。

 

敢談儀の一日を締めくくった佐々木千佳(局長)は、一国の首相が言葉のレバレッジをまったく効かせられないこの危機的状況のなか、けっして世界を閉じてはならないと切々と訴えかけた。ガリレオが望遠鏡を作り、小さな穴から天動説を覆したように、私たちも穴を開けていかねばならない。世界観を更新しつづけるためには、編集という看板はおろしてはならないと。

▲「イシスは再生の女神。言葉が貧しくなるいまこそ、編集の力を」と手書きのメモが追いつかないほど高速かつ高密度で語った局長佐々木千佳。

 

■日常からの離陸へ

 

ルークは、農夫としての仕事を理由にオルデラン行きを拒絶した。日々の務めに忙しいのは古今東西同じこと。見慣れた土地で足元を見つめるのは世のならいだが、わずかな風穴からこれまでにない突風が吹いたとき、日常から踵が浮く。

 

翌日、道場には新たなる志が芽吹いていた。「師範代とは、夢にも思いませんでした」「まだ見ぬ世界を見たいので」「とんでもないエネルギーに後押しされました」

花伝式目という由緒あるライトセーバーを携えた35[花]のジェダイたちは、2021年秋開講の48[守]目がけて飛び立った。

 

▲敢談儀前日まで[破]物語AT講評を執筆していた新井。「丸腰で社会というダース・シディアスに向かうのは、孤独です。でも師範代になれば、たくさんのオビ・ワン、たくさんのハン・ソロとともに戦えます」 イシスのジェダイが出会う未来の仲間を示唆した。

 

写真:後藤由加里

 

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  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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