善光寺へ通ずる長野大通りにはエディティング・セルフが花開いていた。
2月某日、青空が広がり冬のピンと張り詰めた空気の中、49[破]チームあれりすか(おにぎりギリギリ教室・ヤマネコでいく教室)の面々が合同汁講に集まった。参加者は、ヤマネコでいく教室からは師範代の安田晶子、学衆の本城慎之介、加藤陽康。おにぎりギリギリ教室からは師範代の宮坂由香、学衆の瀬尾真喜子。そして、師範の華岡晃生。長野在住者が多く、北陸や関東からも交通の便が良いため長野市が集合場所に選ばれた。松岡校長が「善光寺プロジェクト」に関わっていた御縁も偶然ではない。
当日は、善光寺近隣に住むカメラマンの宮坂師範代が、長野駅から善光寺までのイシスツアーをプランニングし、写真撮影も担当してくれた。
最初に訪れたのは、23[破]ひとたび萃点教室の米山貴則さん一家が経営する中華料理店の清広亭である。米山さんは、「イシスで勉強したことを活かせていないんですけど」と語るが、壁には米山さんが描いたというアートが美しく輝いていた。イシスの属性があれば、途端に会話に花開く。期を超えて通じ合えるものを感じられる瞬間だった。
清広亭で談笑していると、「そちらの会に参加したいのですが」と電話がお店にかかってきた。イシスに事件はつきもの。安田師範代は「植木さんじゃないですか?」。植木よしえは、長野県在住で農家を営むヤマネコでいく教室の学衆である。突破は叶わなかったが、長野で会いたかったと皆で噂をしていた直後のことだった。
植木は昨年11月26日の第二回目の伝習座を参観して、
師範代や師範も、私たちより型の扱いを得手しているけど、試行錯誤を重ね、愉しみながら型を駆使して課題に当たっている様子でした。みんな人間してました。我々生徒がいかに想われているかわかってまずは嬉しくなりました。
イシス編集学校は自走式エンジンを持った永久発展機関みたいだと思いました。松岡校長という一つずば抜けた思考回路は、自身不在でも稼働し続ける仕組みを作ったんだなあと。
との、感想を寄せてくれた。師範代や師範は、学衆たちが自分の殻を破ろうとぶつかってきてくれるのが堪らない。教室で果たせなかった残念を抱えながらも植木が汁講に飛び入り参加してくれたことは、きっと次に繋がっていく。
次に、訪れたのは個性的な店主たちが営む本屋さん。「千夜千冊エディションフェア知祭り」でも記憶に新しい平安堂(長野店)にch.books。そして、老舗書店である朝陽館。店主さんの〈地〉を想起させる本のラインナップが魅力である。本屋を巡るだけでも一日では足りない。長野市は、本好きには堪らない町だった。
おにぎりギリギリ教室の瀬尾は、フランスへの留学経験もあるピアニスト。宮坂師範代と瀬尾は二項同体とも言える指南回答の応酬で、第一回AT賞(セイゴオ知文術)はアリス大賞、第二回AT賞(物語編集術)は、アリス一席と花々しい結果を見事勝ち取った。瀬尾は宮坂師範代へ厚い信頼を寄せており、口癖は「ゆか師範代のお陰です」。そんな瀬尾が購入したのは宮坂師範代が薦めたポール・オースター著の『ムーン・パレス』だった。松岡校長に肖って帰りの電車で読み始めていたらしい。
ポール・オースターの作品はどれも勧めたいが、
できれば電車の中か喫茶店かバーで読むことを勧める。
ヤマネコでいく教室の本城は、2020年に軽井沢風越学園を創設し、理事長をつとめる。3歳から15歳の子どもたちがごちゃまぜに介する学園である。本城は、「落ち込んでポツンと泣いている中学生に、『大丈夫?』と3歳の男の子がなぐさめに行く光景を外から眺めていて涙が出そうになりました。小学2年生の殴り合いの喧嘩を中学生が仲裁してくれたりなんてこともあるんですよ」と、声を弾ませながら語る。目に浮かぶ子ども同士の化学反応がとても眩しい。そんな本城が手に取る本は、絵本や子どもたちの本ばかりであった。授業に編集術を交えると、子どもたちの理解が深まるとのことである。
じっくり ゆったり
たっぷり まざって遊ぶ
学ぶ 「 」になる
最終目的地は善光寺。長野駅から約1万歩の道のりを歩いて辿り着いたのは午後5時手前だった。すっかり人気は少なくなり、本堂は辛うじて開いていた。各々がお参りを済ました頃には日が暮れ始め、途端に気温が下がってきた。金沢生まれ金沢育ちの華岡も寒さに凍えるほどだった。
解散後に、電車待ちの間、駅構内で本城、加藤、瀬尾、華岡で信州蕎麦を味わうことになった。加藤は遊刊エディストでもエアサックス加藤としてすっかり有名人。加藤はポツリと「編集は何で、与件から始めるんですかね」とつぶやき出した。植木が突然やってきたことで、長野合同汁講も別様の可能性が広がっていった。与件には未知が詰まっている。わたしたちはイシスの属性は共通しているが、互いに未知の情報集合体なのだ。エディティング・モデルをリアルタイムで交わし合える汁講は[破]の先を見据えるチーム「あれりすか」にとっても有意義だったに違いない。
三度目の正直で突破できた加藤はポツリともう一言、「あぁ、あんこ師範代の指南のお陰で突破できたことのお礼をもっと言えば良かったな」。
今ココに差し掛かる力を磨くためにも、道は花伝所に続いていくのだった。
華岡晃生
編集的先達:張仲景。研修医時代、講座費用を捻出できず、ローンを組んで花伝所入門。師範代、離を経て、[破]師範に。金沢のエディットドクターKとして、西洋医学のみならず漢方にも造詣が深い。趣味は伝建地区巡り。
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