守師範、52[破]の汁講へ行く

2024/07/11(木)12:01
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 老いたのらねこから、どうぶつ島に囚われているりゅうの子の話を聞いた9歳のエルマーは、救い出す旅に出発します。赤ずきんちゃんは、母親から病気のおばあさんにブドウ酒とお菓子を届けるようにいわれ、村から半時間もかかる森の奥を目指します。アリスは、チョッキを着た兎が「これじゃ遅刻しちまうぞ!」と独り言を言いながら穴に飛び込むのを見て、好奇心が燃え上がり、遅れじと後を追いました。だいたい冒険は、「誰か」の「急な言葉」で始まるのです。


 6月23日もそうでした。花伝所の道場仲間である畑本ヒロノブ師範代から、52[破]のチーム奇りり(ダイモーン維摩教室+語部ミメーシス教室)合同リアル汁講の話を聞いた私は、即座に「呼んでよ」と声を発していたのです。私には畑本師範代がチョッキを着た兎に見えていたのでしょう。


 手を挙げてでも駆けつけたかったのには、理由があります。52[破]の学衆の多くは52[守]の出身者です。師範として稽古ぶりを見ていた私は、その変化ぶりを見てみたかった。何より、担当教室にいた石田利枝子さんが、オランダから帰国して参加するというニュースに、何を置いても参加せねばと思ったのでした。


 それはそれは、濃密な時間が流れていました。
 本楼でのメインは「物語編集術」のワーク。グリムの「赤ずきんちゃん」を題材に、師範代のナビゲートに従い、学衆がキャラクターや物語の構造を読みとっていきます。さらに、本楼で選んだ本をワールドモデルとし、「赤ずきんちゃん」を翻案。学衆たちの真摯な様子と的確な分析を目撃し、「こんなにも成長するのか!」と内心、驚いていたことは内緒です。ついでにいうならば、高田智英子師範代の発する言葉に、「自信」がプラスされていることに気づいたのですが、これを書くのは野暮でしょう。

▲本楼を学衆に案内する高田師範代(左)。八田英子律師からは「完璧」との声が漏れた。

▲準備の人・畑本師範代(一番奥)の用意周到なワークは、学衆の学びを深めた。

岡村豊彦評匠(一番奥)も駆けつけアドバイスを送る。

▲「イシスで学ぶと本の読み方が変わる」と桂大介師範(左)。


 汁講の最中、桂大介師範(チーム奇りり)は、何度も繰り返しました。
「こんな汁講、いつ以来だろう?」


 コロナも明け、リアルで会えるようになったイシス編集学校が取り戻したのは、「非効率な体験」の共有なのかもしれません。
 朝10時45分に集まり、一緒に「青熊書店」をめぐり、ランチをし、豪徳寺の本楼でワークと歓談。さらにアフター汁講になだれ込み、終わったのは22時過ぎ。2時間のワークを除けば、そこで交わされる話は脇道を行きつ戻りつの寄り道ばかり。でも、そこには常に編集的視点があって、だからこそすぐにエディティングモデルの交換も起きる。面倒な手続きがなくても、すぐに「どうぶつ島」や「不思議の国」で冒険できるのが、もしかしたらイシス編集学校という「場」なのかもしれません。


 私は師範として、この日、汁講に参加した52[守]学衆の佐藤賢さんや辻博靖さん、加藤則江さんの稽古ぶりを「鳥の目」で見ていましたが、直接、交わしあったことはありません。50[守]出身の辻志穂さんにいたってはまったくの初めてだったのですが、なぜかどの方と話しても、そこに奇妙な懐かしさがありました。
 それは、共にイシスで冒険したという同志感情なのか。あるいは、豪徳寺の本楼=原郷の力が、そうさせるのか。
 ああ、こんな汁講をもっとやりたい。

▲第二次アフター汁講の模様……


 思わず参加者に向かって、「この汁講を記事にしたいです」と言葉を発していたのでした。
 自分で発した「急な言葉」に自分が突き動かされつつ、飛び込みたくなる穴を作るのも、率先して穴に飛び込むのも、師範のミッションだよなと独りごちながら、小田急線で帰路についたのでした。

 

(写真提供/畑本ヒロノブ)

 

参考資料/『エルマーのぼうけん』(ルース・スタイルス・ガネット著、わたなべしげお訳、福音館書店)、『グリム童話集(1)』(矢崎源九郎訳、偕成社文庫)、『不思議の国のアリス』(ルイス・キャロル著、柳瀬尚紀訳、ちくま文庫)

  • 角山祥道

    編集的先達:藤井聡太。「松岡正剛と同じ土俵に立つ」と宣言。花伝所では常に先頭を走り感門では代表挨拶。師範代登板と同時にエディストで連載を始めた前代未聞のプロライター。ISISをさらに複雑系(うずうず)にする異端児。角山が指南する「俺の編集力チェック(無料)」受付中。https://qe.isis.ne.jp/index/kakuyama

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