イドバタイムズissue.30 めぐり逢う七夕@国際子ども図書館

2024/08/12(月)08:11
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イシス編集学校の「世界をまるごと探究する方法」を子どもたちに手渡す。

子どもも大人もお題で遊ぶ。

イドバタイムズは「子ども編集学校」を実践する子どもフィールドからイシスの方法を発信するメディアです。


 街中で色とりどりの短冊が笹の葉に揺れる7月7日、「子ども編集学校」の展望を描く会合があった。
 午前はオンラインでのよみかき編集ワーク研鑽会、午後は子どもフィールド七夕オフ会@国際子ども図書館である。

 古く新しい知の宝庫に集う

 午前の研鑽会を終え、3歳の娘と一緒に東京・上野に向かった。JR上野駅から徒歩10分、緑あふれる上野公園を抜けると、大きなアーチ窓が目を引く洋館が建っている。むせかえるほどの暑気を帯びた白昼でも、白い煉瓦の外壁とガラス張りのエントランスからひんやりとした空気が一帯に漂う。

 

国際子ども図書館

 ここ国際子ども図書館は、明治期に建てられた帝国図書館を改修した、国立の児童書専門図書館である。ルネサンス様式の外観に、内装はシャンデリアや大階段などかつての意匠を残しつつ、現代の設備を取り入れた、今と昔が立体交差する建物だ。新聞貯蔵場は「子どもの本のへや」、応接室は「おはなしのへや」に変わり、小さな来館者たちを今日迎えている。建物が醸す荘厳な佇まいと、館内に響く子どもの笑い声や赤ちゃんの泣き声は不思議と似合っていた。
 オフ会を企画したのは、気仙沼在住で、夏休みで東京に帰省中の林愛である。奈良から松井路代、京都から坂口弥生が上京するというので、私も娘を連れて参加した。

 

大階段

 

「ごんぎつね」パネルと「MOMOTARO」ポスター

 本に囲まれBPT

 館内をめいめい好きにめぐったあと、併設するカフェに集合した。ソフトクリーム、フロート、かき氷など、どこか懐かしい夏メニューを各々注文する。カフェには、おもちゃや本が置かれ自由に手に取れるようになっていた。あっという間にソフトクリームを平らげた娘は絵本を次々に持ってきて「読んで!」とせがんだ。大人たちは新書や物語の本を間に、イドバタトークを始めた。子ども図書館を基地として、注意のカーソルが動いたモノ・コトを話し合う。
 児童文学史、成長段階で変わる図書、子どもが読み取る本の「型」、算数の英語表現、子どもの身体感覚やダジャレの言語感覚、教え上手・教えられ上手の子、昭和の親子関係。時代や場所を行き来しながらプロフィールが重なり、子ども編集学校の将来という着地点に向かっていく。

 

カフェで手に取った『帝国図書館ー近代日本の「知」の物語』長尾 宗典 (著)/中公新書

 「応答」という方法

 こども支局の松井路代がスケッチブックにまとめた理念のうち、子ども編集学校で大切にしたい方法の一つに「応答」があった。編集において重要なプロセス「問感応答返」の構成要素であり、よみかき編集ワーク研鑽会でも挙がった言葉だ。出された答えに正誤の軸をもたず、丸ごと受け止めよくのぞきこむ。
 ワークショップの過去の記録動画でナビ役の得原藍は参加した子どもの自由な答えも大人の整然とした答えも歓迎し、発想を活かし思考を広げる役割を果たしていた。「面白がること」を動力に、新しい気づきや別の発想を参加者と共に創っていく。
 「面白がること」はシンプルだが容易くない。だからこそ応答の速度・深度を高める力となり、子どもの発想を育てる芽となる。子ども編集学校の希求するもの、その方法を改めて確かめ、七夕オフ会は解散となった。

 

 「感」が「面白がる」を呼び込む

 図書館を出ると、前庭に立つ彫像に気づいた。作家・小泉八雲の記念像だった。
 『怪談』などの情緒豊かな再話文学で知られる八雲だが、妻セツが書物を読み語る声を聞き、物語を書き記したという。物語を集めて、聞いて、書き、物語にする。きわめて編集的な手順と思える。子どもが読み聞かせを全身で感じ入るように、八雲も身体から物語を感じとっていたのだろうか。他者と交わすみずみずしい「感」が「面白がること」の源になるかもしれない。

 

小泉八雲記念像


 生き生きした面白がる「感」から、活きた応答が生まれ、子どもにとっても大人にとっても創発的な学びの場となるように。笹に願いの短冊を結ぶように子ども編集学校への希望を胸に留めて家路を急いだ。



文:荒井理恵
写真:荒井理恵・松井路代
編集協力:松井路代

  • イドバタ瓦版組

    「イシス子どもフィールド」のメディア部。「イドバタイムズ」でイシスの方法を発信する。内容は「エディッツの会」をはじめとした企画の広報及びレポート。ネーミングの由来は、フィールド内のイドバタ(井戸端)で企画が生まれるのを見た松岡正剛校長が「イドバタイジング」と命名したことによる。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025