学校図書館の司書は日々、生徒と本との出会いをとりもつ要(かなめ)として、本と向き合っている。本を介して世界を広げ、深く掘り、考えてみないかと、さりげなく背中を押してくれる。そんな司書たちが一堂に会する場で、編集的な読書の方法を体験してもらう機会がやってきた。
5月18日、福岡地区高等学校の司書や司書教諭が集う学校図書館協議会の総会に招かれたのは、九天玄氣組の三苫麻里である。めんたいエディトン教室(37守/破)に中洲マリリン教室(45守)という博多仕込みの教室名を持つ師範代であり、九天では棋譜陣として石井梨香(師範)とともに組を盛り立てている。
会場となった福岡県立筑前高校は、三苫が20年ほど前に国語教師として勤務した学校でもあった。2022年夏に同校で開催した図書委員(生徒)向けのワークショップが好評だったこともあり、ふたたび講師として声がかかったのだ。
会場には44校、約70名の司書らが参集した。
恋心ゆらゆらの読書体験
「ホンとの話~読書は交際だ!セイゴオ流読書術体験~」をタイトルに、60分1本勝負の鐘が鳴る。
「読書は交際です。恋心が揺らめくような読み方をしてみませんか」と三苫が切り出すと、会場内の空気もかすかに揺らめいた。
最初のお題は「●読」の造語づくりで、今やってみたい読書を漢字一字プラス「読」で表すというもの。本好きの司書らしく、出された回答は「沈読」「潜読」「没読」「深読」といった本の世界に浸りたい気持ちあふれる回答が多く目についた。なかには毎日3分でも読書習慣をつける目標を掲げた「寸読」や呼吸をするように読みたいという願望を表す「息読」、ほかに「歌読」「夢読」というイメージ広がる糸口を掴んだ参加者もいて、読書の多様な志向性をのぞかせていた。
廊下に並べられた新書120冊の中から、気になる未読の本を手に取る。
「●読」の回答には読書欲のリアルが滲み出る。
入力から出力、そして交際する読書へ
本日のメインディッシュは目次読書術。事前に用意した120冊の新書から、読んだことのない1冊を選んでもらうのだが、いきなり本文を開いてはいけない。表紙まわりを読んだあと、本の骨格である目次を熟読。そこからキーワード、ホットワードを取り出して読書マップを作ったうえで本文に入る、というのが大まかな流れである。1冊を5分で読み切るという制限付きのためにパラパラ読みは必須だが、さすが司書は本のプロフェッショナル、その集中力は抜群だ。本を読む構えにも安定感があった。
黙読によるインプットを終えたあとは、お隣同士で、さもすべて読んだかのように堂々と本を紹介し合う。これは読書を独り占めしないという、江戸時代の藩校や私塾で行われていた共同読書会「会読」につながるプログラムである。
黙々と目次読書中。キーワードとホットワードを書き出していく。
江戸期より「会読」が盛んだった福岡で
江戸時代、実際に福岡は熊本に次いで「会読」に取り組んだ先進地であった(千夜千冊#1661前田勉『江戸の読書会』)。会読とはイシス編集学校で定着している「共読」のことで、「一つのテキストを複数の人々が討論し合いながら読むという共同読書の方法」のこと。『江戸の読書会』の著者・前田勉氏は「日本でも明治初期まで、本は黙読ではなく、音読して読まれたことに、孤独で内密な近代読者とは異なる、書物の享受形態があった」と著書で紹介しているが、もともとこの地には「会読=共読」の素地があるのだ。そう語る三苫の声にも力が入る。
今回は1対1の最小単位での共読体験ではあったが、「本の持つ可能性を広げる機会になれば」と三苫は言う。共読をきっかけに、さらに本の世界に没入し、ときめく言葉に出会い、新たな気づきに瞳を輝かせることもある。いかに本と付き合うかが、鍵なのだ。これ、ホンとの話。
中野由紀昌
編集的先達:石牟礼道子。侠気と九州愛あふれる九天玄氣組組長。組員の信頼は厚く、イシスで最も活気ある支所をつくった。個人事務所として黒ひょうたんがシンボルの「瓢箪座」を設立し、九州遊学を続ける。
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