自らの体内から這い出したコマユバチの幼虫たちが作った繭の塊を抱きしめるシャクトリムシ。科学者は「ゾンビ化されて繭を守るよう操作されている」と解釈するけれど、これこそ「稜威」の極北の姿ではないだろうか。
Gato Azulの手製本に初めて触れたのは、数年前の長浜の青貓堂セミナーだった。ガイドとして手渡されたのが、手触り感のある薄桃色に虹色の糸がかかった冊子だった。和紙の艶やかな表面とざらざらとした裏面に配置された写真と文章の意外なマッチングに思わず溜息が出た。
多読アレゴリア・群島ククムイの航海がはじまった当初から、船長の今福龍太さんは、航海一年目の節目を迎えたときには手づくり本に挑戦することを勧めてくださっていた。出航から一年をちょうど経た2025年の年の瀬、長浜でGato Azul×群島ククムイの本づくりワークショップが決行された。
Gato Azulの今福明子さんの手ほどきで挑戦するのは、三つ折り本だ。群島ククムイの乗組員たちが、一年間の航海で綴った文章や撮影した写真などめいめいの旅の断片をA4用紙に印刷して持ち寄った。明子さんの案内に従い、紙を並べて、折りこんで、糊でつないでいく。過ぎ去ったはずの時間が、手元で色を取り戻し、新たな並びを得て形を帯びていく。表紙と中表紙とつなげて本の形をなす頃には、きれぎれに記憶されていた事象たちの底に流れる水脈のようなものが見えてくる。
事前に「頭の中を自由にして準備をしてくださいね」と何度も声がけしてくれた明子さんは、普段は一人で本づくりに向きあう。が、ワークショップ当日は、黒い帽子とチェックのスカートで、手品師のような装いだ。思い思いの準備をしてきた面々をにこやかに迎え、「どんな本をつくりたい?」と好奇心いっぱいに聴きだす。好みも進み具合も、多彩(=ばらばら)な8名に目を配り、あたたかく巧みな手さばきで、それぞれの本づくりを導いてくれた。
ワークショップは終わったが、できあがったばかりの本を前に、話が尽きない。本づくりの難しさと面白さ、一年間の航海の名場面談義、最近の本事情あれこれ…。ところどころに不器用な糊付けの跡が残る手製本を見るたびに、本づくりの前・中・後のときめきとこの会話を思い出すことになるだろう。
限りあるものとの、偶然の出会い。私たちは誰もが、そのようにして書物と出会うほかないのだ。そして生命という、私が私自身と果たしたただ一度の出会いすら、この偶然性の外部にあるものではないだろう。
『身体としての書物』今福龍太
人はもちろん、本も決して永遠ではない。過ぎ去っていき、消え去っていくという摂理を了解しながらも、人は本に手をかけてきた。旅の思い出と紙と道具たち、、、見えないものと見えるものとの間を行き来して、いかに「ことば」と「かたち」に留められるのか。ギリギリのせめぎ合いを経て、あの薄桃色の本も、たくさんの本たちも生まれている。
(文:阿曽祐子)
★Gato Azulが日本(横浜)のアートブックフェアに初めて出展します。
今福明子さんによる手製本をぜひ手に取ってみてください。
日付:2026年1月23日(金)、24日(土)、25日(日)
時間:12:00〜20:00(19:30最終入場)、最終日のみ18:00終了(17:30最終入場)
入場料:前売800円(当日1,000円) ※学生以下無料
会場:Art Center NEW(〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい5丁目1 新高島駅 地下
Book and Food FAIR
[NEW B&F] Book and Food FAIR
———本とフードでつながる3日間。
2026年1月、Art Center NEWで初めてのアートブックフェアを開催します。
テーマは、アートブックと食。
中華街がある横浜でアートと中華を堪能する3日間。
<ゲスト出店>
Take UME テイクユーエムイー
Gato Azul (★)
いぬのせなか座
TIGER MOUNTAIN
そぞろ書房
platform3
下平晃道/ from GOLDEN BUTTER BOOKS
三輪舎&生活綴方出版部
第三滑走路
Art Center NEW
群島ククムイ
ククムイは奄美・沖縄のことばでぷっくり膨らんだ小さな
蕾のこと。船長の今福龍太さんから届くことばに導かれ想
像力の花を育む群島コミューン。その島影で航海模様を綴
るのが、遊びごころいっぱいの多彩なククムイストです。
2026冬 声と曲の航海へ、乗組員募集! 群島ククムイ【多読アレゴリア】
さあ、群島ククムイの航海の始まりです! 小さな小さな島、短い短い言葉に注意をはらって! この冬、船長の今福龍太さんとともに新たな航海へ漕ぎだします。 好奇心のマストを立て、想像力のセイルを広げ、ことばの風を […]
【群島ククムイ】霧の中からの生成ーーー今福龍太船長との台湾旅(2)
生成とは、たんに一つの存在が別の存在を因果論的に生み出すことではまったくない。それは操作的な情報になることを拒否するような、不定形の共鳴体・共振体のことである。 今福龍太船長の『霧のコミューン』を共読したとき、 […]
【群島ククムイ】霧の中のフォルモーザーーー今福龍太船長との台湾旅(1)
島は島は言葉を求め、言葉は島を呼び寄せます 2024年秋、今福龍太船長のひと言で、多読アレゴリア・群島ククムイの航海がはじまった。 フォルモーザ、フォルモーサ、エルモーサ、美麗島…、今は「台湾」と呼ば […]
世界とわたしのあいだ、半影の海へ。【群島ククムイ:25秋の募集】
群島ククムイは、ISIS co-missionの今福龍太さんとコラボレーションしているクラブです。クラブの創設以来、今福さんは船長として、新しい土地への旅はもちろんのこと、常に新しい言葉や書物への旅…、さまざまな旅へと […]
【多読アレゴリア:群島ククムイ】今福龍太と夏の島旅へヨーソロー
夏の旅は、イシスコミッションの今福龍太さんとゆるやかな島めぐりの航海へ漕ぎ出しましょう。 小さな小さな島、短い短い言葉に注意をはらって! 2024年冬の初航海は、大西洋のうるわしい群島、カーボ […]
コメント
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2026-01-13
自らの体内から這い出したコマユバチの幼虫たちが作った繭の塊を抱きしめるシャクトリムシ。科学者は「ゾンビ化されて繭を守るよう操作されている」と解釈するけれど、これこそ「稜威」の極北の姿ではないだろうか。
2026-01-12
午年には馬の写真集を。根室半島の沖合に浮かぶ上陸禁止の無人島には馬だけが生息している。島での役割を終え、段階的に頭数を減らし、やがて絶えることが決定づけられている島の馬を15年にわたり撮り続けてきた美しく静かな一冊。
岡田敦『ユルリ島の馬』(青幻舎)
2026-01-12
比べてみれば堂々たる勇姿。愛媛県八幡浜産「富士柿」は、サイズも日本一だ。手のひらにたっぷり乗る重量級の富士柿は、さっぱりした甘味にとろっとした食感。白身魚と合わせてカルパッチョにすると格別に美味。見方を変えれば世界は無限だ。