物語はイシスの文化も更新する〜[遊]物語講座18綴【蒐譚場】

2025/12/17(水)08:00 img
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 「物語は始原から表現まで、あらゆるところに関係をしているものでもあるから」それが、松岡校長が物語をここまで重要視した理由です。

 

 物語講座18綴の蒐譚場で、吉村林頭はそう語りはじめた。続けて、イシス編集学校と編集工学研究所において、重要だという3本の柱を確認する。言わずもがなの「編集工学」と松岡校長のライフワークとも言える「方法日本」、3つ目は「物語回路」だと。そして、物語には、物語講座で示している以上に広いスコープがあると明かす。吉村は、伝えずにはいられない、という切実さをのぞかせつつ、物語回路には代表的な4つの視座がある、と話を急いだ。

 

  1. Ⅰ 情報システム自体が物語
  2.  我々が観測できない多次元宇宙から、意味解釈できる情報宇宙が発生したこと。それ自体が物語の発生だ。さらに、生命の鋳型になるワールドモデルの中で、情報が保存され、転写され、代謝される。この中に情報の要素のキャラクターがあり、結合したり分離したりする反応のシーンがある。その流れ自体がストーリーであって、その解釈系がナレーターになる。
  3.  編集工学研究所のスローガンでもある「生命に学ぶ」は、「生命の物語に学ぶ」とも言い換えられるのだ。
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  5. Ⅱ 物語は世界モデルを震わすメディア
  6.  物語は、情報を運搬し、拡散し、強力な影響力を及ぼすメディアである。意味や価値観や幻想を共有し、ハイコンテキストな言語コミュニケーションを育みながら相互編集を促進する。それは、世界モデルがわたしたちを共有し、共感、共振する物語の機能のひとつである。
  7.  一方で、神話や説話は編集され、ナチスに代表される優生思想や排外的な行動に変換されるようなことも起きる。実際、それらが紛争や極右的な言説となって現れる現代社会を仰ぎ見れば、物語の影響力の大きさを実感せざるを得ない。また、振り返れば、私たち個人も、社会的な物語に束縛される部分を持つ。
  8.  ただし、その物語は如何様にも編集可能なもの。私たちは、破のクロニクル編集や物語編集を通じて知っている。
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  10. Ⅲ 物語は二次、三次編集を起こす文化装置
  11.  西洋でも東洋でも、古典や伝説、宗教は、二次編集、三次編集が起きて文化となった。日本では、古事記のような神話は童話へ、万葉の和歌は新しい歌や俳句へと本歌取され、変化を続けてきた。さらには、文楽、歌舞伎、落語へと編集が重ねられることで日本文化は形成されたのだ。物語は共有され、二次、三次と、編集を起こす文化装置でもある。
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  13. Ⅳ 物語は破壊と再生を促す
  14.  物語は、世界にある裂け目をあらわにする。既存の正しさに葛藤を覚えることは誰にもある。当たり前だと思っていることや正しさに示された裂け目は、切なる訴えや、異議を唱える力を漲らせる。場合によっては事件を起こす力にもなる。裂け目は、既存の秩序にひびを入れて破壊しつつ再生を促す物語の機能なのだ。即ち、物語は世界に変更を迫る力をも備えている。
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 吉村は、世界を動かし得る物語回路の強大な影響力を、蒐譚場の冒頭7分で解説しきった。松岡校長が遺した物語を継承し、発展させるという、新たな物語回路の形成に挑む覚悟で。物語は、イシスの文化も更新する力を持つ。

  • 安田晶子

    編集的先達:バージニア・ウルフ。会計コンサルタントでありながら、42.195教室の師範代というマラソンランナー。ワーキングマザーとして2人の男子を育てあげ、10分で弁当、30分でフルコースをつくれる特技を持つ。タイに4年滞在中、途上国支援を通じて辿り着いた「日本のジェンダー課題」は人生のテーマ。