ダーニングからオーケストラへ【85感門】

2025/03/29(土)19:00 img
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風に舞う花びらは、本楼から京都へと運ばれた。[守]の師範代は、[破]の師範代へと変身を遂げ、その笑顔には頼もしさが漂う。

 

思えば、53[守]の本楼汁講で、土田実季師範代は、その力を発揮したのだった。


2024年7月13日、同じチームのイメージ・ダーニング教室とお茶のこ際々教室の合同の本楼汁講で、土田師範代は自作ダーニング刺繍をワーク用に持参した。
工事現場にあるスコップ、緑と白のコントラスの鮮やかなネギ、有名な音響会社のアイコン。

どこかユーモラスな刺繍には、対象、特徴を捉える眼が生きている。丁寧に、暮らしの一場面を切り取った刺繍に、師範や師範代、参加者皆がすごいと声を上げる。チーム師範の私でさえも、一参加者となって何枚も写真を撮った。

このダーニング刺繍は、土田師範代が200日以上毎日1作品作ったものだ。可愛らしい作品見た目とは、裏腹に世界を刺繍で写しとることをずっと続けたのだ。

 

図案から自分で考えた彩豊かな作品たち

 

 

八田律師と手作りのワンピースを着た土田師範代

 

この日、お茶のこ際々教室のある学衆は、土田師範代の作ったダーニング刺繍をお土産に一つ持ち帰った。半年後、その学衆はイメージ・チューナー教室の一員となり、物語AT賞を受賞することになる。もう一つの物語はこの時すでに紡がれ始めていた。

 

53[守]イメージ・ダーニング教室では、土田師範代はその才を惜しげもなく披露し、土田ワールドを全力で作り上げた。学衆が、より楽しく稽古ができるように、編集をこらして、教室の設を整えた。担当師範の欲目ではないが、学衆をここまで思う師範代を見たことがない。

 

53[守]から53[破]へと出世魚した土田師範代の教室からは、代名詞とも言えるダーニングが消えた。新たな教室名はイメージ・チューナー教室。手にしたものはチューナー、音叉だ。
楽器はとても繊細だ。気温や湿度であっという間に音が変わってしまう。正しく音階を奏でられなければ、人の心に届く音楽は演奏できない。音叉を叩きながら、学衆の回答を調律する。おそらくは、どんな緩みも見逃さなかったであろう。

 

2025年3月9日、53[破]の感門之盟は、いつもの本楼から、京都に出遊した。いつもとは違う、歴史を感じながらもモダンな建物の中で、すがすがしく、感門之盟は行われた。師範代にも学衆にも見知った顔はあるが、皆これまでの稽古の充実を物語るように、凛として輝いていた。


イメージ・チューナー教室の学衆は、師範代はスパルタだったと、自分が曖昧にした緩んだ箇所には、必ず指南が入ったと、振り返る。それでも楽しそうだったのは、自分の音で物語を奏でられたからだろう。自らの手で作品を教室を創り上げることにこだわった土田師範代は、[破]で、学衆が作る作品が共鳴しあい、教室自体が響くことを経験し、学衆にものを作らせることに徹した。まるでオーケストラの指揮者のようだ。[守]から[破]へ続いた編集の学びは師範代も学衆も変容させる。

 

 

音叉を手にして、感門之盟で挨拶

 

[守]では、思考のプロセスを追い、次々とお題に取り組む速さの中で、「わかる」ことから、「かわる」に至る。[破]では、その思考方法を持ちながら、文体編集・クロニクル編集・物語編集・プランニング編集と4つの編集術を稽古する。自分の思考を使って、社会の編集へと向かう。

同じ型、方法を使いながらも、回答はさまざまだ、本当の意味での多様性がここにある。その鍵は、綻びを刺繍で繕い、音を調律する師範代の存在だ。

感門之盟でみた、土田師範代と学衆の清々しい笑顔に、学びを支える相互編集の力を感じた。

 

 

 

 

 

[破]の感門を校長も見守っていた。

 

 

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  • 北條玲子

    編集的先達:池澤祐子師範。没頭こそが生きがい。没入こそが本懐。書道、ヨガを経て、タンゴを愛する情熱の師範。柔らかくて動じない受容力の編集ファンタジスタでもある。レコードプレイヤーを購入し、SP盤沼にダイブ中。

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