飲む葡萄が色づきはじめた。神楽鈴のようにシャンシャンと音を立てるように賑やかなメルロー種の一群。収穫後は樽やタンクの中でプツプツと響く静かな発酵の合唱。やがてグラスにトクトクと注がれる日を待つ。音に誘われ、想像は無限、余韻を味わう。

5月10日に豪徳寺・本楼でおこなわれた43期[花]の入伝式から遡ること約1ヶ月。花の指導陣はオンラインに集合。そこでは入伝生に事前課題として読んでもらい、これから始まる稽古の手摺りを託す10夜を選ぶ議論が白熱していた。
「明恵上人の「あるべきやう」にも触れて欲しいけど、ホワイトヘッドを持ってくるなら、ここは空海の編集力に肖る一夜を置きたい」
「世阿弥の花伝書に触れるには、主要な千夜だけでも三夜有るがどれが一番適切か」
「科学の一夜を選ぶなら、カオスから宇宙、社会文化までを自己組織化で相似的に繋ぐ、ヤンツを持ってきてはどうか」
校長が不在である花伝所。指導陣は校長の代とも言える千夜千冊の言葉に、その面影を感じつつ、この期のためのメッセージを探す。集められた50夜ほどの候補は幾度となく入れ替えられ、10夜の組立が錬られていく。
選ばれた10夜はこちらだ。
<43[花] 千夜多読仕立て>
1) 1731夜『自己組織化する宇宙』エリッヒ・ヤンツ
(『千夜千冊エディション 宇宙と素粒子』所収)
2) 1225夜『非線形科学』蔵本由紀
(『千夜千冊エディション 情報生命』『千夜千冊エディション 数学的』所収)
3) 0564夜『忠誠と反逆』丸山眞男
(『千夜千冊エディション 面影日本』所収)
4) 1079夜『アフォーダンス』佐々木正人
(『千夜千冊エディション デザイン知』『千夜千冊エディション 編集力』所収)
5) 1508夜『世阿弥の稽古哲学』西平直
(『千夜千冊エディション 芸と道』所収)
6) 1815夜『思考と言語(新訳版)』レフ・セミョノヴィチ・ヴィゴツキー
8) 0750夜『三教指帰・性霊集』空海
(『千夜千冊エディション 戒・浄土・禅』所収)
9) 0995夜『過程と実在』アルフレッド・ノース・ホワイトヘッド
10)1730夜『見えないものを集める蜜蜂』ジャン=ミシェル・モルポワ
入伝生たちは出会った千夜千冊の言葉と対話しながら、各道場の五箇条を作り上げていく。
この十夜から見えるターゲットは何だろう(入伝生G)
自分の専門分野の理解も、より深めていけそう(入伝生O)
ホワイトヘッドについてもっと知りたくなった(入伝生N)
ホワイトヘッドの前には、ロックやモナドを提唱したライプニッツがいた。
小川三夫の前には、最後の宮大工棟梁、西岡常一がいた。
いかなる思想も宗教も科学も歴史も社会も、過ぎ去ったものたちの面影や言葉を組立直し、積み重ねられている。
「巨人の肩の上に乗る」という西洋のメタファーを持ち出すまでもなく、言い換えればわれわれの知的活動のすべては先人の積み重ねや発見を学びを再編集することで形作られてきた。
稽古とは古を稽(かんがえる)こと。
はじまった稽古の日々は、千夜を残した校長や、登場人物に連なる過去との対話でもある。
松岡正剛校長が残した数々の著作や1800夜を超える千夜千冊に、編集工学の背景となる先人の考え方/方法や、その見方がちりばめられている。
テキスト/写真:山崎智章(43[花]錬成師範)
山崎智章
編集的先達;湯川秀樹
実家は元縮緬商で着物好き。理論物理専攻でIT業30年。バーベキューの仕切り、珈琲の蘊蓄、南仏ワインへの嗅覚に自信ありの多趣味人で、多読アレゴリア身体多面体茶論の中核を担う。見た目は森のクマさんだが、会議では粘着質と評判あり。
コメント
1~3件/3件
2025-08-16
飲む葡萄が色づきはじめた。神楽鈴のようにシャンシャンと音を立てるように賑やかなメルロー種の一群。収穫後は樽やタンクの中でプツプツと響く静かな発酵の合唱。やがてグラスにトクトクと注がれる日を待つ。音に誘われ、想像は無限、余韻を味わう。
2025-08-14
戦争を語るのはたしかにムズイ。LEGEND50の作家では、水木しげる、松本零士、かわぐちかいじ、安彦良和などが戦争をガッツリ語った作品を描いていた。
しかしマンガならではのやり方で、意外な角度から戦争を語った作品がある。
いしいひさいち『鏡の国の戦争』
戦争マンガの最極北にして最高峰。しかもそれがギャグマンガなのである。いしいひさいち恐るべし。
2025-08-12
超大型巨人に変態したり、背中に千夜をしょってみたり、菩薩になってアルカイックスマイルを決めてみたり。
たくさんのあなたが一千万の涼風になって吹きわたる。お釈迦さまやプラトンや、世阿弥たちと肩組みながら。