43[花]入伝式、千夜多読という面影再編集

2025/05/14(水)18:43
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 5月10日に豪徳寺・本楼でおこなわれた43期[花]の入伝式から遡ること約1ヶ月。花の指導陣はオンラインに集合。そこでは入伝生に事前課題として読んでもらい、これから始まる稽古の手摺りを託す10夜を選ぶ議論が白熱していた。

 

明恵上人の「あるべきやう」にも触れて欲しいけど、ホワイトヘッドを持ってくるなら、ここは空海の編集力に肖る一夜を置きたい」

世阿弥の花伝書に触れるには、主要な千夜だけでも三夜有るがどれが一番適切か」

「科学の一夜を選ぶなら、カオスから宇宙、社会文化までを自己組織化で相似的に繋ぐ、ヤンツを持ってきてはどうか」

 

 校長が不在である花伝所。指導陣は校長の代とも言える千夜千冊の言葉に、その面影を感じつつ、この期のためのメッセージを探す。集められた50夜ほどの候補は幾度となく入れ替えられ、10夜の組立が錬られていく。

 選ばれた10夜はこちらだ。

 



<43[花] 千夜多読仕立て>

 

1) 1731夜『自己組織化する宇宙』エリッヒ・ヤンツ 
   (『千夜千冊エディション 宇宙と素粒子』所収)

2) 1225夜『非線形科学』蔵本由紀 
   (『千夜千冊エディション 情報生命』『千夜千冊エディション 数学的』所収)

3) 0564夜『忠誠と反逆』丸山眞男 
   (『千夜千冊エディション 面影日本』所収)

4) 1079夜『アフォーダンス』佐々木正人 
   (『千夜千冊エディション デザイン知』『千夜千冊エディション 編集力』所収)

5) 1508夜『世阿弥の稽古哲学』西平直    
   (『千夜千冊エディション 芸と道』所収)

6) 1815夜『思考と言語(新訳版)』レフ・セミョノヴィチ・ヴィゴツキー

7) 1561夜『棟梁』小川三夫

8) 0750夜『三教指帰・性霊集』空海 
   (『千夜千冊エディション 戒・浄土・禅』所収)

9) 0995夜『過程と実在』アルフレッド・ノース・ホワイトヘッド

10)1730夜『見えないものを集める蜜蜂』ジャン=ミシェル・モルポワ


 

 入伝生たちは出会った千夜千冊の言葉と対話しながら、各道場の五箇条を作り上げていく。

 

この十夜から見えるターゲットは何だろう(入伝生G)
自分の専門分野の理解も、より深めていけそう(入伝生O)
ホワイトヘッドについてもっと知りたくなった(入伝生N)

 

 ホワイトヘッドの前には、ロックやモナドを提唱したライプニッツがいた。

 小川三夫の前には、最後の宮大工棟梁、西岡常一がいた。

 

 いかなる思想も宗教も科学も歴史も社会も、過ぎ去ったものたちの面影や言葉を組立直し、積み重ねられている。

 「巨人の肩の上に乗る」という西洋のメタファーを持ち出すまでもなく、言い換えればわれわれの知的活動のすべては先人の積み重ねや発見を学びを再編集することで形作られてきた。

 

 稽古とは古を稽(かんがえる)こと。

 はじまった稽古の日々は、千夜を残した校長や、登場人物に連なる過去との対話でもある。

 

 松岡正剛校長が残した数々の著作や1800夜を超える千夜千冊に、編集工学の背景となる先人の考え方/方法や、その見方がちりばめられている。

 

テキスト/写真:山崎智章(43[花]錬成師範)

  • 山崎智章

    編集的先達;湯川秀樹 
    実家は元縮緬商で着物好き。理論物理専攻でIT業30年。バーベキューの仕切り、珈琲の蘊蓄、南仏ワインへの嗅覚に自信ありの多趣味人で、多読アレゴリア身体多面体茶論の中核を担う。見た目は森のクマさんだが、会議では粘着質と評判あり。

コメント

1~3件/3件

川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。

堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。