自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。
あっという間に44[花]の錬成期間がやってきた。8週間のプログラムの折り返し、編集基礎体力ができたところで、入伝生に更なる負荷がかけられる。入伝生の多くはこの期間に蛹から蝶へと大きな変化を遂げるのだが、編集学校を見渡してもこれほど短期間で劇的な変化が起きる場はきっとないだろう。なぜ変化が起きるのか。それは、本番さながらに教室名を掲げ、師範代になりきって本気の編集をするからだ。ぎこちない編集、甘い編集には錬成師範から鋭い指導の言葉が投げられる。錬成とは自らの視界を広げるのではなく、視界の狭さを痛烈に感じ、狭い視界でどう自在に動けるかを身体を通して学ぶことだ。そんな師範代擬きの入伝生の仮想教室名を披露したい。
◆くれない道場
様酔う中庸教室
くうかい瀬戸ギワ教室
寄り道もぐもぐ教室
朝顔りんりん教室
月下わくわく教室
◆むらさき道場
ウィングブレークスルー教室
うつろうダイヤモンド教室
ミネラルラザニア教室
パープル遊悠教室
道場の演習中に入伝生が自分で考えた仮想教室名からは、それぞれの道場の色付きの違いも見えてくるのではないだろうか。相互編集の場で響き合うからこそ生まれる色づき。どこか似た言葉の世界を感じる。この教室名は、能のシテがかける能面にも重ねられそうだ。面ひとつで能の世界を立ち上げるシテと教室名で編集の世界を立ち上げる師範代。アイキャッチ写真は入伝式の一幕だが、皆で能面を装着した能楽師の視界の狭さを再現している。教室という新しい世界を持つということ、新しい体験へと踏み出すということは、既存と異なる新しい制限を設けることでもある。狭い視界の世界で目印となる方法を身につけることで、美しく堂々と舞い踊ることを可能にしていく。入伝生は今日も欠けたモデルを探しながら本番に向けて研鑽を続けている。
アイキャッチ写真 後藤由加里
文 林朝恵
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林朝恵
編集的先達:ウディ・アレン。「あいだ」と「らしさ」の相互編集の達人、くすぐりポイントを見つけるとニヤリと笑う。NYへ映画留学後、千人の外国人講師の人事に。花伝所の花目付、倶楽部撮家で撮影・編集とマルチロールで進行中。
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もう会えない彼方の人に贈る一枚 PHOTO Collection【倶楽部撮家】
ある日を境に会えなくなってしまった人。1度も会うことが叶わなかった人。 会いたくても会えない彼方の人がきっと誰しもいるだろう。松岡正剛校長は著書の中で度々、蕪村の句「凧(いかのぼり)きのふの空のありどころ」を取り上げてい […]
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光を読む、光を撮る。 2025年8月9日、豪徳寺にあるイシス館とオンラインのハイブリッドで倶楽部撮家のメインイベントとなる瞬茶会(ワークショップ)が開催された。倶楽部メンバーは各々、カメラと懐中電灯を持参して集った。この […]
通りを歩けば紫陽花を見かける季節がやってきた。 土の酸性度によって色が変わるこの花は、現在進行形で変化を続ける入伝生の姿にも重なる。 6月になり錬成期間に入った入伝生は師範代になりきって指南を書きまくる日々 […]
コメント
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2025-11-18
自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。
2025-11-13
夜行列車に乗り込んだ一人のハードボイルド風の男。この男は、今しがた買い込んだ400円の幕の内弁当をどのような順序で食べるべきかで悩んでいる。失敗は許されない!これは持てる知力の全てをかけた総力戦なのだ!!
泉昌之のデビュー短篇「夜行」(初出1981年「ガロ」)は、ふだん私たちが経験している些末なこだわりを拡大して見せて笑いを取った。のちにこれが「グルメマンガ」の一変種である「食通マンガ」という巨大ジャンルを形成することになるとは誰も知らない。
(※大ヒットした「孤独のグルメ」の原作者は「泉昌之」コンビの一人、久住昌之)
2025-11-11
木々が色づきを増すこの季節、日当たりがよくて展望の利く場所で、いつまでも日光浴するバッタをたまに見かける。日々の生き残り競争からしばし解放された彼らのことをこれからは「楽康バッタ」と呼ぶことにしよう。