宮谷一彦といえば、超絶技巧の旗手として名を馳せた人だが、物語作家としては今ひとつ見くびられていたのではないか。
『とうきょう屠民エレジー』は、都会の片隅でひっそり生きている中年の悲哀を描き切り、とにかくシブイ。劇画の一つの到達点と言えるだろう。一読をおススメしたい(…ところだが、入手困難なのがちょっと残念)。

かつて「ケイコとマナブ」というスクール情報誌があった。習い事である”稽古”と資格取得にむけた”学び”がテーマごとに並んでおり、見ているだけで学んだ気分になれたものだ。
今や小学生の約3人に2人は習いごとをしているが、大学生になると1割ほどに減る。ゼミの課題やレポート、授業に加えてバイトや遊びなど、あれこれやることが多いのだろう。
編集稽古はそんな大学生事情などお構いなしにやってくる。第1回番選ボードレール(番ボー)の〆切は6月15日。「とにかくエントリーを!」とマグロワンダフル教室の稲森師範代はダイレクトメッセージ大作戦で1人ずつに声がけし、6名がエントリーする大健闘を魅せた。その2日後には、近大生の特別プログラム稽古Dayの開催だ。学林局の衣笠純子は編集ケイコとなって再び新幹線に飛び乗り、東大阪キャンパスACT-116へ向かう。
(東大阪キャンパスでの編集稽古)
稽古Dayにいくと毎日稽古したくなるのが不思議です。
(マグロワンダフル教室 尾形知美さん)
場は何かを動かす力がある。止まっていた稽古が進み出した。
ほとんどの学生はエディットカフェでの発言が少なめ。「他の人の回答をみてどう思う?」と聞いてみると「めっちゃわかるーとか、あるんですけど」と発言はなくとも感は動いているようだった。回答と指南のやりとりが縦糸ならば学衆同士の交し合いは横糸。教室は編み込まれてこそ模様となっていく。
「編集学校って人間関係がけっこう長く続くんです。だから、稽古を通じて大人と知り合えるのは貴重な経験なんです」と稽古Dayのためにわざわざ東京から駆けつけた編集ケイコがいうのだから間違いはない。
(何気ない会話から編集熱が高まっていく)
話題は番ボーへ。「師範代は”これでいい”とはなかなか言ってくれない」と苦笑い。辞書を引っ張りだして、徹底的に調べ、回答をくり返すことで、突然「あ、これだ!」が訪れたという。
稽古とは何か。字義通りには「古を稽える」ということである。古典に還るというのではない。「古」そのものに学ぶこと、そのプロセスにひたすら習熟すること、それが稽古だ。
千夜千冊 1508 夜 『世阿弥の稽古哲学』 西平直
「古」そのものに学ぶとはどういうことだろうか、単に古典を知るだけではなく稽古によって言葉の本来でもある「古」に向かっていく姿、それ自体が稽古なのだ。番ボーで辞書を引いて引いてやっとたどり着いた先に、こんな意味があったのか!という驚きに出会う。出会ってしまったら驚く前には戻れない。
使い慣れた言葉にこそ、古(いにしえ)にむかっていきたくなる。編集稽古は休まることを知らないのだ。
とまらぬ編集稽古で、得意手への扉をひらこう!
アイキャッチ/稲森久純(55[守]師範代)
文/一倉広美(55[守]師範)
週刊キンダイ 連載中!
週刊キンダイvol.001 ~あの大学がついに「編集工学科」設立?~
週刊キンダイvol.002 ~4日間のリアル~
週刊キンダイvol.003 ~週刊キンダイ vol.003 ~マグロワンダフルって何?~
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コメント
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2025-09-18
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豊かさをもたらす贈りものの母型は、私欲を満たすための釣り餌に少し似ている。