「それはまるで、枕詞のような卒門式になると思います」
鈴木康代([守]学匠)は、20周年感門にて宣言した。
「いつかこのときを思い出すと、『あの場所に、あの人がいた』そう思えるはず」
ディスタンスこそが、互いのトポス性をあぶりだす。学衆は日本全土に散らばり、指導陣は数カ所の拠点に集まった感門之盟「Edit Japan 2020」。日本を編集するというテーマを体現するように、松岡校長は編集学校の4つの地域支所に書を贈った。2日目のオープニングで一斉にお披露目となった。
誇らしげに額を掲げる各地映像を見てみれば、書の顔つきはまったく異なっていた。
東北支所・未知奥連(みちのくれん)には、あおあおとしたケヤキ並木をスキップするような筆づかい。中部支所・曼名伽組(まんなかぐみ)が、反り返るシャチホコのように硬質でスタイリッシュな筆致なら、九州支所・九天玄氣組(きゅうてんげんきぐみ)は、西郷隆盛の眉を思わせるくろぐろとした生命力が満ちている。
そして、松岡校長の生まれ故郷・京都を擁する奇内花伝組(きないかでんぐみ)には、鴨川に揺れる柳のような、いちだんとたおやかで流麗な書が贈られた。松岡校長は、これらの書の制作にあたり、何パターンも書いては捨てたという。
東京・本楼で制作された書は、20周年感門前日、大阪・近畿大学ビブリオシアターに届けられた。
ダンボールとプチプチの十二単をそっと脱がせると、金色の額に収まったつややかな書が眠っていた。カメラマン木藤良沢は、その寝顔を見るなり、ビブリオシアター内でロケハンに繰り出した。探したのは、書が語りだす場所。
額が舞台を見つけると、墨字はぱちりと目を覚ます。金の墨汁が混ぜられた「感門」の二文字はきらっと笑う。重厚な書棚ではクラシカルに、白い螺旋階段ではモダンにと、その表情をくるくる変える。関西は、豊穣な歴史を土壌とし、色とりどりの文化が花開く土地。この書は、故きをたずね、ハイパーな将来へむかえという奇内花伝組へのしずかなる発破だった。
(制作風景撮影:後藤由加里、本楼にて)
(アイキャッチ写真出演:福田容子[左]、山根尚子[右])
(書撮影:木藤良沢、近畿大学ビブリオシアターにて)
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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