日本民俗学=柳田国男という方法
民俗学でも、民族学でも間に合わない。新たなる国学が必要だ。
そうして「日本民俗学」を標榜した男こそ、農務官僚にして文化政策官僚の柳田国男である。ここには、20世紀の日本国家の継続・発展のための、柳田ならではの新たな編集があった。
2021年、4月25日に始まったバジラ高橋による輪読座は、こうした柳田の編集、すなわち「柳田国男という方法」のリバースエンジニアリングに徹していく。
民俗学と民族学
そもそも民俗学(folklore studies)と民族学(ethnology)はどちらも欧米で生まれた。漢字では一字違いで読みも同じだが、その背景は大きく異なる。
バジラ高橋によると、民俗学はドイツから端を発し、ナポレオン時代にドイツ精神を伝承や民謡などに見出そうとして発生した。グリム兄弟の伝承の収集もこの流れである。19世紀半ばになると、イギリスのウィリアム・トムズが、ドイツ語のVolkskundeをフォークロア(folklore)と翻訳し、キリスト教以前にその土地に元々あった神様に地域独特の精神を探ろうとする動きも出てきた。民俗学はその土地本来のアーキタイプを、構築物や集落、伝承や歌の中に見出そうとする。
一方、民族学は、社会進化論を背景に、文化圏・文化伝播、先進・後進の判別、未開民族文化の調査などを軸に発達した。こうした活動は、19世紀に入り、イギリスの奴隷貿易廃止、先住民保護協会設立やロンドン民族学協会の設立などの動きが見られる。柳田が生きた19世紀後半から20世紀前半の欧米にとっては、植民地支配と関連深いものとなっていく。民族学は、世界の多種多様な民族の文化や社会を編集する学問といえるだろう。
菅江真澄とハインリッヒ・ハイネ〜柳田の精神の原点〜
柳田は、こうした欧米の民俗学・民族学の科学的研究法を受け入れつつもそのままコピーをしなかった。柳田ならではの編集を加え「新たなる国学=日本民俗学」を標榜した。
ここまでやり抜く精神の原点には二人の存在があるとバジラはいう。一人が、幕末の国学者であり、信濃から蝦夷までを旅し、日本の原郷を求めた「菅江真澄」と、近代ドイツ国民からの差別に悩み、キリスト教以前の神々の世界の復元を目指した「ハインリッヒ・ハイネ」である。
19世紀の日本の地勢・民俗・民話・方言・産業を包括的に記録をした菅江。『流諦の神々』でローマ帝国のキリスト教科でギリシア・ローマの神々がどう編集され民間信仰に土着していったかを著したハイネ。両者の方法を手に、柳田は近代化と戦争のつづく20世紀の日本の編集に体当たりで挑んでいく。
20世紀の柳田をモデルに、21世紀を再編集する
バジラは「柳田は、今の環境の中で自律的に生きていくためにどうすればいいのかという学問は、学者が作れるわけでない。現地に住む人が自ら発案するべきであると考えていた」という。柳田に「〇〇学者」といった形容があてはまらない理由もこの辺りにあるのだろう。柳田は実践の人でもあった。
19世紀の菅江真澄らをモデルに20世紀を再編集していった柳田を擬くということは、20世紀の柳田をモデルに21世紀の今の日本を再編集していくということに他ならない。
輪読座では、バジラ高橋厳選の資料の輪読をし、次回までに図象として紙一枚に編集をするのだが、これは単なる要約ではない。「柳田の方法を21世紀に転用したらどうなるのか」を図象にしていく。まさに知の編集術の実践だ。
ちなみに、輪読座(オンライン)では引き続き受講者を募集中。
最近は、回を重ねるごとに新規受講生が増えていくのが特徴の一つだ。
第1回目を逃した方も輪読座の専用ラウンジでキャッチアップが可能です。
次回は5月30日(日)13:00から。
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上杉公志
編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。
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