【このエディションフェアがすごい!34】ジュンク堂書店柏モディ店(千葉県柏市)

2021/08/17(火)14:00
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 「このエディションフェアがすごい!」シリーズ、第34弾は千葉県のジュンク堂書店柏モディ店。フェア開催は8月31日まで。

 

◇◇◇

 

 柏市は、千葉県の北西部にある東京都のベッドタウンだ。人口は43万人。つくばエクスプレスが開業するまでは、東京と茨城から、先は仙台までをつなぐ常磐線と、船橋から埼玉県大宮をつなぐ東武アーバンパークラインが交差する柏駅が市の唯一の中心だった。

 その柏駅を出て東口に向かうと、ショッピングアーケードの「二番街」がある。名前の由来は「一番になると次に目指すものがない。“二番”として、いつも一番になるよう、挑戦しつづける街でいよう」という考えからだそうだ。今はコロナで人通りが減っていても、以前は、休日には4万人が訪れる街だったという。かくいう筆者も、何十年前の高校生時代には、放課後になると友達とよく来ていた思い出の場所でもある。

 

柏駅東口から徒歩3分にある「二番街」。二番街となったのは50年前。しかし中核となるお店の前身の開業は、なんと1925年!

 

千葉県で唯一の全蓋型のアーケード。雨の日でも傘いらず。

 

  二番街の奥にある柏モディ店にあるジュンク堂がフェアを開催している。2016年に丸井柏店マルイ館が改装されたのが柏モディで、その5階ワンフロアをジュンク堂柏モディ店が占めている。

 

知祭り棚は、店舗中央、エスカレーターのすぐ横に。

 

どこからでも「その眼」に射貫かれる。『千夜千冊エディション記念冊子』がいいガイドに。

 

『大アジア』のついでに『17歳のための世界と日本の見方』、

『仏教の源流』のついでに『空海の夢』に手が伸びる?

 

今回、フェアをご担当いただいた伊藤傑副店長。『芸と道』を手に。

 

 伊藤傑副店長にお伺いすると、柏モディ店全体では20代~40代の女性がターゲットだそうだが、ジュンク堂柏モディ店で50~60代の男性の書籍購入が目立つとのこと。二番街には若者も多く、カフェには高校生が大勢たむろしているのだが、「高校生はねー、本を読まないんですよ」と、少し残念そう。

 

 柏モディ店では、様々なフェアが並行して進められている。知祭りの並びの書棚では夏らしく『面白野球小説甲子園』フェアが開催されていた(ちなみに優勝作は須賀しのぶ『夏の祈りは』)。この高校野球フェアの前は、競馬に関するフェアだった。

 

 こういったフェアのテーマはどうやって決めているのだろうか。伊藤副店長に伺うと、ふふ、と笑いながら、「スタッフがやりたい、というものを取り上げているのですよ」とのこと。もちろん、春には辞書、年末に向けて年賀状素材といったような季節ごとのニーズや、NHKの大河ドラマの影響で「渋沢栄一に関する本はあるか」といったニーズも先取りして対応しているそうだ。

 

 知祭りとは別の場所に熊に関する本を集めたコーナーがあり、行く度に気になっていたのだが、このコーナーの担当は、なんと伊藤副店長! 山に行ったらどうみても不自然なところがあって、熊がいた模様。そこから気になって…ということで熊の生態に関する本を集めたのだそうだ(しばし、山で熊に会った時にどうすればよいか、という話で盛り上がった。何でも、熊が今までに聞いたことがない音だと、熊よけの効果があるのだとか)。

 

 ここには寄り道をして、思いもかけなかった本に出会う場がいくつも設定されている。

 

 「棚にある本というのは、書店員がある基準を持ち、選択したもの。その選択基準は恣意的になる。だからこそ、書店員として“選ぶ眼”が必要」と伊藤副店長。ISIS編集学校が「編集」と呼ぶものが、本棚作りに見事に活かされていることを実感する。脇目もふらずに欲しいものを手にいれるのがネット通販だとすると、たくさんの選択肢から選ばれた本の森を散歩するような気分を味わえるのが書店だ。

 

 「知りたい、と思った時に、ここに来てくれれば、それに関する本がある、ということを示せることが大事」と伊藤副店長は言う。知識の入口となる手がかりの本は重要で、だから、ある専門の道に至るための鍵となる本は、動きが多少悪くても置いておくのだとか。

 

 どのフェアであっても、最初は様子見が多いのだそうだ。「お客様は毎日入れ替わっているので、不思議なんですけれどね」と伊藤副店長。開始してから2週間くらいで本が動き始めるそうだ。幸い、柏モディ店の知祭りは8月末までの予定だ。ソーシャルディスタンスを確保するため、レジ待ちの列ができるすぐ横に知祭りの棚がある。知祭りの棚の本も動き出している。

 

 松岡校長の本では『擬』『空海の夢』『江戸問答』『17歳のための世界と日本の見方』が置かれている。

 伊藤副店長に、松岡校長の思い出をお伺いした。おそらくジュンク堂池袋店だったと思うが…とのことで、三冊屋の頃に書店で見かけたことがあるそうだ。「すぐに、松岡さんだってわかりましたよ」。そして「嬉しかった」とまずは一言。ん? 嬉しかった、とは?「鹿島茂さんとかもそうだけれど、もしかしたら、我々よりも本のことを良く知っている人が、選びに来てくれるということ。それだけの品揃えがあって選択に耐えられるお店であるということが証明されたようで」。ここでもまた、選択が大事にされていることがわかる。

 

 どの千夜千冊エディションが気になりますか、と伺ったところ、手にとったのは『芸と道』だった。「関西出身で、落語が好きなんですよ」と、今までの話しぶりより一層柔らかな関西弁で、目次を見ながら「これこれ」と指さしたのが桂米朝『一芸一談』。「米朝師匠が好きでねー、この本がいいんです」。そして「どんなことでも“芸”なんですね。本を並べるのもね」。

 

 芸の光る店舗で、生きている本の動きを是非みてほしい。

 

 

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  • 相部礼子

    編集的先達:塩野七生。物語師範、錬成師範、共読ナビゲーターとロールを連ね、趣味は仲間と連句のスーパーエディター。いつか十二単を着せたい風情の師範。日常は朝のベッドメイキングと本棚整理。野望は杉村楚人冠の伝記出版。