【このエディションフェアがすごい!36】MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店(大阪市)

2021/08/19(木)14:00
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 「このエディションフェアがすごい!」シリーズ、第36弾は大阪のMARUZEN&ジュンク堂書店梅田店フォトレポートを届けてくれるのはイシス編集学校師範の山田細香さんです。現在ミニフェア開催中。第1弾は9月5日~9月25日(5階)、第2弾は9月26日~10月4日(1階)。

 

◇◇◇

 

■成長を続ける大阪の中核「キタ」

商業ビルが連立する大阪梅田駅周辺の繁華街《通称:キタ》は、昔も今もその賑わいは変わらず、大阪の成長を牽引してきました。駅名の「梅田」は、大阪平野を貫通する淀川の後背湿地を埋め立てたことから埋田(うめだ)と呼ばれ、地主梅田宗庵にちなんで梅田と書くに至ったと言われています。

 

大阪駅周辺の商業施設 HEP FIVE。屋上には観覧車があります。

 

梅田駅のコンコース。2005年に改修されましたが、730夜に登場する伊東忠太の壁画はここにありました。

 

キタ随一の若者の街として知られているのが茶屋町界隈。江戸時代には池田街道筋を往来する人々が花の風情を楽しむためのお茶屋が並んだ行楽地で、明治時代には39mもある眺望用の高層建物「凌雲閣」が建設されました。現在は、ロフト、梅田芸術劇場、毎日放送、美容専門学校などがあり、近年では大学の新校舎やサテライトが集積したことで更に活気を増しています。高層ビルのほとんどが総合設計制度を採用した公開空地を設けることで、美しい景観をつくりだす工夫がされている場所でもあります。

 

雑貨・ファッションなどの店舗が入っているNU茶屋町。

 

梅田芸術劇場。学生時代、地下1階にあるシアタードラマシティで三島由紀夫作「近代能楽集」や寺山修司作「さよならの城」を観た思い出の場所。

 

毎日放送本社。1階は「人があつまる放送局」をテーマに公開放送やライブをするオープンスペースになっています。

 

さらに東へ進むと見えてくるのがフェアの開催地、CHASKA茶屋町。基本設計を手掛けたのは世界的建築家の安藤忠雄さんです。地階2階・地上23階の超高層ビルで、商業店舗、ホテル、結婚式場、マンションを内蔵しています。写真では見にくいですが、高層部は南を指す鋭角な三角形平面で、東側幹線道路からの視界に新たなアイキャッチを与えています。低層部は台形に近い五角形平面で、建物外周を巡る回廊が内外空間を交錯するバッファーゾーンとなり、街の賑わいに呼応したモニュメンタルな建物になっています。打ち放しコンクリートのV字柱を基軸にした幾何的な造形に安藤建築のらしさを感じます。

 

2010年竣工のCHASKA茶屋町。高層建物への憧れは今も同じ。

 

この柱は構造設計者&施工者泣かせ。平面形状が複雑なため各層で異なる種別の構造形式が採用されています。

 

■国内最大の書店で光るセイゴオの眼

建物の地階1階から7階がMARUZEN&ジュンク堂書店梅田店です。ジュンク堂書店池袋本店を凌ぎ、国内最大の売場面積と蔵書数を誇る大型書店!店内はフロアごとにジャンル分けされており、セイゴオ本は2階[文庫・新書]と5階[芸術・人文]にあります。

 

2階の文庫棚にはエディションがずらり。

 

5階の人文(日本思想現代)壁面にはセイゴオ本も充実。

工作舎の「オデッセイ1971-2001」は初めて見た。

 

「うたかたの国」と「情報の歴史21」は面陳で。

サブカルと並ぶところに歴像データの幅を感じます。

 

現在は2階のエスカレーター横で本格フェアに向けての前哨戦ともいうべきミニフェアが行われています。眼光するどく行き交う人達を見つめるセイゴオ。「世界知はココにあり」と声が聞こえてきそう。

 

世界読書家と目が合うポスターはインパクト大。

 

現在のミニフェア。9月にはどう進化する!?

 

■失敗を避ける若者に届け!

今回フェアを担当してくださるのは、大下朗さんです。

 

気さくに話してくださる文庫・新書担当の大下さん。

 

「以前は丸善高島屋大阪店にいたのですが、お客様の年齢層は高めで時代小説などが人気でした。ここ梅田店では対照的に若い方の来店が多いですね。駅から近いこともあって、学生さんだけでなくサラリーマンも来られます」私達が想像している以上に立地によって客層や売れ筋は変わってくるそうです。

 

若者読者の特徴についてお伺いすると、「以前はタイトルや装丁が購入意欲につながっていましたが、今は口コミやアマゾンのレビューをがっつりチェックしたうえで購入する方が多いですね。本選びを“失敗したくない”という思いが強いのだと思います」

 

ジャケ買い好きの私は、購入した本が予想どおりではなかったとしてもそれはそれで面白い経験になるのですが、失敗回避志向がここまで浸食しているとは驚きました。大下さんも「自分の直感を信じた本選びがあってもいいし、たとえ他者の評価が入口でもそこから広げていく読書を楽しんで欲しい」とおっしゃっていました。エディションについては、「タイトルごとに跳ねるというよりも、『本から本へ』『デザイン知』『文明の奥と底』の3巻で固定のファンが付いたという印象です。20代の人達は松岡正剛さんの本は難しいと思っている人も多いと思いますが、自分の興味のあることから入っていける。もっと読書の間口を広くフラットにして欲しいですね」

 

自分事にする入口、拡張する読書体験、これはフェア設いのターゲットになりそう。フロアごとに本のジャンルは分節化されているものの、文庫と新書は芸術にも人文にも関連したフロア間を行ったり来たりできるツール。「5階人文フロアにエディションフェアを展開することで、いい反応がみられるかも」と大下さんも期待大です。

 

■“あいだ”の感覚が面白い

エディションの中で大下さんのおすすめは『デザイン知』。

 

悩んだすえに選ばれた『デザイン知』、実は私も一番好きです。

 

京都出身の大下さんは、かなりの焼きもの好きだそうです。お父様が清水焼の轆轤師をされており、ご自身も毎週京都の仕事場で作品制作をされています。

「焼きものは人間の営みの中でもっとも古い仕事のひとつだと思います。変化しながら続いてきた。いろんな人のいろんな技術があって、みんな我が技術のようにやっているけれど、それはすべて先達の痕跡。自分で習得しているようで自分の技術ではない。その“あいだ”の感覚が面白いんです」

熱く語る大下さん。本も連綿と続いてきたものであり、最古のメディアであることは焼きものとの共通点「焼きものと本を関係づければ面白いことができるかも」とフェアの構想も話してくださいました。

 

大音冊匠を交えて作戦会議中。アートとメディア談義にも花が咲く。

 


 われわれは古来このかた、それらから知覚のパターンを少しずつ取り出してきた。忍冬唐草文様やケルティック・パターンや月兎や花鳥風月が、こうして姿をあらわした。なぜ、そんなことができたのか。あるいはなぜわれわれは円錐やカテナリー曲線や、まだら模様や丸髷やシャネルのラインが好きになったのか。そこには自然と知覚の“あいだ”の、転用と借用の“あいだ”の、興味深い「鍵」と「鍵穴」があったのである(『デザイン知』追伸より)


 

本格フェアは感門之盟2日目の9月5日から5階でスタートし、26日から10月4日までは1階でも展開予定。若者と本の“あいだ”をつなぐことはできるのか!?大阪の知祭りはここ梅田でさらにジリジリと燃えていきますよ~乞うご期待!

 

フェアに向けて準備中。変貌に乞うご期待!

 

文:山田細香

写真:野嶋真帆

 

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  • エディスト編集部

    編集的先達:松岡正剛
    「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。