今回の多読伴読リレーは、1786夜『神は、脳がつくった』、1787夜『ネガティブ・ケイパビリティ』、1788夜『天と王とシャーマン』の三夜。いつもとは装いを変えて、大音美弥子冊匠・小倉加奈子析匠・金宗代代将による「冊・析・代の鼎談三夜読み」です。前篇と後篇に分けてお届けします。
析匠:
「不確実性」という言葉の余韻を感じながら、1788夜『天と王とシャーマン』を読んでいったせいか、伝統的なシャーマンの共通する特徴が列挙されたここが気になりました。
伝統的なシャーマンの多くに共通する特徴は、トランス(trance 恍惚・忘我)、エクスタシー(ecstacy 脱魂)、ポゼッション(possession 憑依・憑霊)、アルタード・ステート(altered state of consciousness:ASC 変性意識状態)を身近かにしていたということにある。
「越境」「逸脱」「変異」あるいは「変性」というのは「不確実性」のホットワードのように思えました。不確実性の極みの状態に身をおけるひとがシャーマンなんでしょうね。
代将:
シャーマンといえば冊匠の顔がすぐに思い浮かぶのは私だけでしょうか(笑)。多読ジムの本占い「おみくじ本」も毎シーズン大好評ですね。
冊匠:
ありがとうございます。「おみくじ本」は占いというより「別様への投企」ですね。自分へのご託宣だと思うと、それまで見落としていた本に光が当たる。<注意のカーソル>を大胆に動かせるのが面白いのでしょう。
ただ、「おみくじ」と銘打つだけで、冊匠を「大明神」呼ばわりしてくる方が多いのは、遊びとしても驚きます。自分では「茶運び人形」や「からくりおみくじ」に徹しているつもりですが、その割に道を踏み外しすぎかも(笑)。
天に梯子をかけるという感覚から、『ジャックと豆の木』を思い出したりしました。あの話は、前半に地上の「交換」で損をしたジャックが、後半が天上の「強奪」によって、元の牛一頭とは比較にならないような利益を得るというものでした。天と王の間をつなぐことが「価値」とされると同時に、ちょっと後ろ暗い、はばかられるイメージを持たれていたのがわかります。
『ジャックと豆の木』(福音館書店)
析匠:
最近、欧米でスピリチュアルにぞっこんのひとが増えているとありましたが、冊匠や代将のまわりではどうですか。私は、そもそもイシス編集学校にはやたらシャーマンっぽいひとがたくさん集まっているような気もするし、実は、編集学校って時代の先を行っているなぁって改めて思いました。
冊匠:
あはは。わたしの知っている限りでも、スピリチュアル系で起業された方、数人すぐ思い浮かびます。問題はそれがネットワークビジネスとつながりがちということですね。ネットワークビジネスは人脈商売と言われますが、わたしの見るところ、「ご縁」をお金に変えている、そこが忌避される原因なのでしょう。
一方、イシスで託宣(笑)のようなことをされる人は、アナロジーやアブダクションの力が、ほかの人にはわからない精度に達しているのかな、と感じます。
代将:
「不確実性の極みに身をおいて、あちらとこちらを結ぶ人」という意味で、やっぱり冊匠は多読シャーマンじゃないですか。ただ「天と王」というより「本と王」をつなぐ。王というのはもちろん編集王の松岡正剛であり、千夜千冊です。
析匠:
医療現場では、シャーマン的な存在ははっきりいって相当軽んじられています。サイエンス的に説明できないこと、エビデンスがないことは、インチキくさいって忌み嫌われますから。でも一方で、実は、医療スタッフはそれぞれに自分の第六感的なものをかなり大事にしている側面があるんじゃないかと思います。病理医も絶対そう(笑)。
千夜には、「シャーマンの語源はツングース系の「シャマン」(知る人)に由来する。」とありましたが、この場合の「知る」って身体で感じるに近い知るなのかなと思っています。
左:『おたんこナース』(小学館) 右:『海街diary 1 蝉時雨のやむ頃』(小学館)
冊匠:
医療スタッフの多くが「シャマン」であるという話は『おたんこナース』や『海街diary』にも出てきましたよね。人の生き死にという、あちらとこちらを結ぶ現場だけに、やはり科学では割り切れない「兆候を感知する」部分があるのでしょう。
あと、ドクターと現場スタッフの間では、映っている景色って全然違うのかもしれません。とくに最近の専門化・分化・デジタル化の進んだ
病院では、ドクターが見るのはPCのデータだけということも多いです。
析匠は長くバレエをされていて、身体知も養ってこられましたが、多くの「勉強だけ」されてきたドクターが、名医になるには絶対必要な力を養うにはどうすればいいのか。今後、編集工学が力になれたらいいよね、と思います。
析匠:
激しく同意します。コロナのせいで、バレエやめちゃったんですけどねぇ。でも、身体知をサイエンス的なデータと接続するためには、やっぱり編集工学的手法が欠かせないのはまさに“肌で実感”しています。ですから、編集工学を医学に投入することは、おしゃべり病理医のライフワークとしてがんばりたいと思います。最近、SETAM教育にもかなり関与していますが、STEAMのAのLiberal ArtsのArtsだって、本来、アルス≒方法ですものね。編集工学は古くて新しい手法です。
代将:
アートとサイエンスの間をどう結ぶかってことですよね。多読的には例えば粘菌に『涅槃経』の世界を見た南方熊楠をどう読むのか。『花の知恵』や昆虫三部作を書く博物学者でありながら神秘主義にもゾッコンだった『青い鳥』のメーテルリンクをどう読むのか。そのほか、寺田寅彦、中谷宇吉郎、パスカルなどなども「シャマン」の多読的プロトモデルと言ってもいいんじゃないでしょうか。
析匠:
再び、1788夜に戻りますが、最後の問いの連打がすごいですね。
諸君は何をもって「兆候」を感知し、その兆候とどのように向き合いたいのか。
何をもって幻想と現実を区別しているのか。
何をもってヴァーチャル・リアリティが感じられると思っているのか。
問いを変えてもいい。
諸君はどうして『火の鳥』から『鬼滅の刃』に及ぶマンガやアニメに夢中になれるのか。
ロックバンドはどうしてオオカミの被りものをするのか。
レディ・ガガやきゃりーぱみゅぱみゅはどうしていつも衣裳を変えたくなるのか、
いつまでもミュージカル『ライオン・キング』が当たったり、
いつまでも『ワンピース』が続くのはどうしてか。
皆既月食や獅子座流星群がやっぱり見たくなるのはどうしてか。
この校長からの問いの連打に対する答えは、前の2夜にある気がしていますが、おふたりはどう思いますか。
代将:
これは深い問いですね。三夜読みの前篇の話に”巻き戻し”すると、私たち人間は、と言っていいと思うんですが、結局「ビビり」なんですよね。で、ビビると「ビビビ」ときちゃう(笑)。神がやってきちゃうわけです。だから、この校長の連打に「なぜホラー映画を見たくなるのか」という問いも足しておきましょう。
でね、どんな時にビビるのか、ビビビときちゃうのか。前篇で紹介したカイヨワは『遊びと人間』(講談社)の中で遊びを4つに分類しているでしょう。「アゴン」(競技)、「アレア」(賭博)、ミミクリ(模倣)、イリンクス(目眩)。そもそも、遊びってスピリチュアルであり、ヴァーチャル・リアリティであり、編集でしょう。これは言ってみれば、シャマン(知る人)になるための方法のアーキタイプなんじゃないかな、と思うんです。
そういう意味では、編集王の校長がかつて編集長を務めていた雑誌に「遊」というタイトルをつけたのはやっぱりものすごく正しかった。
『遊びと人間』(講談社学術文庫)
冊匠:
最初の3つは「ホントとツモリ」の間への問い、後半の5つは「アニマ(魂)」のありどころへの問いかと感じました。
ということは、「ホントとツモリ」は脳のなかに並存している(#1786)。普段というか一般的には行ったり来たりでバランスをとってるけど、何かの拍子に振り切ってしまう。ツモリの世界に傾きすぎた場合はメンタルの病気とジャッジされます(#1787なドクターと出会えますことを!)が、ホントに振り切る場合も往々にあって、そっちのほうがじつは深刻かな(#1787の「ポジティブ・ケイパビリティ」を求め続ける連中)、って気がします。
一方、「アニマ(魂)」は自然や天空や動物のなか、とくにそのかたちや表面に宿ると暗示されているようでワクワクしますよね。何かに「仮託する」こと、「寄物陳思」することを思い出しました(それでまた、#1786や『全然アート』に戻る)。
析匠:
私は、いちばん最初の問いがほかの問いを包含している印象を持っています。兆候を感知できる力は、“負の包摂力”でもあると思うし、問題はその先だと思います。今は、「兆候を感じやすい人=繊細さん」とか呼ばれて、傷つきやすくてこの世の中で生きるのが難しいひとのように一義的に捉えられてしまっているようにも思います。本人も打たれ弱いとか思い込んでしまう。
でも、繊細さんなのは万々歳で、その先ですよね。感知したあとに、その兆候に「どのように」向き合いたいのか。向き合うべきなのか、じゃなくて、向き合いたいのか。そこにはそのひとのフェチが絡んできて良いのだと思うし、勇気をもってほしい。モトカ師範がおっしゃった、エディティング・ケイパビリティですよね。
Info
◉多読ジム season09・冬◉
∈START
2022年1月10日(月)~3月27日
※申込締切日は2022年1月3日(月)
∈MENU
<1>ブッククエスト(BQ):先達文庫 感門77
<2>エディション読み :『全然アート』
<3>三冊筋プレス :青の3冊
∈URL
https://es.isis.ne.jp/gym
金 宗 代 QUIM JONG DAE
編集的先達:水木しげる
最年少《典離》以来、幻のNARASIA3、近大DONDEN、多読ジム、KADOKAWAエディットタウンと数々のプロジェクトを牽引。先鋭的な編集センスをもつエディスト副編集長。
photo: yukari goto
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