2022年4月10日、ISIS FESTAスペシャルシリーズ「『情歴21』を読む」が開催され、リアル・オンライン含め70名を超える参加者が集まった。第3弾となる今回は江戸文化研究家の田中優子さんをゲストに迎え、江戸時代以降の日本がグローバル化に至る流れを『情報の歴史』を使ってお話いただいた。
田中優子さんは冒頭で「ようやく桜色の着物が着られる季節になりました」と、まとってきた着物「塩沢御召」について冒触れ、この着物が消えゆく職人技術であること、合わせた帯が認知症で時間や空間の因果がバラバラのまま繋ぐことが難しくなるお母様のものであることを明かした。
そのままでは消えてしまう情報をどう扱えばいいのか、バラバラの歴史の因果をどのように再編集すればよいのか。田中優子さんによれば、『情報の歴史』のフォーマットを活用し、時間軸だけでなく空間軸や相同性をつかむことが大切だという。そのための「読みの方法」として、田中さんは「ダイナミズムを見る」「その動きの因を見る」「立ち止まって渦を見る」の3つを挙げた。
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①「ダイナミズムを見る」とは、その後の歴史に大きな影響を及ぼすような歴象を大きく捉えること。1600年〜1610年の間だけでも世界で多くの出来事が同時多発している。それまで内戦状態が長らくつづいていた日本は、1603年の徳川幕府の成立によって300年近く戦争をしない時代へとシフトする。海外に目線をうつせば、株式会社のはしりである東インド会社の設立やアムステルダム銀行の設立など、今の資本主義経済に通じる歴象が並ぶ。文化・芸能面では、日本で出雲の阿国による定住スタイルの歌舞伎踊りが興り、これはシェイクスピアの世界劇場の登場とほぼ同じ時期にあたる。女性が男装する日本の歌舞伎踊りと、男性が女装し舞台に上がることもあるヨーロッパの世界劇場。同時代で起こった東西の歴象の相同性にも注目したい。
②こうしたダイナミズムを掴んだら「その動きの因を見る」。一言でいえば、ダイナミズムの原因に立ちかえることである。田中優子さんは、江戸幕府の成立を例に、1575年〜1599年のページに遡り、「マテオ・リッチ」と「秀吉の朝鮮出兵」を挙げる。イタリアのイエズス会宣教師だったマテオ・リッチの明王朝への関与が、のちの日本の世界観に与えた影響は大きい。また二度の朝鮮出兵は、敗戦に伴う人的被害や日韓交流の断絶などの痛手を被る結果となり、秀吉の暗殺からわずか5年という短期間で江戸幕府の成立に至る「因」となった。
③因果を把握したら、再び「立ち止まって渦を見る」ことで、既存の見方を超えた新たな歴史の見方を生みしていく。その一例として、田中優子さんは「鎖国」という概念の見直しを提案する。「長崎の出島」という歴象は鎖国の強化、つまり閉鎖的な方向に認識されがちであるが、そもそも江戸時代の頃は「鎖国」という概念がなく、同じ年にオランダ商館長の江戸参府や幕府巡察使に対するアイヌのウイマム(御目見得)も開始されるなど、むしろ「新しい外交の幕開け」と捉え直した方がよいのではという。
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田中優子さんは、このように3つの方法を高速に動かす「歴史の通過者(パッセンジャー)」としての読みを、明治維新を経て満州事変まで一気に展開した上で、「他の人の勧めでななく、自分の関心に沿うことが大切。”ここが美しい” ”この点がクリエイティブ”など、自分の基準でダイナミズムとポイントを探し重ねることで、自分の歴史観をつくりあげていってください」とエールを贈った。
終了後、受講者と対話をする田中優子さん。同日の東京新聞に掲載された連載コラム「時代を読む」では、「もう一度近現代史」と題し、ウクライナでの戦争などをとらえるにあたり、近現代史を見ることがいかに重要かを具体的な歴史の出来事を交えて解説する。コラムの最後は、校長松岡も出演する「関口宏の日本一新しい古代史」について「日本とは何かを見極める上で面白い」と締め括った。
『情歴21』を読むシリーズは5月以降も毎月開催予定。続報を待たれたい。
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上杉公志
編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。
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