母は子を育てる。寝食を惜しんで、ありったけの体力と時間と愛情を子に捧げつづける。しかし、母になることが、自分の人生を諦めることであってはならない。シリーズ・イシスの推しメン12人目は、日本全国の悩める母たちと手を携え、「母としてのわたし」だけでなく「ひとりの女性としてのわたし」を取り戻す活動をするミューズに話を聞いた。
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イシスの推しメン
新井和奈
NPO法人マドレボニータ・産後セルフケアインストラクター。2019年、基本コース44期[守]入門。47[守]ではアイドル・ママ教室、47[破]ではアイドルそのママ教室の師範代として登板。可憐な印象とは裏腹に、一歩も二歩も踏み込む骨太な指南も繰り出す胆力が買われて師範へ抜擢。エディットツアーを開催すれば告知記事は驚異のPV数を記録し、参加者からの評判も随一なイシスのアイドル。現在、50[守]師範。千葉県在住、お嬢さんも49[守]卒門。Facebook、instagramで情報発信中。
■アイドルママは、お仕事ママ
産後セルフケア インストラクターとは?
――松岡正剛校長から「アイドル・ママ教室」という名前をもらった新井さん。あまりの華やかさに、Zoom画面で登場するだけで「かわいすぎる」と会場がどよめくほどですが、お子さんはおいくつなんでしたっけ。
わっ、そんなことがあったんですか。子どもたちはいま7歳、11歳、13歳で、三児の母です。
――新井さんはNPO法人マドレボニータというところで、産後セルフケア インストラクターをなさっているとお聞きしましたが。マドレボニータとはスペイン語の「美しい母」という意味なんですよね。どんなお仕事なんでしょう。
産後7ヶ月未満のお母さんと赤ちゃんといっしょに、オンラインで、ストレッチや産後の体に負担をかけない筋トレやバランスボールのレッスンをしています。その時期は、赤ちゃんのお世話に追われてなかなか自分の時間がとれないお母さんが多いので。
1回75分のレッスンではまず身体をほぐして、そのあと対話のワークをして、最後におうちでもできるセルフケアをお伝えするという感じですね。肩こり解消のストレッチとか、骨盤を起こして座る座り方とか。
――なるほど、対話込みのヨガレッスンのような感じでしょうか。
そうですね、産後すぐのお母さんたちは家族以外と話すことが減るので、対話はとても大事にしています。
――そんな新井さんがイシス編集学校に入門されたのはなぜだったんですか。
産後セルフケアの教室に通ってくださっていた方から、「とっても合うと思うよ」と勧めてもらったんです。いまは物語講座の師範代をなさっている小林奈緒さんですね。私はマドレボニータの活動でも、とくに人と話すことを大切にしているので、その姿勢がイシス編集学校に通じるものがあるから勧めてくれたのではないかなあと思います。
――紹介してもらったら、すぐ入門したんですよね。
そうなんです、私は素敵だなと思っている人に勧められたら、なんでも試すタイプなんです。入門することを決めたうえで、編集力チェックや学校説明会に申し込みました。
――入ってみてどうでした?
なんというか、わからないことがたくさんあって、おもしろかったです。ほかの方はそうでもないと思うのですが、私の場合は基本コース[守]のときからいろいろ調べ物をしないと回答できなかったんです。ちょっと見栄を張りたかったんだと思います(笑)。でも、そうやってコツコツ稽古をしていると、「すこしずつ私は変わっていっている!」と実感できました。師範代から指南をもらうのも、すごく嬉しかったです。
――もともと対話を大切になさっていた新井さんから見て、イシス編集学校でのコミュニケーションはどう感じまし
たか。
師範代って、すごいなと思いました。私はリアルでもオンラインでも顔を見ながらレッスンしていましたが、イシスでの稽古ってぜんぶメールじゃないですか。文字だけでもこれほど互いをリスペクトしたコミュニケーションが取れるんだって驚きました。それだけのコミュニケーションスキルを、師範代みんなが身につけているってどういうこと?!ってすごく気になりました。
――その師範代の秘密こそ、イシス編集学校[花伝所]で学べるものですね。花伝所ではその謎は解けましたか。
わかるようになりましたね。他の人が書いたメールを見ても「ああ、ここを直したほうがいいな」とか、そういうことも気付けるようになりました。花伝所の稽古では、とくに錬成で不足をずばっと突かれて、悔しくて泣いたこともありましたが(笑)
■母になると「人生終わった」?
いつまでも笑顔で生きるために
――そもそも新井さんはどうして、産後セルフケアのインストラクターになったんですか。
3人目を生んだあと、はじめて「産後セルフケア」という言葉を知ったんです。それまでは、お母さんになったら子どものサポーターやマネージャーになるしかないって思ってました。
子どもが生まれるまえは調理の仕事をしていたんですが、子どもを預けて仕事に復帰するのは難しくて、コンビニのバイトを転々としていたんです。
――日本の子育て事情は厳しいですよね。
「お母さんになったら、正社員で働くことが難しいんだな」「ずっと時給1000円で働かなきゃいけないんだ」と思ってたんですよね。そのとき、いま勤めているNPO法人マドレボニータに出会って、「インストラクターっていう働き方もあるじゃないか!」って道が開けたんです。
――なるほど、新井さんご自身が「母」という役割に閉じ込められるつらさを実感されていたとは。
子どもを生んで、正直「私の人生、終わった」って思っている人って多いんですよね。子どもが中心で、自分は脇役になっちゃう。でも、母になっても自分をケアしてもいいし、好きなことをしながら子育てしたっていい。自分を諦めてしまった人たちに、私は、何歳になったって、新しいことにチャレンジしてもいいんだって伝えていきたいんです。
――新井さんは、産後セルフケアインストラクターの資格のほかにも、ヨガインストラクターの資格をお持ちで、エネルギ
ッシュに活動されてますよね。
じつはコロナ禍で8キロ近く太ってしまったので、今年は3ヶ月間、ダイエットのコンサルも受けて、いまはダイエットコーチの養成講座も卒業して、ダイエットコーチとしても活動しています。そして年明けには、日本一歩き方が綺麗な人を決めるウォーキングの大会にもエントリーして、いまは歩き方を研究中です。
――どんどん新たな挑戦を続けておられるんですね!
■子育て母と師範代の共通点
相手の可能性を引き出す秘訣
――新井さんが師範代として教室を担ったのは、2年前。指南するために深夜2時とかに起床してらっしゃったのが印象的でした。
そうですねえ。その頃は下の子の寝かしつけが必要だったので、夜一緒に寝てから、深夜2時くらいにむくっと起きて、夜中静かなときに指南してました。学衆さんから回答が来ていると、どうしてもすぐ返したくって。
――お仕事しながら3人のお子さんを育て、さらに師範代活動を担うなんて、どうしてそこまでイシスにのめりこんだんでしょうか。
やっぱり、人が好きなんですよね。編集稽古を通して、いろんな人の考え方を知れるのが好きなんです。あとはさびしがりだから、教室の学衆さんとのやりとりがないとさみしいんです(笑)。
――新井さんの師範代ぶりは、「学衆さんのお尻を叩くのがうまい」と評判になっていたのをお聞きしました。アイドルママに叱られて喜んでいる殿方が多かったとか……(笑)
えぇ〜、そうなんでしょうかねえ。でもたしかに、家では「はやくしなさいよっ!」って叱っちゃうところを、イシスで学んだ方法を生かして、伝わりやすい言葉を選んでいたかもしれません。
――応用コース[破]では「アイドルそのママ教室」という看板を背負っておられましたが、その名に違わず、学衆さんをそのままアイドル化する感じでしたよね。
いやもう、学衆さん一人ひとりがすばらしいエディティングキャラクターをもっているなと感じてました。素晴らしくない人なんか、誰もいない。みなさんのことを知っていけばいくほど、もっと可能性を引き出したいって強く思ってました。
――新井さんって、すごくがんばりますよね。僕吉村は、新井さんのエディットツアーのサポートをしたとき、いろんな無茶ぶりをしたんですが、言ったことぜんぶ確実にモノにしてくる。その負けん気はどこから来るんでしょうか。
うーん、私は、じぶんには抜けているところがたくさんあると思っているんです。やりたくないことはやらないし、ぼーっとしてスライムみたいに溶けちゃうときもある(笑)。いまはイシスで師範として活動していて、講評が書けないでヘコんでいることもあります。イシス編集学校に入って、そういう状態も大事なんだなと思えるようになりました。
――「編集は不足から生まれる」ということを実感しておられるんですね。
赤ちゃんが言葉をしゃべるようになるときって、まるでバケツから水が溢れてくるような感じなんです。話すようになるまでは、外からは見えないけれど、確実にバケツに水が溜まっている。そういう状態が私にもあるし、回答を送ってくれない学衆さんにもあるんだなと思えるようになったんですよね。
――自分の可能性も他人の可能性も信じられるようになった、ということでしょうか。
そうです。師範代をしていたときに、しばらく音沙汰がなかった学衆さんがいたんです。その方がひさしぶりに回答を出してくださったとき、「ああ、いっぱい考えておられたんだな」ってわかったんですよ。それ以来、目の前の方がどんな様子であろうと、この場にいるんだから、きっとその人のなかで何かが起きているんだろうって捉えるようになりました。
――目の前にいる人の成長を待つという姿勢は、お母さんも師範代も通じるところがありますね。
まさにそうですね。イシスで学んで、子どものとの関わり方も変わりました。いままでは、自分の言いたいことだけ伝えて、ぷいってそっぽ向かれていましたが、花伝所で学んだ方法を実践することで子どもともだんだんいい関係を築けるようになった気がします。お母さんと師範代って似ているので、いろんなお母さんたちにぜひともイシス編集学校の師範代になってもらいたいです。私は自称「師範代製造機」。お母さん師範代を増やすのが、イシスでの私のミッションです。
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梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
イシス編集学校メルマガ「編集ウメ子」配信中。
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