【イシスの推しメン24人目】ブランディングは編集稽古? ブランド・プランナー大久保佳代が見た、編集稽古の応用法とは

2024/02/19(月)08:37
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イシス編集学校に入門した人たちが、みんな一度は驚くのが「師範代」の熱量です。どうして、師範代はこんなに熱心に指南を返してくれるのか。何を思って、そこまでのめりこむのか? その秘密を、今回は解き明かします。

 

遊刊エディストの連載企画・イシスの推しメン24人目は、学衆としては全講座をコンプリート、指導陣としても学衆を焚き付ける力が抜群の大久保佳代師範。聞き手・吉村堅樹との立場逆転の模様も含めて、お楽しみください。

 

聞き手:吉村堅樹

イシスの推しメン
大久保佳代

ブランド・プランナー。イシス編集学校には2010年、基本コース[守]24期入門。27[守][破]猫町たまたま教室師範代として登板。以来、世界読書奥義伝から物語講座、風韻講座からハイパー・コーポレート・ユニバーシティまで全講座修了。指導陣として、物語講座の師範代や師範も務めるほか、14[離]右筆、15[離]別番としても活躍。好奇心全開で相手を質問攻めにし、いつしか懐にちゃっかり鎮座するという不思議なコミュニケーション能力の持ち主。

 

■ 足が退化するほど指南した
  自信のなかった師範代が吹っ切れたワケ

 

――大久保さんの部屋、いつ見ても雰囲気がありますね。不思議なものがいっぱい見えます。

 

これはドウダンツツジの枯れ枝です。緑の季節が終わったから、葉っぱを切って、枝だけにしたもの。こっちはペンキ塗りの刷毛ですね。

 

――時計もありますが、時刻が違うような。

 

そうそう。これは壊れた時計です。歯車の仕組みを自分で解明すれば動かせるはずと思って買いました。3500円くらいだったかな。私、古道具好きなんです。

 

――え、動かない古道具を集めてるんですか。

 

動くものもありますよ。これはアメリカ製のサーキュレーター。動くけど、うるさいんです。

 

――とにかくいろんなものがありますが、どれも馴染んでいるからすごいですね。大久保さんは、イシス編集学校では全講座をコンプリート。指導陣としても、[遊]物語の師範代や師範、[離]の火元までさまざまなロールを担ってくださってます。どこにいっても楽しそうですよね。

 

へえ、そう見えるんですね! ふわ〜っとやってるだけです(笑)。

 

――大久保さんの教室って修了する学衆さんが多いんですよ。[守]の師範代も[破]の師範代も、物語講座の師範代も、修了率が高い

 

師範代には全精力を傾けましたね。思い出すのは、基本コース[守]の卒門期限のあと。未指南が40回答くらい溜まっちゃって、お盆休みのあいだずーっと椅子に座って、ずっとずっとずっと指南書いてて。お盆が明けて、久々に会社に行ったら体がフラフラ。足が退化してた(笑)。ちょっと怖くなったけど、とてつもない爽快感がありました。

――物語講座の師範代時代は、2回登板して、2回とも全員を績了に導いてましたよね。師範代として傑出するものを感じます。

 

そうでしたっけ? 今はそうじゃないんですけど、私が登板した頃は物語講座って「私語厳禁」という雰囲気があって。その影響か、績了のハードルも高かったかも。私の教室は、なぜか、わーきゃー賑やかだったんです。

 

――ほう。それは楽しくやろうと意識してたんですか。

 

いや、ぜんぜん。

 

――ええっ?!

 

「みんなで修了しようね」とか、和気あいあいとやろうとは思ってないです。賞を取るとか、うまく執筆するとかも、どうでもよかった

 

――だとしたら何を思って、師範代をしていたんでしょうか。

 

物語を書くって、自分にいろんな変化が起こるんです。物語講座で一気にいろんなプログラムを駆け抜けていると、世界観の改造が起こるレベル。なので、執筆の小手先のことよりも、「いま、この人の人生では、この言葉が必要やろ」って思う言葉をかけるようにしていましたね。
たとえば、この叢衆 (学衆)さんは、きっとご両親に「これはいい」「これは悪い」っていう価値判断をされ続けてきたことが思考の枠組みになっているんだろうなって察すると、前提だと思いこんでいる価値観をぶっ壊したらもっと自由になるだろうなって思ったり(笑)。

 

――その気構えはすごいですね。大久保さんの教室で学びたいっていう人は、たぶんいっぱいいますよ。僕は、大久保さんの師範代という方法を解明したいですし。

 

私も吉村さんの指南してみたい! 私ならバシバシいじめる(笑)。

 

――……いじめないでください。最初からグイグイいく師範代スタイルだったんですか?

 

いや、[破]のときはビクビクしてましたよ。開講前に、指南がだめだって言われて怖くなっちゃって(笑)。師範にOKをもらうまでは指南を送っちゃいけないんじゃないかと思ってました。

 

――講座中ずっと?

 

いや、あるとき吹っ切れました。このままだと、アリスとテレス賞の稽古が対応できないなと思って。そこからは、「自分の指南が良いか悪いかなんて関係ない」「学衆さんたちが前に進めばいいんだ」と認識を変えました。そうしたら、みんな稽古に前のめりになっていきました。そのまま担当教室の学衆さんたちと一緒に、5人で離の入院申し込みをしたくらい。

今では、不足って教室運営においてはアドバンテージだなって思ってます。教室中のみんなが主体的な運営者になる。師範代みたいに頼もしい学衆さんも現れて、別の学衆さんから「○○師範代」って呼び間違えられたりしてましたよ(笑)。


■入門のきっかけは「日曜日の朝6時」
 そして、吉村堅樹の経歴を聞き出す一部始終

 

――大久保さんはどんなきっかけで編集学校に入門したんですか。

 

関西オフィスに勤めていた会社の同僚が、「東京に遊びに行くから、泊まりにいっていい?」って連絡してきて。いいよーって答えたら、「日曜日の朝6時に用事が終わるから、そのあと行くね」って言われたんです。何その用事?!と思うじゃないですか。

 

――感門之盟の後、朝まで「アフ感(アフター感門之盟)」「アフアフ感」とかやっていた時期もあったんですよね。

 

そうそう。で、彼女が朝8時にうちに来て、イシスのパンフレットとかを見せてきたんです。そこには何やら怪しげな教室名が載ってて。既に退社が決まっていた彼女がその決断をしたのは、この学校でカッコイイ人たちのいろんな生き方を目の当たりにしたからだって聞いたんです。 憑き物が落ちたようにスッキリした彼女が羨ましかったっていうのはあるかも。 

 

――イシスには、どんなことを期待してました?

 

入門する前は、仕事に役立つだろうなと思ってました。構造的なものの見方が身に付くかなと思って。でも講座を進むごとに、「人間が人間として存在していくこと」に関する何かが編集工学にはありそうで、それを知らねばならないと思って学び続けている感じですね。そういえば、吉村さんはなんで入門したの?

 

――僕は自己啓発セミナーとかにうんざりしていた時期があったんです。欧米風の方法ばかりで、なんだか気持ち悪くなって。そのときたまたま読んだブログに『知の編集術』のことが書いてあったんです。イシス編集学校を調べたら「守破離」というコースウェアになっていて、日本流の方法がある!と確信してすぐ入門しました。

 

じゃあ、どうやって林頭になったの?

 

――なりゆきですね。[離]を退院したあとに太田香保総匠から連絡があって……(注:ここから、吉村が編工研に入社してからの紆余曲折が20分にわたって語られる。吉村クロニクルの内容はこちらで

 

へえ、意外! 「オレやったるで~」って感じで、編工研に乗り込んだわけじゃなかったんだ!

 

――流されるままでしたね。むしろ、いつやめてもいいと思っていたから、自分の思うことはなんでも言ってましたね。

 

それが良かったのかもねえ。

 

――あ。どうして僕のイシス歴を話しているんでしょう。大久保さんのインタビューをしていたはずなのに。すべてを巻き取っていくようなコミュニケーション力にやられてしまいました……。


■ブランディングは「概念工事」
 ミッション・ビジョンに代わる、多神教的な型とは


――大久保さんのお仕事は、ブランディングですよね。どんなことを?

 

仕事は、会社のビジョンミッションなどを考えたり、会社や事業、商品などを立ち上げるときのコンセプトや世界観、ロゴや名前を作ったりしています。企画からデザインからなんでもやりますね。最近では事業開発も。

 

――ブランディングのお仕事に、イシスでの経験って活かされてますか。

 

言葉や概念の根っこにアプローチするようになったというのはあります。プロセスとしては

編集稽古と同じことをしていると思います。ブランドリニューアルって、たとえて言うなら、「昨日まではカバと思ってたけど、実は私、ヒョウだったんです」みたいな話なんですね。これまでの来歴はひとつなんだけれど、その見方を変えてストーリーを語りなおすことなんです。

 

――それは、クロニクル編集術とか物語編集術にずいぶんと近いですね。

 

そうだと思います。私はブランディングって、概念工事だと思っています。実際の現場では、クライアントさんにしつこくヒアリングして、その奥にあるものを探っていきます。それも、回答を読んで、その奥にある種みたいなものをみつける師範代業と同じだなと思いますね。

 

――編工研は、その組織の価値を再発見するための「ルーツ・エディティング」というサービスを提供しています。大久保さんのお仕事はそれに似ているんでしょうね。

 

そうですね。ルーツを探って、その先をどう見せるかも大事だと思います。過去の意味が変わると、ひと続きになった未来も変わりますよね。企業って、ミッションとか理念とか、バリューとかパーパスとか作るじゃないですか。でも、なぜか日本では形骸化してしまう。これって、日本人には合わないんじゃないかなとずっと思っているんです。「ミッション」とか「ビジョン」とかって一神教的な型ですよね。

 

――たしかに。

 

日本には、もっと多様で融通がきくマンダラ的な動きのあるものが必要なんじゃないかなって。「ある」じゃなくて「なる」感じの。日本なり、東アジアなりのブランディングの型がありそうだから、それを開発したいなと思っています。

 

――いいですね。僕も1個の正解があるわけないと思っています。だから、イシスでは「6つの編集ディレクション」として方向性だけを示したんです。ぜひいっしょに日本的なありかたを模索していきましょう。

 

シリーズ イシスの推しメン

 

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  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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