ブライアン・イーノは、1996年に「scenius(シーニアス)」という言葉をつくった。「scene + genius」。文化的および知的進歩の多くは、あるシーン(やリアルな場所)から、一種の集合的魔法をおこした多数の人々の産物であると主張した。文化的なシーンから切断された孤独の天才としての「genius(ジーニアス)」がイノベーションを促進するのではなく、私たちは「シーニアス・モデル」に集中すべきだとイーノは言った。AIDAボードの武邑光裕さんは、このシーニアスに注目し講義をされたことがある。
いよいよ4月から、企業や地域のリアルの場に、「ほんのれん」が更新型一畳サイズライブラリーとして導入され、毎月問いと本をデリバリーする。「ほんのれん」は、たくさんの私状態になり、人に同一化せず無関係にもならずに何かを創作しつづける「連」の方法に肖っていきたいが、まさにイーノのいうシーニアス・モデルを目指すものでもありたい。
武邑さんは、リモートワークが進み、リアルな場での「おしゃべり」が極端になくなってしまうことの真の問題は、シーニアスな場に必要な、複数の人々の雑談やおしゃべりから生まれる「ひらめきや直感」の欠如にあると言われている。これが消えていく社会に未来はない。それは、オンラインコミュニティの未来をどうするか?という問いを考える切り口にもなる。
「おしゃべり」がある場には、どこかに必ず非線形的な「ゆらぎ」が生じる。多少の矛盾や葛藤を抱えつつも、柔らかく乗り越えていくための大胆な問いや協調するリズムが交わされるはずだ。それらが、堅い組織構造や頑健な集団活動をじわじわほぐし、反脆く変化を味方につけるための欠かせない複人的資本になるはずだ。
「ほんのれん」が設置されたところは、たとえ職場であっても、「おしゃべり」が”当然”な場になってほしい。シーニアスなおしゃべり場、かつては喫煙所給湯室に自販機コーナー、これからは、ほんのれんも?
[編工研界隈の動向を届ける橋本参丞のEEL便]
//つづく//
橋本英人
函館の漁師の子どもとは思えない甘いマスクの持ち主。師範代時代の教室名「天然ドリーム」は橋本のタフな天然さとチャーミングな鈍感力を象徴している。編集工学研究所主任研究員。イシス編集学校参丞。
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