スニーカーならエアマックス。NBAはエアジョーダン。ダイノジはエアギター。そしてイシスにはエアサックスと呼ばれる男がいる。
感門之盟で音楽を学ぶ卒門学衆としてフィーチャーされたものの、サックスの演奏が未熟だったため、校長から吹かないで持ってるだけにしてとディレクションされたことから、「エアサックス」の愛称がついた。49[破]学衆・ヤマネコでいく教室、加藤陽康。これは3度目の正直ならぬ3度目の突破にかける若者の4ヶ月に渡る編集稽古のドキュメントである。
再生の女神イシスは、ひとりの若者に微笑んだ。
エアサックス加藤。本名、加藤陽康。その陽気な名前と裏腹な陰鬱な表情、煮え切らない態度と宇宙規模の尊大な言い訳で人気急上昇中のこの男。
果たして、加藤は突破したのか? とやきもきしていた方も多いだろう。そう、ヤツは突破した。しかも全体の4番目で。
ヤマネコでいく教室◆安田晶子師範代/華岡晃生師範
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04番 加藤陽康 2月09日 02:52
ISIS館を訪れるたびに、物珍しい見世物のように、学林局のお姉さまがたが冷ややかな目をして、入れ替わり立ち替わりやってきていた昔日の日々が思い出される。「突破できるのー?」「ほんとにぃ?」(冷笑)。
自分の身から出た錆なのですが、ほんとに僕って信用がないんだなということがわかります、と語っていたエアサックス加藤。自分が周りからどう見られているのか客観視することができるようになった加藤の成長があった。
見下され続けてきた男が見事突破を果たし、意気揚々とやってきたエアサックス加藤。あらためて心境を編集天狗がインタビューした。
編集天狗(以下天狗):突破おめでとう。
エアサックス加藤(以下エア):ありがとうございます! おかげさまで突破できました。
天狗:破の3回目の稽古はどうだった?
エア:発見したことばかりでした。守の型を使って、破に挑むということが、どういう姿勢で使えばいいのかわからなかった。それが長いこと続いていたので、その姿勢を教わった感じです。
天狗:今回、自分で変わったことって何だと感じている?
エア:大きくは「たくさんの私」に関係するんでしょうけど、「虚」のわたしを持ち込めたというのか。全て虚実ないまぜというのか。
天狗:うーん、またよくわかんないんだけども。具体的には?
エア:いい加減なというか(笑)。
天狗:一回目も二回目も突破してないのに、今まではいい加減じゃなかったわけ?
エア:神経質だったという感じですかね。ある方向に向かった機能を持つものを、他のものに転用していいという、いい加減さというか。別にいいじゃんという雑さを学んだというか。
天狗:俺が雑なことばかり教えてるみたいじゃない(怒)!
エア:言い方おかしいですね。すみません。あー、ちょっとまだ整理がついてないので。別の方向から言うと、編集工学の編集について悩むと言うか、工学が前から引っかかっていて、マックブックに対して、白紙性といった欠陥みたいな、白紙をイメージしてしまうのがよくなかった。編集工学は、正確性があって、論理的に組み立てていくと言う感覚があったんです。パズルのように組み上げると言うか。
天狗:わかるようなわからないような感じだけども、編集工学のイメージが窮屈な感じがしていたわけ?
エア:自分はそういうふうに思考しようとしちゃってましたね。思考の連想ゲームの中でもそうですけど、考えるとは何かという中で、連想していく立体交差の空間での繋がりを提示しているからには、白紙性や几帳面に積み重ねていくイメージでは追いつけないようなスピードがあったりする。一個ずつだせないようなモヤモヤした形のイメージもあったり、体感があったりするので、今までの自分のイメージでは編集は進まなかったのです。
天狗:変わったというターニングポイントはどこだった?
エア:ターニングポイントは「ダースカトウの再生はなったのか」のころですかね。年末にオツ千の穂積さんと吉村さんのファイヤアーベントの千夜の収録現場に立ち会わせていただいて、そこでアナーキーに開眼しました。
アナーキーという4つ目のAを知ってから、3Aがそれで腑に落ちたように思います。自転車の乗り方が、これまではこうすればペダルが回せるとか別の道筋で学んでいて、それを言葉にすることもできるけど、体感みたいな知があるとわかったとき自由になった感じです。
天狗:それがつかめただけでもやってよかったんじゃない。
エア:もし天狗に連れ去られるのではなく、3回目で同じふうになっていたら、何が足りなかったのかわからないまままた突破できなくて、4回目をするということをしていたのかどうかわからないですね。4回目、5回目ずっとやり続けるなんて、いつか違うことしてたのかもしれないと思いますね。
1回目も2回目も稽古はしていなかったんですけど、ぐちゃぐちゃ言い訳をしゃべっていただけで、師範代や師範によくしてもらっていたのに、カリキュラムの意図を全くくめていなかった。
天狗:稽古に乗れていなかったんだね。
エア:そうですねえ。
天狗:いまは、教室という場や稽古のノリには乗れるようになった?
エア:まだ場というのはわかってないかもしれないです。ただ安田師範代とは挨拶がてらしゃべっていましたし、安田師範代に話しかけたくて稽古するというのもありました。そのために乗るといいますか。
天狗:ところで突破を果たして、今は何をしているの?
エア:今はハイパーミュージアムの再回答の準備をしています。
天狗:いけそう?
エア:いけると思います! 窓に関する連想が面白いところまで来ています。サミュエル・ベケットと小堀遠州を見つけました。『モロイ』に窓に関する詩的な文章があるんです。部屋に入ると夜中で窓に雨が打ち付けていた、でも窓はなかった、雨は降っていなかった、どっちなんだよみたいなものを中1の時に読んだやつです。小堀遠州は擁翠亭(ようすいてい)という多窓茶室をつくった。単に茶室の窓の下地窓だけではなくて、敢えて窓ばかり。家にフォーカスするより、窓の仕掛けにフォーカスを当てたようなものです。
天狗:いけそうな気はしないけど、期待しています!
エア:毎回毎回、いつもすごい稽古やって、天狗さんを驚かせたい気持ちはあるんですが、もう手遅れですよね。
天狗:いやいや、今からでも驚かせてくれよ。
エア:はい、いつも予想通りの稽古具合と言いますか。
天狗:いや、予想を下回ってるけどね。ところで、[破]の先はまだ考えていない?
エア:花伝所かなあと考えていますね。
天狗:おー。田中晶子花伝所長の嘆く顔が思い浮かびそうだね(笑)。田中所長は「多読ジムがいいんじゃない」とか冷たいこと言ってたよ。私はエアサックス教室の誕生を楽しみにしているけどね。
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インタビューはここまでだが、忘れている人が一人いた。本業の音楽が多忙となり、エアサックス加藤の来訪につきあえなくなっていたオネスティー上杉である。立ち会えなかったとはいえ、そこはオネスティー。いつも加藤のことを遠くから見守り、突破できるかどうかと心を痛めていた。そんなオネスティー上杉から祝福のメッセージが届いた。
まずは突破が嬉しくて嬉しくて。。(感涙) 巣立ってゆく雛鳥の後ろ姿を見つめる親鳥のような気分でいます。
加藤くんとは47[守]を卒門した2021年9月の感門之盟でお会いした時から、加藤くん自身の中で言語化したりアウトプットしきれないことを抱えられているような印象をもっていました。[破]はまさにその部分を情報編集として扱うことが必須なため、これまで思うような稽古ができなかったのだと思います。
勝手な想像ですが、師範代や教室での稽古を通じて、徐々に「まずは仮どめでアウトプットしてみる」ことで情報が動き出すことを、実感しはじめていったのではないでしょうか。確固たるものがもともと「ある」のではなく、編集しつづけることでなにかに「なる」。そのプロセスごと楽しめるようになったのでは。
自己編集から相互編集へ、突破から花伝所へ。虚も含めた「エア」だからこそ、いかようにも編集しつづけられる加藤くんのこれからが、今から楽しみです。
突破を超えて、エアサックス加藤のこれからはどうなるのか。P1グランプリに出場はかなうのか。花伝所への申し込みは拒否されないのか。感門之盟まで、もうしばらく番外編としておつきあい願います。
【エアサックス加藤の三度目の突破】バックナンバー
■【エアサックス加藤の三度目の突破12】イシスの女神が再生したものは?
■【エアサックス加藤の三度目の突破11】天狗に願掛け、結果はいかに?
■【エアサックス加藤の三度目の突破10】窓からミュージアムが見える?
■【エアサックス加藤の三度目の突破09】ダース・カトウの再生はなったのか?
■【エアサックス加藤の三度目の突破08】嗚呼!エアサックス母子応援団
■【エアサックス加藤の三度目の突破07】波乗りエアサックスの慢心を諫める
■【エアサックス加藤の三度目の突破06】たくさんの天狗とたくさんのわたし
■【エアサックス加藤の三度目の突破05】歴史的快挙そして新たなる野望
■【エアサックス加藤の三度目の突破04】守の型を使い尽くすべし
■【エアサックス加藤の三度目の突破03】心がわりの相手は君に決めた!
エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
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