ほんとうは二つにしか分かれていない体が三つに分かれているように見え、ほんとうは四対もある脚が三対しかないように見えるアリグモ。北斎に相似して、虫たちのモドキカタは唯一無二のオリジナリティに溢れている。
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
投資、経営のプロフェッショナルとして、さらにその力を磨く。そんな目的でイシス編集学校に入門した束原俊哉さんだったが、大きな変化をもたらしたのは「何気ない日常」だった。
イシス受講生が編集的日常を語る、エッセイシリーズ。「ISIS wave」の22回目は、束原俊哉さんの“編集的無二の習慣”をお送りする
■■《5つのカメラ》で日常を見直す
シャワーを浴びてサウナに入ると、床と壁と天井を幅が10センチくらいの板が覆っている。「3段ある階段」の真ん中に大きめのタオルを敷いて座る。小さめのタオルで前を隠す。顔を上げると短針と赤い秒針しかない時計がある。この時計の短針の位置を覚えておく。サウナに入っている時間はきっかり5分。
室温は90度。ほどなく徐々に皮膚の表面温度が上がり始める。これと交錯するように全身から汗が出始める。汗は肌の上できらきらと光り、玉のようにふくれてから、ぽたぽたと板の上に落ちていく。そばに黒い石をのせたストーブがある。その周辺には、水分の影は全くない。板の上に落ちた汗もすぐに乾いてしまう。だんだんと息苦しくなり、吐く息が熱い。「茹でガエルならぬ、蒸しガエルだな」とふと思い、ついでにシュウマイを思い出す。時計を見上げる。まだ2分ある。周りを見ると、目をつむっている人たちが3人。自分も目をつむりじっと我慢。
いよいよ我慢できなくなったところで、外に飛び出て、シャワーを浴びる。「くぅーー」。思わず声が上がる。水風呂に入ると今度は「はぁー」。水風呂はきっかり1分。自分の身体と水が一体になったところで、再びサウナへ……。
イシスの応用コース[破]では《5つのカメラ》という「方法」を学ぶ。文章を書くときに、外部を捉える視点を広げる「認知的道具」である。
《5つのカメラ》
1.「足のカメラ」 :空間性や構造性を捉えるカメラ
2.「目のカメラ」 :こどもの目で見ているような、発見的なカメラ
3.「心のカメラ」 :認識のカメラ
4.「鳥の目のカメラ」:眺望的なカメラ
5.「虫の目のカメラ」:細部に注目するカメラ
週末にジムに行き、ひと泳ぎしたあとサウナに入る、という毎週毎週繰り返している日常の習慣。サウナに入るときに、《5つのカメラ》を携えていくと「あら不思議」、同じサウナ体験が全く別のものに見えてくる。ビフォー&アフターイシスで、例えば、サウナも「(ただの)気持ちの良い習慣」から「無二の習慣」になった。
イシスの[守]や[破]で得たコトは、数限りなくあるが、何気ない日常を「再発見する“方法”と“自信”」を持てたコトが最大の価値といえる。元々は、自分の本業である投資や経営に役立てる目的だった。が、予想に反して、仕事以外の時間を価値あるものにする効果の方が何倍も大きかった。
編集工学は、何気ない日々を新たに再編集する。

▲束原さんは[破]を終えた後、花伝所に進み、51[守]で師範代登板。座衆としてAIDAでも学んだ。写真はAIDAの一場面。
文/束原俊哉(48[守]平時有事教室、48[破]MOT勿体教室)
写真/角山祥道(アイキャッチ)、後藤由加里(文中)
編集/吉居奈々、角山祥道
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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コメント
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2025-12-30
ほんとうは二つにしか分かれていない体が三つに分かれているように見え、ほんとうは四対もある脚が三対しかないように見えるアリグモ。北斎に相似して、虫たちのモドキカタは唯一無二のオリジナリティに溢れている。
2025-12-25
外国語から日本語への「翻訳」もあれば、小説からマンガへの「翻案」もある。翻案とはこうやるのだ!というお手本のような作品が川勝徳重『瘦我慢の説』。
藤枝静男のマイナー小説を見事にマンガ化。オードリー・ヘプバーンみたいなヒロインがいい。
2025-12-23
3Dアートで二重になった翅を描き出しているオオトモエは、どんな他者に、何を伝えようとしているのだろう。ロジカルに考えてもちっともわからないので、イシスなみなさま、柔らか発想で謎を解きほぐしてください。