平和に飛び交うモンシロチョウも、地球史スケールでは、ほんの少し前に日本にやって来たばかりのパイオニアらしい。押さえきれない衝動に駆り立てられて彼方に旅立つ人たちの原型は、海をわたる蝶なのかもしれない。
2024年のゴールデンウイークが始まり、公共交通機関は旅行客で賑わい、様々な声や響きが遠く近くで交差している。同じ時期4月28日に豪徳寺の編集工学研究所で、輪読座「『太平記』を読む」が開催された。第124代昭和天皇の誕生日を象徴する昭和の日(4月29日)の前日だ。天皇陛下の長女である愛子さまも25日に東京・八王子市の武蔵野陵を参拝し、埋葬されている曾祖父に対して日本赤十字社への入社をフレッシュに報告されていた。
昭和天皇と同じく動乱の時代を生き、日本中世に帝王として「異形の王権」を構築しようとした人物と言えば、第96代後醍醐天皇が挙げられる。鎌倉北条氏が仕切る武家社会で二度の配流を経験しても屈せずに、足利高氏(尊氏)や新田義貞と協力して幕府を倒し、政治権力を天皇に一元化する建武の新政を行った。京都の王権が崩壊しても三種の神器を持って吉野に逃げ込み、南北朝の動乱を引き起こした。
帝王後醍醐による倒幕計画に始まった『太平記』。輪読座では、事件発生の現場情報を収集し、当時の動的状態を記した『太平記』の編集を輪読師・高橋秀元とともに読み解く。今回、5年ぶりにリアルでの参加者が同席した講座スタートの様子をレポートする。
後醍醐天皇が歴史の表舞台に登場できた背景には13世紀後半、1260年に即位したモンゴル帝国第五代クビライハンの世界戦略と、ユーラシア中東部の変動があった。日本の歴史的事件を深堀するためには、世界史側の周辺国家の動向への理解が必要になる。現代のウクライナとロシアの戦争が、私たちの食生活を支える小麦の価格を押し上げる影響を思い出したい。
クビライは即位後、高麗の属国化、南宋の征服、カイドゥ・ウルス(モンゴル国家)の制圧、そして日本への征服と、大きく4つの施策を掲げていた。これらは同時に行われたわけではない。1268年には高句麗遠征への協力のために日本に対して親書「大蒙古国皇帝奉書」を鎌倉に届けていた。しかしながら、外交権を持つ朝廷は返書を出さず、クビライは施策に基づき、日本への征服を決め、元寇(文永・弘安の役)へとつながっていく。
歴史には類似性がある。日本に南北朝時代(1336~1392年)が起こっていたのと同じく、元帝国にも南北朝時代(1271~1301年)があった。クビライの宗主権への反抗があり、2人の皇帝が存在していたのだ。国内の両統間の闘争は国力を低下させる。両統統一を実現した室町将軍・足利義満が明との貿易を開始したのは、国力を回復させる施策だった。
『太平記』は元々書物ではなかった。日本国内で網の目に広がった天台宗ネットワークを使った物流配送システムを通じて、ニュース的な「手紙」が定期的に民衆や信徒に配布されていた。決して当時の為政者に迎合していたわけではない。後醍醐天皇の色狂いを示すような大胆不敵なメッセージが投げかけられている。実名で書くと、きっと首が飛んでいたに違いない。
高橋は「『太平記』を最初に編集したのは誰だったのか」と問う。昭和時代の歴史学者・和歌森太郎を昔訪ね、『太平記』について教えを乞うたエピソードを講義中に何度か混ぜる。配布資料には初代編集者の仮説が挙げられていた。その人物は鎌倉末期から南北朝時代にかけて活躍し、古典の購読を通じて後醍醐天皇とも接点のあった天台宗の僧侶・玄慧法印だった。
ロシアとウクライナ、イスラエルとパレスチナとイランなど、現在の世界の戦争情勢を読み解くにも『太平記』は役に立つ。世界の軍事化は進んでおり、日本では2027年度にはGDPの2%が防衛費に投入され、予算規模が増大する。軍記物語である『太平記』を読むことは、軍事方面の歴史的現在に対する認識を再構築する方法を知ることにもなるのだ。
次回の第二輪は5月26日(日)。輪読座ではアーカイブによる視聴がいつでも可能だ。門戸は常時、誰にでも開かれている。『太平記』に隠されている現在社会の見方に関心を持たれた方はコチラ(リモート参加可能)をクリックいただきたい。
高橋が最もエコな会社と評するSpiber株式会社の斎藤耕一さんが今日の高橋のジャケットを紹介していた。
畑本ヒロノブ
編集的先達:エドワード・ワディ・サイード。あらゆるイシスのイベントやブックフェアに出張先からも現れる次世代編集ロボ畑本。モンスターになりたい、博覧強記になりたいと公言して、自らの編集機械のメンテナンスに日々余念がない。電機業界から建設業界へ転身した土木系エンジニア。
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