発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。

漫画家・鳥山明さんの画集に、『質的社会調査の方法』。『発酵の技法』、『日本の奇祭』があるかと思えば『カラスのパン屋さん』も。『フォークの歯はなぜ四本になったか』『ええじゃないかの不思議』に『超人ナイチンゲール』。
これらの本が一堂に取り揃えられた本棚「ヒントライブラリー」が、2024年10月、名古屋市にオープンした日本最大のスタートアップ支援拠点「STATION Ai」にあります。気鋭のベンチャー企業が集結するこの施設に、なぜ絵本や奇祭の本が?
実は「ヒントライブラリー」の選書を担当したのは、イシス編集学校の中部支所「曼名伽組(まんなかぐみ)」のメンバー。曼名伽組組長で、ナゴヤ面影座の作座人も務める小島伸吾さん、愛知でコミュニティビジネスの支援に携わってきた久野美奈子さん、そして私、石黒好美です。腕によりをかけた選書の裏側を紹介します。
「STATION Ai」はビジネスの革新を促進する施設です。クライアントからのオーダーは「愛知の企業や起業家に発想のヒントを提供し、挑戦への背中を押す本棚に」というものでした。
それでも「いわゆるビジネス本の棚とはまったく違うものにしたいと考えました」と小島さん。「一見、ビジネスとは関係の無さそうな視点で選書しています。例えば、成功よりも失敗。強さよりも弱さ。答えよりも問い、といったように」
「ヒントライブラリー」はオフィスフロアから離れた、愛知の産業偉人を紹介するミニミュージアム「あいち創業館」の中にあります。生き馬の目を抜くようなビジネスの最前線にいながらも、ひととき事業の原型(アーキタイプ)に立ち返ることで新たな将来を思い描くライブラリーに。選本チームはこのように与件を整理し、目的を拡張させていきます。久野さんはユニークな本棚づくりのトリガーとなったのは「産業を「産」と「業」に分けて捉えなおしたこと」だといいます。
「「産」からは文明・発明・プロダクト、「業」からは文化・発想・なりわいといったキーワードが次々と湧き出てきました。ヒントライブラリーの目指すところは、現代社会において分断されている専門知と生活知、テクノロジーと風土、つまり産と業のつなぎ直しではないか。このワクワクする仮説は、選書に行き詰まりそうになった時に一歩先を照らす灯になりました」
一般の人も利用できるカフェやフードコート、ルーフトップバーもあるSTATION Aiには連日多くの人が訪れます。ヒントライブラリーにもたくさんの人が足を止め、思い思いに本を手に取っています。
「この世界模型のような本棚に囲まれて本と遊んでもらいたい。」と小島さん。「自分では考えもしなかった意外な本のあいだを行き来する過程で、誰も思いつかなかった発想がきっと生まれるはず。これは本棚というアイデア創出装置なのです」
イシス編集学校のメンバーはこれまでにも松丸本舗、近畿大学、角川武蔵野ミュージアムのエディットタウンなど、さまざまな場所の選書を手がけてきました。イシス流の選書メソッドとその土地ならではの知を組み合わせた「ヒントライブラリー」のような本棚が、今後も各地で生まれていくことでしょう。
◆メンバーが選ぶヒントライブラリー「推しの三冊」
小島伸吾さんの三冊:
ジョセフ・キャンベル『神話の力』
寮美千子『空とぶ鉢:国宝信貴山縁起絵巻より』
小松和彦・栗本慎一郎『経済の誕生』
「あらゆる発想のヒントは「物語」にあります。「物語」の母型は神話であり、ビジネスや商品の原型は神話から生まれているのですね。お伽噺や昔話の中にも、交換や贈与、経済のモデルが詰まっています」
久野美奈子さんの三冊:
岡田美智男『弱いロボット』
宇田川元一『他者と働く-「わかりあえなさ」から始める組織論』
田村一二『茗荷村見聞記』
「いつの間にかそこにあるような気がしている、誰が引いたのかもわからない境界線があるならば、超えていけばいい。そんな3冊です。ヒントライブラリーでは 「そもそも」を考える時のヒントになるような選書を心掛けました。なぜこの本がここにあるんだろう?とリバースエンジニアリングしていただけると嬉しいです!」
石黒好美の三冊:
鴻巣友季子『翻訳教室 はじめの一歩』
小川三夫『棟梁』『スペクテイターvol.33 クリエイティブ文章術』
「「本を読むとは、本の内容を心の中で書き換えていくこと」という鴻巣友季子さん。身体ごと受け継ぐ棟梁の知。場の熱気や息づかい、緊張感や美空ひばりの肉声までもが立ち上がる松岡正剛による渾身のインタビュー記事。正解を求めるのとは逆の発想、AIには叶わないものの中に残されている広大なフロンティアを実感する三冊です」
石黒好美
編集的先達:電気グルーヴ。教室名「くちびるディスコ」を体現するラディカルなフリーライター。もうひとつの顔は夢見る社会福祉士。物語講座ではサラエボ事件を起こしたセルビア青年を主人公に仕立て、編伝賞を受賞。
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コメント
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2025-07-01
発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。
2025-06-30
エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。
2025-06-28
ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。