セイゴオほんほん 2020夏、エディットタウンが誕生する

2019/09/12(木)23:28 img
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◆2020年夏から21年春にかけて、埼玉県東所沢の1万2000坪の敷地の一角に「角川武蔵野ミュージアム」が姿をあらわしていく。敷地内には角川グループの一部も引っ越す大型建物も出現し、ホテル、ホール、書店、オンデマンド印刷所、流通拠点もできる。角川歴彦の乾坤一擲なのである。

 

◆ミュージアムのほうはまだ詳しい中身は喋れないが、既存の図書館・博物館・美術館の概念を壊して新たな複合と融合をはかってみたものだ。まあ、書籍、アート、アニメ、博物展示、商品、フィギュア、連想検索システム、VR、飲食、体験学習、ラノベ=マンガ閲覧スペース、武蔵野ギャラリーなどを、自由気儘に組み合わせた複合文化施設だと思ってもらえばいい。すでに隈研吾の多角形の設計は了って、いま鹿島による建設の仕上げに向かっているが、なかなかおもしろい形象と構造になっている。

 

◆ぼくは荒俣宏らとともにこの複合ミュージアム施設の構想から参加していたが、いまはミュージアム館にフロアー展開する「本の森/本の街」づくりにとりくんでいる。4階だ。世界中のどこにもない「本棚劇場」と、本が賑わう「エディットタウン」(ET)とを組み上げることにした。

 

◆本棚劇場には、角川書店のこれまでの主な刊行図書と角川文化財団の蔵書のほぼすべてが入るのだが、たんに本が並ぶのではなく“IT時代のイニゴー・ジョーンズ”の世界劇場はかくやあるべしというような、いわば「本のパフォーマンス」が愉しめるようになるだろうものを用意する。ちょっとしたブック・プロジェクション・マッピングも見せる予定だ。

 

◆一方、ETのほうはかなり斬新で、かつ賑やかだ。いくつもの本棚が構成するブックストリートになっていて、本棚が見せる書街・書域・書区・書段・書列が街区のように展開する。本とそれにまつわる知的情報と付加情報が興味津々に出入りしているストリートをゆっくり歩いてもらえば、それだけで本の試食や味見ができるようになっている。いわば「本の仲見世」「本のピカデリーサーカス」「本の屋台村」なのである。“継読”や“連読”もおこるはずだ。

 

◆4階には荒俣君による博物室「ウンダーカマー」(驚異の部屋)や、高橋コレクションを中心にした現代日本アートのギャラリーも出現する。3階にはアニメやサブカル売り場が、5階には武蔵野界隈やカフェもお目見得する。

 

◆ぼくは長らく「本は交際である」「読書は編集である」「編集は乗り換え・着替え・持ち変えである」と言ってきたが、エディットタウン(ET)では従来型のじっくりした読書ではなく、来館者が好き勝手な連想読書体験のスピードに乗れるようにしたいと思っている。だから当然、ここではこれまでの図書館や書店からはおよそ想像がつかない独特のコンテキストによる「文脈棚」が出現する予定だ。千夜千冊にもとづいたエディションが反映し、そこから多様多彩な連想に向けてさまざまに遊べる本の並びによる文脈(シナリオ)も用意する。

 

◆いま現在は、それらのための選書作業に大わらわだ。9ブロック(書区)のETなので、7人のブックディレクターに数人ずつの選書スタッフがそれぞれ張り付いて、口角泡をとばしてやっさもっさ、ユニークな棚組を準備してくれつつある。選書のプロ何人かやイシス編集学校の師範から選抜したチームだ。太田香保と和泉佳奈子が仕切ってくれているが、ぼくも大中小の注文を出しているので、長時間にわたるミーティングは戦場になる。というわけで、ETは痛快で、かなり前代未聞のものになるだろうと思う。

 

◆いまさら言うまでもないだろうが、どの棚も、文学・自然科学・社会思想・実用書・医学などというふうには分かれないのだ。心のいきさつと脳科学と現代小説とAI本が組み合わさり、遺伝子やオスとメスの進化や昆虫の本を追っていくと王朝の古典や恋愛本に辿りつき、ベートーベン本やヴァレリー本から小林秀雄やジュネや片山杜秀を通ってリルケや谷川俊太郎や川上未映子に抜けていく。世界史の本のあいだにはロラン・バルトやバルガス・リョサや諸星大二郎が挟まれる。そんな感じなのだ。複本(ダブリ本)もいとわない。漱石やエーコはいろんな棚に顔を出すわけなのである。

 

◆本棚はお喋りでなければ、おもしろくない。リミックスじゃなければ、本棚じゃない。「読相術」が動かなければ、ブックコモンズじゃない。いずれまた途中経過を洩らしたい。以上、やや早めの予告のお話でした。

 


2019・9・12(木)

  • エディスト編集部

    編集的先達:松岡正剛
    「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。

コメント

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川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。

堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。