マンガにおける短詩系文学といえば四コママンガということになるだろう。四コママンガに革命をもたらした最重要人物の一人である相原コージは、そのものズバリ『漫歌』をものした。
過激でかわいい-その小さな花瓶の向こうから、ドイツの極厚な「組み合わせ」編集が浮かび上がってきます。51期[守]師範が、型を使い数寄を語るエッセイシリーズ。第6弾は、阿久津健が「ファットラヴァ」を語ります。51[守]は、5月8日(月)開講に向け最終募集中です。ラディカルに読みチャーミングに書く編集稽古。まだ間に合います。
可愛らしいその花瓶は、過激な実験体でもある。「習作」のまま、「組み合わせ」のまま、「プロセス」のままで、そこにある。自室の本棚に飾られたいくつかの「ファットラヴァ(FAT LAVA、肥えた溶岩の意)」は、デザイン学生による課題作品のようにも見えた。

▲大胆な色づかいと岩肌の釉薬とモダン寄りの形態が、不思議に可愛い
ファットラヴァは、戦後ドイツの窯業の復興の中、60~70年代頃に生産された日用品の陶器群だ。奔放な彩色や厚い釉薬が特徴の「花瓶」が、話題や収集の対象となることが多い。釉薬を見立てた「肥えた溶岩」というネーミングは、2000年以降に与えられたもので、再評価のメトリックはまだ定まり切っていない。ファットラヴァは、組み合わせの試行によって出来ている。同じ鋳型であっても、いくつもの色合わせのヴァージョンがある。極厚の釉薬が表層を覆いながら、隠した輪郭の存在をかえって際立たせてもいる。日常の道具としての気軽なモードを感じさせながら、手を伸ばせば無骨でプリミティブな「溶岩」の、ザラザラゴリゴリとした重厚な手触りがある。組み合わせられた形状と色彩とテクスチャは、ときに対峙しときに調和する。
▲溶岩のごとき釉薬。図版に赤・黒系の釉薬が多いのは、筆者の数寄による偏りである。実際は赤、オレンジ、黄、緑、青、紫、白黒と多彩
デザインの各要素を小さな単位に分節化し、再び関係づける明晰さは、バウハウス(1919~1933)このかたドイツに底流するデザイン・リテラシーが支えている。初期バウハウスの陶芸科を率いたゲルハルト・マルクスがドイツ窯業に影響を与えた。同校のイッテンやアルバースらの基礎教育における、素材や色彩の組み合わせの演習も、小さな陶器に重ねたくなる。バウハウスは、モダンデザインへの志向で知られるが「自らの手で試してみる」実践学習のモデルとしても現代に大きな影響を残す。
▲イッテンが提案する25マスの色の相互作用を検討するための練習(筆者による習作)
組み合わせの試行錯誤が、そのまま掌に収まるような小さな花瓶は、ここイシス編集学校の稽古で生まれる「回答」にも似ている。編集稽古では、バウハウスの実践やファットラヴァの実験のごとく、情報の「分節化と関係づけ」を手と頭を動かして学んでいく。間もなく開講する第51期[守]講座のお守りとして、筆者のデスクの傍らに花瓶をひとつ置き直した。青の釉薬と赤の溶岩釉薬が、色の対比、フォルムの対比、テクスチャの対比、地と図の関係を成している。「分節化と関係づけの冒険モデル」は、情報の森に迷ったときの道標にもなるだろう。
バウハウスでは、教師が己が思想を説くのではなく、実践によって学生自身が気付きを得ることを是としていた。イシス編集学校の師範代もまた、教えないことで情報編集術を学衆へと手渡す。[守]講座で取り組む「38のお題」は、ファットラヴァのような「組み合わせの実験器」となって多様な習作を送り出すだろう。ときに過剰な釉薬による偶然にだって期待したい。
(文・写真・アイキャッチ/51[守]師範 阿久津健)
阿久津健
編集的先達:島田雅彦。
マクラメ編み、ペンタブレット、カメラ、麻雀、沖縄料理など、多趣味かつ独自の美意識をもつデザイナー師範。ZOOMでの自らの映り具合と演出も図抜けて美しい。大学時代に制作した8ミリ自主映画のタイトルは『本をプレゼントする』。
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コメント
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