★祝★一倉師範代、五七五で新人賞!

2024/03/04(月)12:00
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 ホトトギスが一倉広美師範代を言祝いだ。51[破]マラルメ五七五教室の師範代、一倉に日本伝統俳句協会新人賞が贈られたのである。

 

 日本伝統俳句協会は、明治の俳人高濱虚子の孫、稲畑汀子が虚子の志を現代に伝えることを目的に設立した団体だ。正岡子規から俳誌『ホトトギス』を引き継いだ虚子が目指した、季語を季題として句に織り込む「有季定型」、そして、自然や日常をデッサンする「客観写生」を特徴とする。

 

「季節は詠まれたがっています。時節のアフォーダンスを問いとして、その「存問」、お題に答えるのが虚子の俳句です」。伝統俳句の守り人的存在である日本伝統俳句協会、その協会の新人賞という栄誉に浴した一倉はそう語る。


          ~◎~


 一倉と俳句の出会いは10年前に遡る。2014年、IT企業での変わらぬ毎日に、一倉は笑いを欲していた。とにかく笑おうと訪れた落語で「俳句」と出会い、一気呵成に句会に入会した。街に出て見たまま感じたままを俳句にして批評し合う句会でその面白さに目覚める。

 

 さらに句心を高めようと始めたのがイシス編集学校、2021年の秋のことである。編集術にのめり込み、[守]から[破]へと進み、突破して迎えた感門之盟。学衆インタビューで、仕事のこと、俳句のこと、そして、編集稽古について語った直後、松岡校長が近づいてきてこう語りかけた。

 

「俳句は続けたほうがいいね。ITの仕事をしているとデジタルのルールで生きてしまい気づかないうち病んでしまうことがあるから」

〈突破者が書く!第3弾〉【79感門】ことことと俳句がつなぐイシスの和(一倉広美)

 

 俳句のために編集術が必要だと確信しはじめていた一倉は、松岡の言葉に背中を押され、花伝所に進む。そこで学衆を稽古の虜にする師範代の秘密に触れ、放伝するとその足で51期[守][破]の師範代に。数寄なものを見つけた時の一倉は止まらない。

 

 その間、句作も進め賞への応募も続けていた。松岡校長は「忙しい時ほど仕事を5倍にしろ」と言うが、数倍の仕事に相当する[破]の師範代登板中は、7年続けてきた日本伝統俳句協会賞エントリーは見送るつもりだった。

 

 エントリー締切まであと5日となる11月25日。師範代のための勉強会「伝習座」が開催される。編集術レクチャーと仲間との交わし合いが、なかばあきらめかけていた賞エントリーの意欲をかき立てた。

 

 とはいうものの、エントリーに必要な三十句もの備蓄はない。そのときに詠めるのは2023年に打ち込んだ師範代の活動だった。ロールを投影し、本と人とのあわいに生まれるプロフィールを詠んだ。

 

 タイトルは、作品の境界を決めるワールドモデルそのものだと一倉は言う。[破]の稽古は本と学衆とのインタースコア、その間にある「栞紐」に託して客観写生したのがエントリー作品というわけだ(以下「栞紐」三十句より五句引用)。

 

うすらひに透けて深紅の栞紐  ※1
受験子の鞄にコナンドイル哉  ※2
積まれたる書類に眠る春の猫  ※3
花守はボードレールの詩集手に ※4
貸本に秋思の黒線引いてあり  ※5

 

「うすらい(薄氷)の下に何やらちぎれた栞紐のようなものが見える。超部分から読む人なりの連想が広がりますように、と(※1)。
 受験子は春の季語。読書好きの鞄の中は参考書ばかりではない。同期の本間裕師範代(ホンロー・ウォーク教室)から、『指南には『緋色の研究』のアケとフセ』と諭されたことを詠みました(※2)。
 積まれたる書類・・・これは師範代活動で溜まりに溜まった『千夜千冊』のプリントアウトです!(※3)
 花守は「花見客の護衛」のことで春の季語。花伝所と守の番選ボードレールのイメージを漂わせました(※4)。
 編集学校の人なら本に引かれた『黒線』わかりますよね。松岡校長のマーキングです!(※5)」

 

 かように多種多彩な師範代の日々を詠んだ三十句。本と人との間の馥郁たる関係を描きつつ、その実、編集学校の世界観を伝える作品に仕上がった。

 

 [守]の五七五クノー教室、[破]のマラルメ五七五教室。教室名に含まれる『五七五』は、感門之盟でのエピソードを受け、松岡校長が一倉に贈った期待である。一倉は当初、アマチュア俳人だからと悩んだ。しかし、教室名という松岡校長からのお題によって、数寄を背負って師範代として立つ覚悟が決まったと語る。

 

「俳句をはじめて10年。よくわからないままに進んできたけれど、気づきが訪れることがある。その目に見えない成長に意味があると思っています。

 編集学校を続けている理由、師範代をする理由も同じです。『時間ができたら……』と先延ばしにしても、いつまでもその時は来ない。編集術をつかもうと思ったら歩きつづけるしかありません。
 師範代をやっていなかったら、日本伝統俳句協会賞エントリーも新人賞受賞もできませんでした」

 

 子ども編集学校や書店での俳句ワーク、月一の句会など、編集学校、編集仲間からのリクエストには全力で応える。イシスは自身の編集力を高めてくれる、という思いからだろう。「栞紐」で一生に一度の新人賞を手にした師範代は、野望を抱え、この春イシスの最奥へと一歩踏み出す。師範代になったら欲しいものが手に入った。

 

「師範代が増えると世の中はもっとおもしろくなる」。

 

 離への志望動機に書いた言葉に嘘はない。たくさんのエールが一倉を未知へ送り出す。

  • 白川雅敏

    編集的先達:柴田元幸。イシス砂漠を~はぁるばぁると白川らくだがゆきました~ 家族から「あなたはらくだよ」と言われ、自身を「らくだ」に戯画化し、渾名が定着。編集ロードをキャメル、ダンドリ番長。

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