稽古も仕事も全ては仮留め――瀧澤有希子のISIS wave

2024/03/10(日)08:00
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イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。

 

瀧澤有希子さんは常に「忙しさ」と共にある。でも、そのためにやってみたいことを諦めたくはない。そう思ってイシス編集学校の門を叩いたが、かといって忙しさが減るわけじゃない。稽古と多忙な日々。その折り合いを付けながら、瀧澤さんは今日も編集稽古にのぞむ。

 

イシス受講生がその先の編集的日常を語るシリーズ、「ISIS wave」の第25回は、瀧澤さんの「時間編集」をめぐるエッセイです。

 

■■「破」で身につけた時間編集


伝えたいことは言葉を尽くさないと伝わらない、と思い始めたのが、20代初めの頃。それから「言葉」というものが頭の片隅にいつもあった、ような気がする。回りくどくなったり、早口になったり、概念的な言葉を使いすぎたり、尽くそうとすればするほど伝わらないことも結構あった。言葉だけではない何か。見え方、捉え方、受け取り方、そうしたものも、もっと工夫しないと通さないよ、と行く手を阻む。
ISISの編集術は伝え方のあれこれが整然と並んでいるようなわかりやすさがあった。突破して、今、自分の文章に使えているかと言えば、そうではなく、自分からまま出てくる言葉が、どの編集術を使ったらより伝わりやすくなるのか、使いこなすには、まだまだ道は長そう。
そうはいっても、[守]と[破]を歩いてきて、得たものはたくさんある。思いつくだけでも、時間の捻出方法、手放し、書き直し。
稽古は、いつも時間が足りなかった。十分時間をかけたと納得して出せたものは、殆どないと思う。書籍、お題、他の学衆さんの回答、指南。さざめきながら、止むことなく寄せてくる大小の文章の波に圧倒された。


携わっている貿易の仕事は、締め切りが多い。出荷方法も海上、航空、国際宅配便、出張者託送とその都度違う。それが何件か重なることもある。日程の調整、商品調達の社内調整、売上げの記録、採算の確認、支払・入金の確認…それらが平行して進む。オンラインショップの管理など細々とした対応が必要なものもある。
残業しない工夫が始まり、朝の始業時、Outlookに一日の予定を全部入れることにした。それを守り、予定内にできなかったものは、緊急でなければ翌日に持ち越す。ただそれだけのことだったけれど、手をつけたことをその日の内にやり終えようとして、平行している他の業務が遅れた結果の残業、という流れが格段に減った。1日が全体的にはかどり、気持ちも軽くなった。

 


▲瀧澤さんのToDoリスト。時間編集のコツだ。

 

かつては、一度書いたものを手直しすることには強い抵抗があった。[守]の時は、そのままの姿勢でどうにか卒門したものの、それではISISの門を叩いた目的が果たせない。[守]の頃から飛び交っていた「仮留め上等」の言葉に励まされ、[破]では、「カット」と指南が入れば、カット、「書き直し」と言われれば、書き直しも直ぐに取りかかった。全ては仮留め、そう思えるようになったことは、ISIS以外の日常にも軽やかさをもたらしてくれていると思う。
今は、編集の海の中で何の目印もなく漂っているような心境だけれど、傍でちゃぷちゃぷと控えめに存在を示してくれているお題たちが、波を立て、今ここで使って、と名乗りを上げてくれるようになる日を楽しみに、仮留めを投げ続けていきたいと思う。

 

主体性や自己一貫性といった近代的思考を打破する方法として「仮留め」が重要なのだと松岡正剛は書いています。ベースからターゲットの波間で揺れる仮留め=プロフィールは、覚束ないかも知れないけれど、そこに向かうことこそ「書く」ということなのでしょう。それにはまず、取り組むこと。そして手放すこと。直すことを厭わないこと。瀧澤さんの得た「時間編集のコツ」は、「書く」ことに真摯に向きあったからこその副産物なのかもしれません。


文・写真/瀧澤有希子(48[守]オリーブなじむ教室、50[破]モーラ三千大千教室)
編集/角山祥道


  • エディストチーム渦edist-uzu

    編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。

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